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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第五部 鉄勇者の果断
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第203話  『天敵』

リッカは絶望していた。


目の前の男に何も通用しない・・・。


全く闘志すら感じられない軽薄そうな男に。

カウボーイハットの男は、まるで子供をあしらうように、鼻くそをほじりながら、軽口を叩く。


「ふぁああ。いつまでやるんだよ」

飽きたように欠伸をした。


(信じられない・・・)

リッカは、年齢でいえば15歳。まだ女子高生程度の年齢だが、決して戦闘の経験が不足しているわけではなく、並の冒険者なら足元にも寄せ付けない程度には腕が立つ。Bクラスの冒険者でも、暗殺ならば軽々とこなせる。面と向かってもCクラスなら対等以上に戦える。

時間かせぎだけなら、Aクラス相手でも戦えるだけの身体能力を有している。


それが・・・。


次元が違う。


相手は動かず、それでも当たらない。理屈がわからない。

何かのスキルなのか、それとも偶然なのか。


クナイを振りかぶると、強風が吹き、体勢が崩れる。雨も降っていないのに、足元がぬかるんでいる。目の前に落ち葉が舞い散り、視界を塞ぐ。


これら全てが偶然なのか。偶然で片付けられるのか。


あり得ない。


振り回した両手は、すでに気力と共に疲れ果て、肩で息をしながら、諦めを顔に滲ませて、リッカは四つん這いになって地面を見た。


「はあはあはあ」

もはや喋る気力もない。


カサノヴァ・ダンディは、表情を変えることもなく、

「気が済んだかいお嬢ちゃん。ベストタイミングだ。炸裂するぜ、そろそろ」


と、遠く森を指さして歩き出した。


「じゃあな。また遊ぼうぜ、機会がありゃな」


カウボーイハットをくいっと持ち上げ、森の奥へ消えて行った。


――――――


コブラにとってマングースは天敵というが、多くの生物にとって天敵というのは存在する。

蜘蛛は多くの昆虫にとって天敵であり、鳥は蜘蛛の天敵だ。

蟻にとってアリクイは天敵だし、スズメにとって鷹は天敵だ。


中には体が小さいにも関わらず、天敵として君臨する動物もいる。


ある種のハチは、特定の昆虫にのみ寄生して産卵し、中から虫を食い破ることでその種を駆逐するまで繁殖する。

ある種のダニはネコに寄生して血を吸い尽くすまで捕食する。


そして、地球では天敵のいないと言われる人類においても、この世界エ・ルガイアには魔族が存在し、人類を駆逐しようと活動している。


そして、強者といわれるスキルホルダーでさえ、特定のスキルの前では力を発揮できないことがある。


ここに今、圧倒的能力を駆使して長く冒険者を続けてきた猛者がいる。

「スキルレス」という他人のスキルを強制的に封じる能力を持つ怪力男。


黒い甲冑の奥で、鬼瓦のような顔をしかめて、スケルトは冷や汗を流していた。


対するは、小柄な小太りの少年。丸い眼鏡が白く光る。


少年・田中は体型に似合わない野太い砲身の銃を交差させるように構えて、スケルトに向けていた。


スケルトは、その銃の威力を知っている。異世界の銃の中でも、特段殺傷力の強い銃。出会った当初、ふらつくように銃を撃っていた少年は、いまはもういない。


どっしりとした構えで、銃口が揺れることもなく、落ち着いた仕草で狙いを定めている。


一触即発。


スケルトは集中を研ぎ澄まして、すでにゾーンに突入していた。


沼尻流銃拳術の極意は「見切り」にこそある。


指先の筋肉が動くまえに、予備動作として肩の外側の筋肉が必ず揺れる。


そして、その前には、呼吸が止まる。


その「機」を逃さず。懐へ潜り、構えた大剣を一閃。


情けなく両断する。


スケルトに迷いはなく、時を待つのみだった。


「僕の好きな言葉に“男子三日あわざれば刮目してみよ”っていう諺があります」


田中が言う。


「今ならどうでしょう。まだ引き返せますよ」

と、冷静な声で言った。


スケルトは、複雑な心境でそれを聞いた。


しばらく旅した仲間の成長を喜ぶ気持ちと、命令に準じて心を殺す忠誠心と、殺し合いのこの期に及んでまだ甘いことをいう舐めた口ぶりへの苛立ちと、いつ銃が火を吹くかと思う緊張感と、その他、瑣末な感情が入り乱れながらも、神経は銃口に集中するという極限の冷静の中に飲み込んだ。


