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六話 望まない婚約破棄

この おうじ こわい




 ミハイルは婚約者であるリアのことが好きだ。誰よりも愛していると言っても過言ではない。華奢な身体に平均よりも低い背丈。鮮やかな金色の髪に、みずみずしい若葉のような若草色の大きな瞳。小さな花びらのような唇。

初めて出会ったのは、中央教会の中庭。花が咲き乱れる中庭で、年上の聖女たちに花飾りをつけてもらう姿は、まさしく花の妖精のようだった。

だからこそ、彼女が自分のために頑張る姿を見るのが好きだ。


 笑顔で『ミハイル殿下のためだから』と言って、厳しい王子妃教育を受ける顔が大好きだ。そして、たまにミハイルが『婚約破棄しちゃうかも』なんて言ったときに見せる、悲しみにゆがんだ顔も大好きだ。その表情だけで、自分は愛されていると実感する。


 ある日、ミハイルはリアが倒れたと聞いた。

 その知らせを聞いて、ため息を吐く。


 ――きっと、リアへの嫌がらせのせいだ。


 ミハイルはリアが筆頭聖女になれるように、中央教会の人間に働きかけた。なるべく、聖女の地位をあげることが出来そうな難しい仕事をリアに与えたのだ。

 大変かもしれないが、リアは強い浄化の力を持つ聖女だ。これくらい出来てもらわねば、王子妃としてやっていけない。

 それなのに、リアの功績を奪おうとする者もいる。時にはリアを無理矢理太らせて醜くして、王子妃としてふさわしくない容姿にしようとする者もいる。

 そんな者は片端から左遷させてやればいい。今は中央教会にも人が足りないため、一気に左遷させては、教会が立ちいかなくなるが、一人ずつ左遷させていけば問題ないだろう。

 マグダレーナ測妃がリアに対して少々意地悪な感情を持って、厳しく接していることにミハイルは気付いていた。けれど、それでも、ミハイルのために頑張るリアの姿は何よりも美しかった。

 華奢で妖精のような体系をキープし、大変な聖女の仕事も、難しい王子妃教育も難なくこなすリアを誇りに思っていたが。まさか倒れるまで追い詰められているとは思わなった。


 目が醒めたと聞き、見舞いに行ったミハイル。大切な婚約者が倒れたのだ。見舞いに行くことは当然である。


「倒れたんだってね」

「はい。そのようです。心配させて申し訳ありません」


 ほんの少し頬をバラ色に染めて、それでも申し訳なさそうに眉尻を下げるリアはとても愛らしい。けれど――。


「まだ、努力が足りないんだね」

「え?」

「だってそうだろう? もっと効率的に動ける努力をすれば、倒れるはずはなかったんだ。王子妃教育も遅れてしまうし、困ったね」


 ここで甘やかしてしまってはリアのためにならない。弱った時こそ厳しくしなくては。それに、限界まで頑張る彼女の姿は、何よりも愛らしく美しい。

 若草色の瞳がうるんでいる。


――ああ、自分の無力さを嘆いているのか。


 大丈夫だ、きっとリアなら乗り越えられる。だって、リアはミハイルが自分の隣に立つにふさわしい女性と認めた人なのだから!


「母上に言って、もう少し厳しくしてもらわないと。ああそうだ、聞いてくれ」

「?」

「筆頭聖女の座を奪おうとするエレノア・ハーゼルベルク。彼女が余計なことをしないように枢機卿へ言っておいた」

「……あの方は、なにも」

「それに、ソフィーも君の邪魔をしたんだって? 左遷させないといけないな」

「……え? だって彼女は」

 リアの頬を一筋の涙が伝う。

「ああ、ごめん。リアは優しいからね。こんな話聞きたくないね。きっと君は、悪いことをした人にも同情してしまうだろうから」


 そう言って涙を伝う頬にキスをする。そうすれば、リアはとても喜ぶから。きっと照れたように、困ったようにミハイルを見るだろう。そう予想していたのに、リアの反応は違った。頬は赤く染まっていない。それどころか見たこともないほど、青ざめていた。


「あ、あの、殿下」

「ん? なあに?」


 泣かせたお詫びに、優しい声で答える。やっぱり、彼女は優しいから、仲間だと思っていた人が、罰を受けることを望まないのだろう。


「私、辛くて」

「ああ、悪い聖女たちはみんな君に近づけないように……」

「そうじゃなくて、王子妃教育とか、聖女の仕事とか、辛くて」


 いったいどういうことだろうと、ミハイルは首を傾げた。


「あの、えっと」


 リアが目をそらそうとする。それを許さないとばかりに、ミハイルは両手で顔の両側を掴み、こちらを向かせようとした。


「ひっ」


 リアがひきつった声をあげる。


 ――おびえたような声を出さないでよ。僕が悪いことをしているみたいじゃないか。


 文句を言いそうになるのをこらえて、ミハイルは優しい声で言う。


「リアはひどい子だなあ。もっと、僕のために頑張ってもらわないと――婚約破棄、しちゃうよ」


 そう言えばきっと、リアは『頑張ります』と返してくれるだろう。


「わかりました」


 ――ほら、僕のために頑張ると言っておくれ


 ミハイルは優しい笑みを浮かべた。

「わかってくれたんだね。じゃあ、明日にでも」

「婚約破棄、してください!」


 返ってきたのは、望まない言葉だった。


「私は、ミハイル様の婚約者にふさわしくありません。どうか、婚約破棄をしてください」



 婚約破棄? どうして??




(ミハイルにとって)望まない婚約破棄

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