第33話 四年ぶりのピクニック
「レオンハルト!」
アーロンが、奥に立つ大きな木の下から手を振っている。
僕とレオンハルトは、彼のもとへと近づいていった。
「アーロン、早かったな」
「フェルナー法務官とカーヴェル副院長もいるぞ。ヴォルン院長は念のため、今日は遠慮するそうだ」
「そうか」
レオンハルトの目が真剣味を帯びる。
僕は今日、任務のために彼に同行していることを、嫌でも思い出させられる。
気を引き締めた。
「リオネルさま……でいらっしゃいますか?」
アーロンの後ろから、僕を呼ぶ声がした。
髪と目の色を変え、女装している僕を見て驚いているようだ。
万が一、知り合いがいるといけないので、ハンカチを口元にあてている。
「メアリー? 懐かしいな」
「リオネルさま……またお会いできて光栄です」
メアリーだった。
メイド服に身を包み、僕を見つめ涙を浮かべている。
「メアリー特製の洋ナシデザートがたくさんあるぞ。リオネルが好きだと教えたら、いろいろな種類の洋ナシ料理を作ってくれたんだ」
アーロンが自慢げに説明する。
昨日と違って、どこか浮き立つような、とてもうれしそうな表情だ。
「それは楽しみだ。メアリー、どうもありがとう」
「いいえ。リオネルさま……お元気そうで何よりです」
メアリーが懐かしそうに僕を見つめる。
「パパー! ママー!」
リオンが飛ぶように駆けてきた。
「おや? 君がリオンか? 本当だ……二人によく似ているな」
アーロンがリオンをじっと見つめる。
しまった。
彼は高位の魔法使いだ。
僕とレオンハルトの子供だと気づかれたら――。
「この子は魔法の匂いがするな。何か術を?」
「……っ!」
「どんな魔法だ?」
「軽いものだよ。この子を守るための術だ。心配ない。生まれてすぐに、かけられたようだ」
「では、リオンの本当の親がかけたのだろう。愛されていたのだな」
二人の会話を、僕は胸をドキドキさせながら聞いていた。
「レオンハルト! リオネル!」
ちょうどその時、カーヴェル副院長とフェルナー法務官が現れた。
僕とレオンハルトは挨拶を交わす。
アーロンもそこに加わり、世間話が始まった。
よかった。
ほっと胸を撫でおろす。
アーロンが指摘したのは、リオンの髪と目の色を変えている魔法のことだ。
誰にも気づかれないよう、高度な魔術を幾重にも施してある。
それでも、アーロンのように優秀な魔法使いには一瞬で見抜かれてしまったらしい。
「ママー、おなかすいた」
リオンが声を上げた。
「おや? リオンはママに似て食いしん坊だな」
レオンハルトがすかさず言った。
「ぼ、僕は別に……」
「おいしいものには目がないくせに。メアリー、食堂から買ってきたごちそうがある。並べてくれ。みんなで食べよう」
「はい。レオンハルトさま、いただきます」
「おいおい、メアリーが作った特製ケーキも食べてくれよな。食堂の主人に負けない味だぞ」
アーロンはメアリーの料理がそうとう気に入っているみたいだ。
彼の方が僕より食いしん坊なのにと言ってやりたいけど、そこは黙っておいた。
「わかってるよ。さあ、リオネル、リオン。そこに座って」
「はい」
「はーい!」
ピーチュルルル――。
空はよく晴れていた。
コマドリも、うれしそうにさえずっている。
僕たちは束の間の家族として、四年ぶりのピクニックを楽しんだ。
***
食事が進み、メアリーの洋ナシパイを食べ終えた頃。
レオンハルトは、賑やかな空気の中でふと視線を遠くへ向けた。
その目は、先ほどまでリオンを見守っていた優しい父親のものではない。
かつて聖騎士を志していた頃の鋭さを宿していた。
僕は改めて気を引き締める。
「少し散歩してくる」
そう言って、彼は席を立った。
「僕もー!」
「リオンはもう少し、パイを食べようね」
ついて行こうとするリオンを抱き留め、レオンハルトの後ろ姿を見送る。
アーロンたちは見て見ぬふりをしていた。
だが、その場にいる誰もが同じ緊張を抱いていることが伝わってくる。
――レオンハルト、気をつけて。
空気が張り詰めていた。
心の中でそう呟きながら、彼の無事を祈った。




