第32話 家族のふりをして
食事を終えた僕とレオンハルトは、同じ馬車に乗って教会へ戻った。
帰り際、食堂の店主が昨夜のことを謝りに来た。僕とレオンハルト、そしてリオンを家族と勘違いした件だ。
「神父見習いの服装だったのに、まったく気づきませんでした。お二人によく似たお子さんをお連れだったので」
その言葉を聞き、背筋が震えた。もっと用心しなければと思った。
そこで僕は、明日のピクニックには髪と瞳の色を変えて行くとレオンハルトにすぐに提案した。
「私もそれを考えていた。リオネルの髪色は目立つからな。リオンと同じ色にするといい」
「同じ色……」
リオンの本来の髪と瞳は、レオンハルトと同じハシバミ色だ。
魔法で黒くしていなければ、レオンハルトの子供だとすぐに気づかれていたにちがいない。
リオンは僕にも似ている――。
よく考えた末、僕はリオンと同じ黒ではなく、ハシバミ色より濃い茶色の髪と瞳に変えることにした。
「おお、その色なら地味で目立たない。首都でもよく見るカラーだ」
レオンハルトも賛成してくれた。
その晩、彼は教会のゲストハウスに泊まった。
翌日、レオンハルトは用意してきた服を僕に渡した。
紫色のドレスと、共布で作られた大きなリボンのついたボンネットだった。
「これを……着ていくの?」
「念のため女装したほうがいいと、カーヴェル副院長に言われた。彼女の服だ」
「……そうだね。セラフィオンでは、舞踏会やパーティーにはドレスを着ていったものね」
「そのほうが素性を隠せる」
「わかった。着ていくよ」
カーヴェル副院長のすすめでという点が気になったが、その場で承諾した。
僕がドレスに着替えると、リオンが目を輝かせた。
「わーっ! ちれい! ちれい!」
「だろ? リオン、今日だけリオネルを“ママ”って呼んでくれ。いいかな?」
「……うん」
僕の顔を確かめるようにして返事をするリオン。
こんな小さな子に嘘をつかせるなんて――胸が痛んだ。
「リオン、ピクニックに行くぞ! ごちそうもたくさん持ったし」
「ピクニ……?」
「そうだ。人がいっぱいいるぞ。草の上で思いきり走れるぞ。小鳥もたくさん鳴いている」
「コマドリも?」
「ああ。いっぱい、いるぞー!」
「やったー!」
リオンははしゃぎながら、レオンハルトと馬車に乗り込んだ。
生まれて初めてのお出かけに、胸を躍らせている。
「…………」
リオンが“家族”でピクニックに――彼らを追い掛け馬車に乗り込む僕の胸中を、複雑な想いがよぎった。
***
「あーっ! きゃーっ!」
初めての馬車に、リオンは興奮しっぱなしだった。
窓から外を見ては奇声を上げ、やがて疲れ果て、レオンハルトの膝の上で眠ってしまった。
「ピクニックに行く前から、これじゃあ」
「朝が早かったからな。リオネルも寝ていくといい」
「僕は大丈夫です」
「昔はよく、疲れて寝込んでいたじゃないか」
「あ、あのころより……体力はあります」
レオンハルトと二人きりの空間は、どうにも落ち着かない。
リオンがいてくれてよかったと、心から思った。
***
馬車は、ピクニック会場である軍司令部裏の草原に到着した。
ところどころに大きな木があり、その下で人々がシートを広げ、お茶や食事を楽しんでいる。
中央には池があり、草が生い茂っていた。
「予想どおり、良い天気だ」
チュリー、チュルチュル、チュリリリ、チュリチュリ――。
「わーい!」
コマドリの声を聞いた途端、リオンは馬車から飛び出していった。
「リオンは足が速いな。体もしっかりしている。あれでオメガなのか」
「ぇっ……?」
「リオネルの教会はオメガ専用だろ? 神父さまも孤児たちも。今はオメガバースの判定は、生まれてすぐにできるのだろ?」
「あ、あの……はい。そうです」
リオンは実はアルファだ。
あるていどの年齢になったら、手放さなければいけない。
「オメガでも才能がある者は聖騎士になれる。そんな社会を作っていきたいんだ。私に……リオンの騎士としての教育を任せてくれないか」
「……っ!」
レオンハルトの目は真剣だ。
僕は「神父さまに聞いてみます」とだけ答えた。
胸の奥がどくどくと脈打つ。
どうか――リオンがレオンハルトの子供だと、絶対に気づかれませんように。
ただ、それだけを願った。




