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北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第4章 四年の空白、再び動き出す運命

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第19話 上層部の扉が開くとき

王国監査別院の上階――上層部の執務室が並ぶ場所へ向かって、レオンハルトは階段を上っていく。

その腕には、我が子が抱かれていた。


よくもまあ、こんな場所で平然と勤務できるものだ。

僕はいまだに、この国の権力者たちに悪感情を抱いている。

こうした場所に足を踏み入れると、その感情が増幅していくのがわかる。


この悪感情は――天使のようなリオンを産んでも、尊い神の教えを学び、どれほど祈っても消えない。

僕の心の奥底に沈む、淀みそのものだ。


四年前のあの日――。

王国監査院がしっかりしていれば、僕とレオンハルトの父上の嫌疑は晴れたはずだ。

もっとも、あれが王国監査院自身の仕組んだ逮捕劇だったのなら、話は別だが。


「…………」


他人を疑ってはいけないと、ルクス神学院で教え込まれたはずなのに。

無駄に優秀な頭脳が、当時囁かれていた“末の王太子と王室の確執”を勝手に結びつけてしまう。


末の王太子は遊び好きで派手な人物だ。

父上が取り仕切っていた国庫を狙っていると噂されていた。


堅物の父上は、前任の財務長官の代まで融通していた金品を頑として渡さなかった。

それを宰相だったレオンハルトの父上が後押しして――。

両家は、僕とレオンハルトの婚姻という強い絆で結ばれていた。


数十年前の教会と官僚による汚職事件。

あの頃から役人は金に汚い。

四年前の父上の事件も、金遣いの荒い王太子が目をつけた真面目な役人を標的にしたとしか思えない。

汚職をしない人物たちを排斥し、自分たちは今もやりたい放題を――。


「リオネル、緊張しているのか」


レオンハルトがリオンを抱いたまま振り返った。

リオンはこの場の雰囲気を察して黙り込んでいる。

聡い子だ。こういうところは助かる。


「はい……」


「大丈夫だ。今日は挨拶だけだ。ノルディアの領主も、上層部も、君を歓迎する」


「……っ!」


レオンハルトがリオンを抱いたまま屈み込み、僕の顔をのぞきこんだ。

鼻を突く、強烈な“番”の匂い――。

定期的に抑制剤を飲んでいる僕でも、このような場面では動揺してしまう。


「だ、だいじょうぶです」


思わず一歩、退いた。


「私の後ろにいるだけでいい。行こう」


「はい」


レオンハルトは目の前の重厚な扉をゆっくりとノックした。


「入れ」


「はい!」


扉を開けると、三人の人物が座っていた。

ルミナリア王国内でも特に優秀で名高い官僚たちだ。

僕は圧倒され、思わず息を呑んだ。


レオンハルトが僕を紹介し、僕は静かに頭を下げる。

続いて、彼が三人を紹介してくれた。


六十代の グラディス・ヴォルン。

灰色の瞳が印象的な、元軍務省の監査官で、この王国監査別院の院長だ。

レオンハルトの父とは若い頃から懇意にしていたらしい。

そういえば、レオンハルトの家族の会話に、よく名前が出ていたことを思い出した。


三十代の ミレイユ・カーヴェル副院長。

教会系の監査官で、金髪の優しげな女性だ。

教会に住む僕の事情にも精通しており、リオンを見ると孤児院の事業に力添えすると約束してくれた。

「今までは、レオンハルトと関係のあったあなたのいる教会とわざと距離を取っていたのよ」と、意味深に微笑んだ。


そして四十代の ダリオ・フェルナー法務官。

末の王太子に苦言を呈して北方領ノルディアに左遷された、勇気ある人物。

ルミナリア王国の官僚の中で最も有能だといわれている。


彼らは全員、四年前、突然、この北方領ノルディアに左遷された役人たちだ。


「レオンハルト……いよいよ動き出すのだな。気をつけろよ。

しかし……アルヴィオン家の嫡男を巻き込むとは」


ヴォルン院長が僕を見て言った。


「だからこそです。リオネルに地位を与えれば、簡単には手を出せないはずです。

彼には教会の後押しもあります」


「過去の汚職事件以降、教会の動きは私たちがしっかりと見張っているから、王太子派には寝返らないはずだけど……

誰も信用できないわよ。私たちも例外じゃないわ」


カーヴェル副院長が静かに言う。


「あなた方を信用できなくなったら、神も信用できなくなる。

四年前……いえ、私が見習いだった六年前から、私たちは確固とした信念で繋がっています。

ルミナリア王国を清涼な国へと導く――そのために、王からの信任も得ました。

悪には絶対に屈しません。たとえ死んでも」


レオンハルトがきっぱりと宣言した。

彼らの間に、隠し事などないらしい。


「おいおい、穏やかじゃないな。

ヴォルン院長のような騎士道精神はここでは通用しないと、二年間の見習いで知っているはずでは?

でないと、私のような結末になるぞ」


フェルナー法務官が冗談めかして言う。

厳格な職務とは裏腹に、明るくユーモアのある人物のようだ。


「では……レオンハルトの元妻も一緒に、私たちの計画を実行に移すときが来たようだ。

皆、十分に用心しろよ。

カーヴェル副院長じゃないが……互いを疑うことも、時には大事だと覚えておこう」


ヴォルン院長が気勢を上げた。


「はい!」


「はい……」


どうしよう。

とんでもない企てに巻き込まれてしまった。


僕は、きょとんとしたまま彼らを見回すリオンの澄んだ瞳を見つめながら、体を硬くした。

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