第26話 婚約者は昔馴染み、らしい
またもやレオンハルトの操る馬に乗り、僕は王国監査院別院へ向かった。
「……あの、みんなが見てるよ。やっぱりまずいんじゃない?」
「リオネルがキレイだから見とれてるだけだ。フードをもっと深く被れ」
真っ白な神父服のフードを、レオンハルトが引っ張って僕の顔を隠す。
「でも……!」
そういうことじゃないんだ。
レオンハルトには婚約者がいる。元妻とのスキャンダルは出世に響く。
首都セラフィオンにこのことが知れたら――。
「心配性だな。ヴォルン院長たちは、リオネルを助手にすることを承知している。それに、君は馬に乗れないだろ?」
「そ、それは……そうだけど。レオンハルトの婚約者が」
「彼のことは気にしなくていいと言ったろ。同僚を職場に送るだけだ。なにが悪い?」
レオンハルトが周囲をねめつけると、皆が真っ赤になって目を逸らした。
町の人々は僕に見とれているんじゃなくて、レオンハルトの勇姿を見ているだけだと思う。
「ん? あれ? レオンハルトの婚約者って……男性?」
「ああ。昔馴染みだ。リオネルも知っているかもな」
「ぇっ?」
僕がレオンハルトの婚約者を知ってる? しかも僕と同じ男――。
複雑な気分だ。てっきり女性だと思っていたから。
異性だったら、あきらめもつくのに。
あれ? でも今、昔馴染みと言った?
だとしたら、レオンハルトがルクス神学院にいた頃、結婚しようとしていた相手かもしれない。
なおさらだ――絶対に、会いたくない。
***
王国監査院別院に到着すると、レオンハルトは僕の腰をつかみ、わざわざ馬から降ろしてくれた。
「あ、あの、自分で降りられるから!」
「つい習慣で……これくらい、いいだろう? 落馬したらたいへんだ」
「だ、だれが落馬なんか……ぁっ」
いや、一度落馬しそうになったんだっけ。
まだ新婚ホヤホヤの頃で、それ以来レオンハルトは、僕が馬に乗るとき、すごく慎重になった。
「あの……送ってくれて、どうもありがとうございました」
「礼なんていいよ。敬語もなしだ。まずはヴォルン院長のところへ行こう。なにか情報が入っているかもしれない」
「うん!」
レオンハルトのあとに続き、僕は王国監査院別院の壮麗な建物の中へ入っていった。




