第22話 甘い菓子の誘惑
「遅くなってしまった。私が馬で送っていこう」
「い、いえ、大丈夫です。歩いて帰れる距離ですから」
王国監査院別院から外に出た僕とリオンを、レオンハルトはどうしても送っていくと言ってきかない。
しかし、婚約者がいるレオンハルトと、元妻の僕が同じ馬に乗るわけにはいかない。
行きは馬車で連れてきてもらったが、あいにく出払ってしまっているらしい。
「リオネル……あいかわらず、自分のことに無頓着なんだな。こんな時間に歩きまわるのは危険だ。だったら……町で食事をして、馬車が戻るのを待とう」
「あ、あの、でも……!」
「リオン! 外で食事したことはあるか?」
「ううん」
「じゃあ、決まりだ。他の子供たちには内緒だぞ。彼らにはおみやげを買っていこう」
「うん! やったー!」
リオンが大喜びでレオンハルトに抱きつく。
「リオン、だめだよ。そんな贅沢……君は外食の意味がまだわかってないんだから」
「一度も行ったことないのか?」
「……僕たち、教会から出たことないんです」
「なぜだ? 孤児たちは定期的に町を見学させる義務があるはずだ」
「あ、あのっ! リオンは赤ちゃんのときから体が弱くて……だから」
「リオンは赤ん坊のころから孤児院にいるのか? 生まれてすぐから? 珍しいな」
「あ、あのっ……は、はい」
めったなことを言えば、賢いレオンハルトにすぐ気づかれる。
僕は口を閉じた。
「じゃあ、生まれて初めての外食だな。リオン、なにが食べたい? といっても……ここにはあまり店がないけどな。じゃあ、リオネルも、ノルディアの町を歩いたことがないのか?」
「はい……人前には出ていません」
「なにか事情でも? 父上の件でか?」
「は、はい」
「迫害されているわけでは……ないよな」
「そんなことはまったくありません。僕が……気にして」
「そうか。では、問題ないな。私が四年前までよく通っていた店へ向かおう。すぐそこだ。おいしいスフレがあるぞ。蜂蜜で煮込んだベリーを入れてもらおう」
「ベリー……?」
リオンがベリーという言葉に反応した。
意味がわかってないのだ。
「そうだ。リオネルは甘いものに目がないんだ。リオンも好きか?」
「うーんと」
「リオンは甘いものを食べたことなくて」
「本当か? では、ハチミツ入りの粥――ハニーポリッジを注文しよう。ベリーのスープや、干した果物もいいな。蜂蜜ケーキやリンゴの焼き菓子もおいしいぞ。首都セラフィオンの自宅に、ときどきみやげに買って帰っただろう」
「ええ……とてもおいしかったです。でも……僕たち、そんなに食べられませんよ」
「あまった分は持って帰って、孤児院のみんなと食べればいい」
「でも……」
「私も蜂蜜酒が飲みたい。リオネルのために、スープに特別に真白なホイップクリームをつけてもらおう」
「クリーム……!」
口の中に、ふわふわとやわらかく甘い感触が広がる。
レオンハルトには婚約者がいるのに――。
だけど僕は、甘い誘惑に勝てなかった。
リオンと一緒に、いそいそとレオンハルト行きつけの食べ物屋へ向かった。




