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北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第3章 追放の地で芽吹く命

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第15話 北国の教会で再会した男

「レオンハルトが……神父さま、それは本当ですか」


「ああ、そうだ」


「しかしレオンハルトは、首都セラフィオン王国監査院の監査官になったはずです。このような辺境の地に? しかも、婚約者と一緒にですか」


“婚約者”と発音する僕の胸がキリリと痛んだ。

レオンハルトが最近、貴族と婚約したという社交界の話題は、この最北の僻地にまで伝わってきた。


その知らせを初めて聞いたとき、僕の胸は張り裂けそうになった。

足元に黒い沼が作られ、ズブズブと、身も心も引きずり込まれていくような心境が続いた。


しかし、僕は同時に、これでよかったのだと考えた。

レオンハルトと僕は事故番だ。

彼にふさわしい伴侶に、やっと出会えたのだ。

婚約はむしろ遅かったぐらいだ。


だけど実際にその話題を口の端に上げると――

そのときの傷が、さらにえぐられる気分だ。


「あまりの優秀さに異例の出世を遂げたが、首都の要職を蹴って、この地に赴任したらしい。急なことで、私もあわてている」


「どうしよう……」


「リオネルがこの地にいることは、彼も承知しているはずだ。相手の出方を見守るしかない」


「……そうですね」


だけど僕は不安を隠せなかった。

リオンのことを、もし知られたら――息子とは絶対に離れ離れになりたくない。


「リオンは僕の生きる希望だ……そんなことになったら、僕は生きていけない……!」


レオンハルトはすでにこの地に到着している。

戦々恐々としながら、僕は毎日を過ごしていた。


そんなある日――。


「リオネル……久しぶりだな」


「……っ!」


前触れもなく、レオンハルトが教会に現れた。

片手を上げ、近づいてくる。


「あっ、ぁっ……あのっ!」


僕は罪人の息子であり、しかも元妻だ。

本来なら接近は許されないはず。


「そんなに構えるな。あいさつに来ただけだ。今日は神父さまに赴任の報告と、お祈りに来た。目の前にいる元妻を、無視するわけにはいくまい?」


「は、はい。お元気そうで……」


ハシバミ色の髪と瞳を持つ美丈夫――。

レオンハルトは相変わらずかっこよかった。

だが、四年の間にずいぶんと雰囲気が変わっていた。


大人の魅力を備えた容姿は昔以上に申し分ないが、どこか以前よりラフで、なれなれしいというか――。

あのような大事件を起こし死罪になった男の嫡男を前に、平然と話しかけてくる。

仮にも元妻だった男だ。もう少し感慨があってもよさそうなのに。


「…………」


自分はレオンハルトにとって、この程度の存在だったのか。

心の奥に抱いていた幻想が音を立てて崩れていく。


胸がひどく痛い。何かでひっかき回されているようだ。

そこに悔しさも加わり、僕はこぶしを強く握りしめた。


「ついでに孤児院も視察する。あと……リオネルに頼みがある。お祈りのあとで話す」


長い睫毛の下から輝く瞳が僕を見つめる。

一瞬、見惚れてしまうが、すぐに正気にもどり返答する。


「……わかりました」


頼み事とはなんだろう。

国を揺るがす大事件のせいで別れた元妻に、依頼をしても大丈夫なのか。

それとも、このような辺境の北国では、勝手なことをしても咎められない制度でもできたのだろうか。


「まさか、リオンのことを……?」


疑心暗鬼になりながら、僕は孤児院でレオンハルトが来るのを待った。

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