第3話 卒業
「ぁっ……また」
僕がレオンハルトをこっそり盗み見ていると、彼とよく目が合う。
……ような気がするだけだろう。
気のせいだと思う。
でも、胸が飛び上がるほど心臓がどきどきする。
僕のまわりにいる生徒たちが、「今こっち見たよね」とうわさを始める。
「いや、僕を見てた」「いや、違う」と、いつもの論争がはじまる。
レオンハルトはとても無愛想だ。
オメガたちがあからさまに好意を示すと、端正な眉をひそめてにらみつける。
それでも、彼のかっこよさは変わらない。むしろ増す一方だ。
***
『おい、知ってるか? レオンハルトは卒業後、北方領ノルディアへ監査官見習いとして赴任されるそうだ』
『そんなの嘘だ。レオンハルトが聖騎士にならずに、誰がなるというんだ』
卒業間近、僕たちは十八歳になっていた。
レオンハルトのうわさが学院中を飛び交っていた。
「レオンハルトが? 本当に?」
しかし、そのうわさは本当だった。
しびれを切らした同級生が本人に聞いたところ、彼はあっさりと監査官志望だと認めた。
さらに、好きな人がいるので聖騎士をあきらめたらしいという話まで流れてきた。
「…………」
ひどい衝撃を受けた。
僕の希望はレオンハルトだけだ。
彼が聖騎士になれば、神官として会える機会があるかもしれない。
運がよければ言葉を交わせる。
あいさつだけでもしてもらえる仲になれたら――。
そんな明るい未来が、粉々に砕け散った。
僕の恋心と一緒に。
「ううっ……」
涙をこらえきれず、走り出す。
いつも一人で行く、オメガ棟の裏にある深い森の奥へ。
ここでいつも、一人の時間を過ごす。
大勢の中で孤独を抱えるより、鳥や虫、風の音に耳を傾け、やわらかな草の上に寝転がるほうが、どれほど心が癒されることか。
「ううぅ……ぅうぅぅ……」
今日はだけど、とても悲しい。
「そうだ……」
ひとしきり泣いたあと、僕は思った。
実は僕がここに来るのには、もうひとつ目的がある。
「最後だから……」
入学してすぐのころ、僕はこの森に迷い込んだ。
そして見つけた。
レオンハルトが一人で剣の練習をしている場所だということを。
僕は森の奥へさらに踏み込む。
オメガとアルファの居住地の間には高い鉄柵がある。
その柵を挟んだ木の陰から、いつものように剣を振るうレオンハルトの姿が見えた。
「今日で……見納めか」
胸がきゅうっと苦しくなる。
はらはらと、また涙が落ちてくる。
拭うことも忘れ、美しい彼の立ち姿に見惚れる。
他のオメガたちのように、あからさまに彼を賛美できたらいいのに。
声援を送り、ちらりとでも振り向いてもらう。
眉間にしわを寄せられてもいい。
それもひとつの思い出だ。
彼がいたという事実の欠片すら拾えないまま、僕たちはもうすぐ卒業する。




