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北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第5章 証拠なき冤罪

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第29話 暴かれる真実と揺れる心

僕とレオンハルトはアーロンが居た部屋へ移り、元の帳簿を復元する作業をすぐに始めた。


大きな机に広げた財務監査報告書を見ながら、僕が記憶を頼りにもとの数値を読み上げる。

レオンハルトはそれを手早く、新しい報告書へ書き写していった。


「さすが光の君だ。どうやって暗記を?」


そばに立つアーロンが興味津々に尋ねてくる。


「暗記というより……一度見たものの記憶が、一定期間消えないみたいです。特に数字が」


「すごい! だからレオンハルトも勉学では勝てなかったんだな」


「アーロン、やめろ。それと“光の君”もやめろ。名前で呼べ。そして、さっさと財務監査報告書の魔法を解け」


レオンハルトが強い口調で注意した。


「はいはい、わかりましたよ。この冊子には高度な魔術が使われているから、解くには時間が必要だ。毎日解除魔法をかけ続けるしかない。やれやれ……赴任したばかりなのに、他の仕事ができないよ」


アーロンは立ったまま報告書に魔術をかけ始めた。

さすが高位の魔法使いだ。僕の体にまでビリビリと魔法の震動が伝わってくる。


「リオネル、大丈夫か?」


レオンハルトが僕とアーロンの間に移動し、魔法の余波を遮った。


「……すみません」


レオンハルトはいつでも僕に優しい。

だけど、婚約者の前でこんなふうにしていいのだろうか?

でもアーロンはまったく気にしていない様子だ。

二人の関係は、とてもさっぱりしているように見える。


僕はレオンハルトしか好きになったことがないから、他人の恋愛がよくわからない。

それに事故番だから、レオンハルトは僕に恋愛感情はない。


彼の本来の愛情は、こんなふうに割り切ったものなのだろうか。

それが少し不思議だった。


***


丸一日かけて作業を終えた。


「ふーっ……二人の集中力、すごいな。おれなんか途中で何度も休憩したり、さぼったり、散歩に行ったりしたのにな」


「今の話の中に聞き捨てならない部分があるな。魔法院に報告してアーロンの給金を減俸してもらおう」


「あいかわらず冗談が通じない男だな。おれが禁忌の魔法を仕掛けたから、無事に番えたこと、忘れるなよ?」


「おい! あれはおまえが勝手にやったことじゃないか」


「そうだ。だが、おれはそのことでレオンハルトに貸しができた。破産したら、それをネタにゆするからな」


「ゴホンッ! リオネルの前で物騒なことを言うな。神父見習いなんだぞ。彼はそういう冗談に慣れてないんだ」


「冗談じゃないぞ。リオネルの知らない真実だ」


「わああー! リオネル、疲れただろう。報告書は無事復元できたから、今日は帰ろう」


レオンハルトがひどく慌てている。こんな彼は初めて見る。

アーロンには、昔からこういう姿を見せてきたのだろうか。


「二人は……すごく仲がいいんだね」


うっ、なんだかイヤミっぽいことを言ってしまった。

僕らしくない。

いや、これが本来の僕なのかもしれない。

もしくは――嫉妬で気がおかしくなっているのかも。


「ルクス神学院では親友だった。婚約は自分たちで決めた」


「……っ!」


アーロンの口から、意外な事実が飛び出した。

胸がざわざわする。

こんな未来、想像していなかった。


「たがいの利害が一致したってやつかな」


「アーロン……その話はおいおいでいいだろ」


「ところでレオンハルト、カーヴェル副院長から聞いたぞ。リオンって子供のこと」


「えっ?」


「おれも会ってみたいな。レオンハルトの子供時代にそっくりなんだろ?」


「……っ!」


体が硬直し、冷や汗がどっと噴き出した。


レオンハルトとリオンを会わせたことを、僕は心の底から後悔していた。

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