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北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第5章 証拠なき冤罪

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第30話 副院長の影

「アーロンがリオンに会う必要はなかろう。私の息子なんだから」


「ええっ!」


「……っ!」


レオンハルトはいったい、なにを言い出すんだろう。

僕は顔を真っ青にして、両のこぶしを握りしめた。


まさか、気づかれてる?

背中に一筋の汗がつたう。


「リオンが私をパパ、パパと慕うから、そういうことにしておいた」


「なんだよ。てっきり見習い時代の隠し子がいると思ったぞ。まあ、おまえに限ってそんなことはないと信じているけどな。ねっ、リオネル」


「ぇっ……? は、はい」


突然話を振られて驚く。

青い瞳が意味ありげに僕を見る。


「リオネルが不安になるだろ。そういう冗談はやめておけ」


レオンハルトが言った。


「知らない方が不安になるってこともある」


「この話はもう終わりだ。リオネル、送っていこう。その前に近くで食事をしよう」


「そういえば腹が減ったな。二人は昼食抜きでがんばったからな。よし! おれのおごりだ」


「アーロンは誘ってない。家に帰ってメアリーの手料理を食べろよ」


「メアリーは今日は家にいない。カーヴェル副院長の家に帰った」


「えっ? メアリーってメイドの?」


思わず二人の会話に口を挟んでしまった。

メアリーは、レオンハルトの家のメイドだった女性だ。


「そうだ……私の家の従業員たちは全員、知り合いの家に雇われている。四年前、メアリーはアーロンの家に行った。今回、私たちに同行している」


「私たち? レオンハルトはアーロンと同じ家に?」


「そうだ。メアリーはカーヴェル副院長の家に住み込みで働きながら、アーロンの面倒を見ている」


考えてもみなかった。

レオンハルトはてっきり、四年前まで住んでいた監査院の寮に住んでいると思っていた。

では、レオンハルトはすでにアーロンと――。


「あの……メアリーはどうしてカーヴェル副院長の家に?」


そこがいちばん疑問だったから、気を取り直して質問した。


「メアリーを僻地まで同行させることに、アーロンの家族が反対したからだ。同じ女性であるカーヴェル副院長の家で働くことで、納得してもらっている」


「そうでしたか」


不思議な話だ。アーロンはどうしてメアリーを同行させたんだろう。

お気に入りのメイドなのだろうか。


だけどメアリーはベテランではなく、若くてかわいらしいベータの女性だ。アーロンの家族が反対するのも理解できる。

でもアーロンは婚約者レオンハルトと一緒に暮らす身だ。

ベータのメイドにそこまで気をつかうだろうか。


あっ、そうか。肝心なことを忘れていた。

レオンハルトとアーロンがルクス神学院の同級生なら、二人ともアルファだ。だからか。万が一、間違いがあっては困るから。


それにしても――アルファ同士の婚姻。

めずらしい。

人数が多いベータはともかく、アルファとオメガの同じ属性同士の結婚は、互いが深く愛し合っていないとなかなか成立しないと聞く。


「でも、カーヴェル副院長は女性ですが、アルファなのでは?」


高い地位にいる人間は全員アルファだ。

あまり質問するとリオンのことも追及されそうだけど、気になるので訊いてみた。


「カーヴェル副院長は異性愛者だから大丈夫だ。フェルナー法務官は寮に住んでいるし」


レオンハルトとアーロンも同性愛者なのだから、メアリーと住んでも問題ないように思えるけど――男性のアルファは用心深いのだろうか。


「んっ? フェルナー法務官?」


「あれ? リオネルは知らなかった? 彼らは恋人同士だ。表向きは隠しているけどね」


アーロンがしれっと答える。


「そ、そうでしたか」


「ちなみに……ルクス神学院でレオンハルトの親友だったおれがリオネルと初対面なのは、おれが卒業式を待たずに隣国へ魔法使いの修行に出たからだ。禁忌の魔法を使ったことが万が一バレるとまずいから、一時避難のつもりでね。


二年後に帰ってきたらこんな事態になっていて、びっくりしたよ。

そうだ! メアリーに会いたければ、おれたちの家においでよ。彼女もなつかしがるんじゃないかな」


「はい……」


レオンハルトとアーロンの事情はわかったけど、カーヴェル副院長の存在が気になった。

専用のメイドを預けるくらいなのだから、親しい間柄なのだろう。

だけどレオンハルトの口から、彼女の話を聞いたことはいままで一度もなかった。


「カーヴェル副院長は……六年前、私がここノルディアに監査官見習いとして来ていたころから、この地に勤務していたんだ。四年前、ともに首都セラフィオンへ帰還したのだが……私の父上の失墜により、またこの地に戻された。私たちの中で、彼女がいちばん北方領ノルディアに精通している」


納得できない様子の僕に、レオンハルトがさらに説明を加えた。


一緒に帰京するなんて、カーヴェル副院長はレオンハルトと、そんなに縁のある人物なのか。

彼女はまた、レオンハルトの父親ヴァルター公爵とも関連があるようだ。


なぜカーヴェル副院長は、レオンハルトの子供時代の姿を知っているのだろう。

だとしたら、副院長が孤児院の支援を確約してくれたのには、なにか裏があるのかもしれない。僕と距離を置いていた理由も気になる。

リオンがレオンハルトの子供だと気づいたから、とか――。


僕は頭をブンブンと振り、怖い考えを追い払う。

カーヴェル副院長は女性だけあって、鋭い感性の持ち主なのだろう。

教会担当部署の長なのだから、僕の背景を知っていて当然だ。同情して孤児院の件を快諾してくれたのだろう。距離を取っていたのも、レオンハルトの関係者だから用心していたのかもしれない。


二人は首都セラフィオンで育った貴族だ。互いの名前や容姿を知る機会があって当然だ。

彼女がレオンハルトの子供時代を知っていても不思議ではない。


「…………」


それでも、僕の心にはナニか引っかかるものがあった。


やっぱり、彼らの関係性が――すごく気になる。

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