第24話 帰り道、揺れる心
とびきりおいしい甘い食事を終えた僕たち三人は、教会へ向かった。
結局、馬車は戻ってこなかったので、レオンハルトの馬に乗せてもらうことになった。
「明日の朝、迎えに来る」
教会の姿が見えた瞬間、レオンハルトがそう言った。
リオンは僕の胸の中で静かに寝息を立てている。
「あの……それはちょっと。徒歩で向かいます」
「危険だと言っただろう? まだ自分の立場がわかっていないのか」
僕の腰の上で、手綱を握る彼の手に力がこもる。
背中に密着してくるレオンハルト。
僕の心臓はずっと落ち着かない。
「ですが、あなたには婚約者が……」
本当は婚約者の話なんてしたくなかった。
けれど、はっきりさせなければならない。大切なことだから。
「そのことは気にしなくていい。いいな。一人で出歩くんじゃないぞ」
「……わかりました。あの……レオンハルトは、変わりましたね」
「話し方のことか? いままでは両親がいたから、かしこまっていただけだ。普段の私はこんな感じだ」
「そう……でしたか」
そうなんだ。
僕がレオンハルトの“本当の姿”を知らなかっただけ。
少し、がっかりした。
「それに……リオネルに嫌われたくなかったし」
「……っ!」
レオンハルトが後ろから身を寄せてくる。
心臓が跳ね上がり、鼓動が速くなる。
子供がいるとはいえ、こんな暗闇で、元夫と身を寄せ合うなんて――。
「抑制剤は……きちんと上質のものを使っているのか」
「は、はい」
なぜこんなときにそんな質問を……。
「んんぅう」
そのとき、リオンが寝言をもらした。
僕はハッとして正気に戻る。
婚約者のいるアルファと密着するなんて、神父見習いとして許されない。
リオンを抱き直すふりをして、レオンハルトからそっと身を離した。
「あの……今日はごちそうさまでした。僕たちはここで」
「危ないから、教会の前まで送っていこう。リオンは……赤ん坊のときに捨てられていたのか」
「……はい」
「かわいそうに。こんなにかわいい子を……リオネルが育てたのか」
レオンハルトが手を伸ばし、リオンの頭をやさしく撫でる。
眠ったまま微笑むリオン。
「え、ええ」
「私たちにも……こんな子供が生まれるはずだった」
「ぼ、僕は妊娠できなかったから! 婚約者の方と……」
「そうだな。すまない。余計なことを言ってしまった。私は……子供がいなくてもかまわなかった」
「…………」
レオンハルトは子供が好きじゃない?
でもリオンのこと、こんなにかわいがっているのに。
凍てつく北国の町角で、
僕の心は複雑に揺れていた。




