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北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第4章 四年の空白、再び動き出す運命

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第22話 甘い菓子の誘惑

「遅くなってしまった。私が馬で送っていこう」


「い、いえ、大丈夫です。歩いて帰れる距離ですから」


王国監査院別院から外に出た僕とリオンを、レオンハルトはどうしても送っていくと言ってきかない。

しかし、婚約者がいるレオンハルトと、元妻の僕が同じ馬に乗るわけにはいかない。

行きは馬車で連れてきてもらったが、あいにく出払ってしまっているらしい。


「リオネル……あいかわらず、自分のことに無頓着なんだな。こんな時間に歩きまわるのは危険だ。だったら……町で食事をして、馬車が戻るのを待とう」


「あ、あの、でも……!」


「リオン! 外で食事したことはあるか?」


「ううん」


「じゃあ、決まりだ。他の子供たちには内緒だぞ。彼らにはおみやげを買っていこう」


「うん! やったー!」


リオンが大喜びでレオンハルトに抱きつく。


「リオン、だめだよ。そんな贅沢……君は外食の意味がまだわかってないんだから」


「一度も行ったことないのか?」


「……僕たち、教会から出たことないんです」


「なぜだ? 孤児たちは定期的に町を見学させる義務があるはずだ」


「あ、あのっ! リオンは赤ちゃんのときから体が弱くて……だから」


「リオンは赤ん坊のころから孤児院にいるのか? 生まれてすぐから? 珍しいな」


「あ、あのっ……は、はい」


めったなことを言えば、賢いレオンハルトにすぐ気づかれる。

僕は口を閉じた。


「じゃあ、生まれて初めての外食だな。リオン、なにが食べたい? といっても……ここにはあまり店がないけどな。じゃあ、リオネルも、ノルディアの町を歩いたことがないのか?」


「はい……人前には出ていません」


「なにか事情でも? 父上の件でか?」


「は、はい」


「迫害されているわけでは……ないよな」


「そんなことはまったくありません。僕が……気にして」


「そうか。では、問題ないな。私が四年前までよく通っていた店へ向かおう。すぐそこだ。おいしいスフレがあるぞ。蜂蜜で煮込んだベリーを入れてもらおう」


「ベリー……?」


リオンがベリーという言葉に反応した。

意味がわかってないのだ。


「そうだ。リオネルは甘いものに目がないんだ。リオンも好きか?」


「うーんと」


「リオンは甘いものを食べたことなくて」


「本当か? では、ハチミツ入りの粥――ハニーポリッジを注文しよう。ベリーのスープや、干した果物もいいな。蜂蜜ケーキやリンゴの焼き菓子もおいしいぞ。首都セラフィオンの自宅に、ときどきみやげに買って帰っただろう」


「ええ……とてもおいしかったです。でも……僕たち、そんなに食べられませんよ」


「あまった分は持って帰って、孤児院のみんなと食べればいい」


「でも……」


「私も蜂蜜酒が飲みたい。リオネルのために、スープに特別に真白なホイップクリームをつけてもらおう」


「クリーム……!」


口の中に、ふわふわとやわらかく甘い感触が広がる。


レオンハルトには婚約者がいるのに――。


だけど僕は、甘い誘惑に勝てなかった。

リオンと一緒に、いそいそとレオンハルト行きつけの食べ物屋へ向かった。

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