第15話 北国の教会で再会した男
「レオンハルトが……神父さま、それは本当ですか」
「ああ、そうだ」
「しかしレオンハルトは、首都セラフィオン王国監査院の監査官になったはずです。このような辺境の地に? しかも、婚約者と一緒にですか」
“婚約者”と発音する僕の胸がキリリと痛んだ。
レオンハルトが最近、貴族と婚約したという社交界の話題は、この最北の僻地にまで伝わってきた。
その知らせを初めて聞いたとき、僕の胸は張り裂けそうになった。
足元に黒い沼が作られ、ズブズブと、身も心も引きずり込まれていくような心境が続いた。
しかし、僕は同時に、これでよかったのだと考えた。
レオンハルトと僕は事故番だ。
彼にふさわしい伴侶に、やっと出会えたのだ。
婚約はむしろ遅かったぐらいだ。
だけど実際にその話題を口の端に上げると――
そのときの傷が、さらにえぐられる気分だ。
「あまりの優秀さに異例の出世を遂げたが、首都の要職を蹴って、この地に赴任したらしい。急なことで、私もあわてている」
「どうしよう……」
「リオネルがこの地にいることは、彼も承知しているはずだ。相手の出方を見守るしかない」
「……そうですね」
だけど僕は不安を隠せなかった。
リオンのことを、もし知られたら――息子とは絶対に離れ離れになりたくない。
「リオンは僕の生きる希望だ……そんなことになったら、僕は生きていけない……!」
レオンハルトはすでにこの地に到着している。
戦々恐々としながら、僕は毎日を過ごしていた。
そんなある日――。
「リオネル……久しぶりだな」
「……っ!」
前触れもなく、レオンハルトが教会に現れた。
片手を上げ、近づいてくる。
「あっ、ぁっ……あのっ!」
僕は罪人の息子であり、しかも元妻だ。
本来なら接近は許されないはず。
「そんなに構えるな。あいさつに来ただけだ。今日は神父さまに赴任の報告と、お祈りに来た。目の前にいる元妻を、無視するわけにはいくまい?」
「は、はい。お元気そうで……」
ハシバミ色の髪と瞳を持つ美丈夫――。
レオンハルトは相変わらずかっこよかった。
だが、四年の間にずいぶんと雰囲気が変わっていた。
大人の魅力を備えた容姿は昔以上に申し分ないが、どこか以前よりラフで、なれなれしいというか――。
あのような大事件を起こし死罪になった男の嫡男を前に、平然と話しかけてくる。
仮にも元妻だった男だ。もう少し感慨があってもよさそうなのに。
「…………」
自分はレオンハルトにとって、この程度の存在だったのか。
心の奥に抱いていた幻想が音を立てて崩れていく。
胸がひどく痛い。何かでひっかき回されているようだ。
そこに悔しさも加わり、僕はこぶしを強く握りしめた。
「ついでに孤児院も視察する。あと……リオネルに頼みがある。お祈りのあとで話す」
長い睫毛の下から輝く瞳が僕を見つめる。
一瞬、見惚れてしまうが、すぐに正気にもどり返答する。
「……わかりました」
頼み事とはなんだろう。
国を揺るがす大事件のせいで別れた元妻に、依頼をしても大丈夫なのか。
それとも、このような辺境の北国では、勝手なことをしても咎められない制度でもできたのだろうか。
「まさか、リオンのことを……?」
疑心暗鬼になりながら、僕は孤児院でレオンハルトが来るのを待った。




