第29話 暴かれる真実と揺れる心
僕とレオンハルトはアーロンが居た部屋へ移り、元の帳簿を復元する作業をすぐに始めた。
大きな机に広げた財務監査報告書を見ながら、僕が記憶を頼りにもとの数値を読み上げる。
レオンハルトはそれを手早く、新しい報告書へ書き写していった。
「さすが光の君だ。どうやって暗記を?」
そばに立つアーロンが興味津々に尋ねてくる。
「暗記というより……一度見たものの記憶が、一定期間消えないみたいです。特に数字が」
「すごい! だからレオンハルトも勉学では勝てなかったんだな」
「アーロン、やめろ。それと“光の君”もやめろ。名前で呼べ。そして、さっさと財務監査報告書の魔法を解け」
レオンハルトが強い口調で注意した。
「はいはい、わかりましたよ。この冊子には高度な魔術が使われているから、解くには時間が必要だ。毎日解除魔法をかけ続けるしかない。やれやれ……赴任したばかりなのに、他の仕事ができないよ」
アーロンは立ったまま報告書に魔術をかけ始めた。
さすが高位の魔法使いだ。僕の体にまでビリビリと魔法の震動が伝わってくる。
「リオネル、大丈夫か?」
レオンハルトが僕とアーロンの間に移動し、魔法の余波を遮った。
「……すみません」
レオンハルトはいつでも僕に優しい。
だけど、婚約者の前でこんなふうにしていいのだろうか?
でもアーロンはまったく気にしていない様子だ。
二人の関係は、とてもさっぱりしているように見える。
僕はレオンハルトしか好きになったことがないから、他人の恋愛がよくわからない。
それに事故番だから、レオンハルトは僕に恋愛感情はない。
彼の本来の愛情は、こんなふうに割り切ったものなのだろうか。
それが少し不思議だった。
***
丸一日かけて作業を終えた。
「ふーっ……二人の集中力、すごいな。おれなんか途中で何度も休憩したり、さぼったり、散歩に行ったりしたのにな」
「今の話の中に聞き捨てならない部分があるな。魔法院に報告してアーロンの給金を減俸してもらおう」
「あいかわらず冗談が通じない男だな。おれが禁忌の魔法を仕掛けたから、無事に番えたこと、忘れるなよ?」
「おい! あれはおまえが勝手にやったことじゃないか」
「そうだ。だが、おれはそのことでレオンハルトに貸しができた。破産したら、それをネタにゆするからな」
「ゴホンッ! リオネルの前で物騒なことを言うな。神父見習いなんだぞ。彼はそういう冗談に慣れてないんだ」
「冗談じゃないぞ。リオネルの知らない真実だ」
「わああー! リオネル、疲れただろう。報告書は無事復元できたから、今日は帰ろう」
レオンハルトがひどく慌てている。こんな彼は初めて見る。
アーロンには、昔からこういう姿を見せてきたのだろうか。
「二人は……すごく仲がいいんだね」
うっ、なんだかイヤミっぽいことを言ってしまった。
僕らしくない。
いや、これが本来の僕なのかもしれない。
もしくは――嫉妬で気がおかしくなっているのかも。
「ルクス神学院では親友だった。婚約は自分たちで決めた」
「……っ!」
アーロンの口から、意外な事実が飛び出した。
胸がざわざわする。
こんな未来、想像していなかった。
「たがいの利害が一致したってやつかな」
「アーロン……その話はおいおいでいいだろ」
「ところでレオンハルト、カーヴェル副院長から聞いたぞ。リオンって子供のこと」
「えっ?」
「おれも会ってみたいな。レオンハルトの子供時代にそっくりなんだろ?」
「……っ!」
体が硬直し、冷や汗がどっと噴き出した。
レオンハルトとリオンを会わせたことを、僕は心の底から後悔していた。