歴戦の冒険者は、その呼吸を乱すべく、大剣を逆さに立て、その後ろに隠れるように身構えた。


幅広の大剣で黒い甲冑はほぼ隠れ、狙える箇所が減る。


スケルトの頭の中では、ものすごい速度で、戦術が組み立てられていた。


田中が言うように、確かに田中はスケルトの天敵たり得る。

かつての田中ならいざ知らず。


沼尻流を多少なりとも覚えた異世界人の規格外の成長速度を鑑みれば、三日は言い過ぎとしても、ほんの一月ひとつき二月ふたつきという短い期間でさえ、想像できない強さを手に入れることは不可能ではない。


現に、銃口を見ればそれが分かる。

重い銃身を支える筋力を身につけ、冷静に狙いを定める胆力も十分。


そしてさらにこの余裕は、戦い慣れたものしか醸し出せない独特の呼吸。


先日、お屋形様の屋敷にて不覚をとったあの時以上に厄介な使い手になっていると感じられる。


スケルトは、田中を侮ってはいない。さすがのスケルトも鉄板を貫通するマグナムの威力の前では、当たりどころによっては一撃で死ぬ。


スキルレスは効果を成さない。


だが、スケルトに秘策がないわけではない。


ボッ!!!!


金色に輝くスケルトを見て、田中が一瞬、驚きの表情を見せた。


その隙を見逃さす、猛烈な速度で田中の懐に飛び込み、大剣を体に巻きつけながら、猛烈な巻き切りで田中の死角から、切り上げた。


「もらった!!!」


あまりの速度に田中は目で追えなかったはず。とスケルトが見上げると、田中は金色に輝いていた!!!


「何!!!???」


――内燃気!!!!!!!!


ゾーンで加速する思考の中、田中が金色に輝きながら、スケルトを見下ろしていた。


あり得ない!!


と、瞬時に思い、次の瞬間には思い直した。


田中も異世界人。つい外見に惑わされるが、こいつも人外である、と。

お屋形様と同郷の化け物であると。


銃の腹の部分をスケルトの剣の刃に押し付け、田中は受け流す様に体を回転させた。


そして、そのままかがみ込むと、小さく前に倣えのような構えで、引き金を引いた。


ドボンという派手な音とともに、右手のマグナムから発射された弾は、至近距離のスケルト膝を吹き飛ばし、左手のマグナムから発射された弾は、続け様にスケルトの右脇腹を抉った。


絶叫をあげて吹き飛ぶスケルト。


田中は小刻みなバックステップを繰り返し、続け様に銃を撃つ。容赦無く放たれた弾丸は、スケルトの体を引きちぎりながら、一発一発が致命傷。


指を引きちぎり、顎を吹き飛ばし、そして七発目の弾丸でスケルトの兜ごと頭蓋骨を吹き飛ばした。


崩れ落ちるスケルトと、遠くから無言で見つめる田中。


ピクピクと痙攣するスケルトの死骸に向けて、田中は弾倉が尽きるまで、弾を打ち込んだ。


六発かける2丁、十二発全弾をぶち込んだ時には、もはやスケルトの面影はなく、血塗れの肉片が飛び散る、まさにずたずたの汚物のみが残っていた。


「・・・・・」


だが、田中は両手の銃を空中に放り投げると、今度は銀色のタンク型のリュックサックを取り出し、それをゆっくりとした動作で背負うと、タンクから伸びたチューブを手繰り寄せ、その先についたシャワーのようなノズルをスケルトに向けた。


それは。

――火炎放射器だった・・・


カチンという音と共に、ボシュウという轟音。真っ赤な炎が吹き出し、2度3度、炎を噴き上げると、田中は容赦無くスケルトへ浴びせかけた。


肉塊は人が燃える特有の悪臭を漂わせながら、黒く炭に変わっていく。

激しい熱。田中は汗を吹き流しながら、タンクが空になるまで、炎を浴びせていく。

その丸いメガネに炎が反射して、田中の瞳は見えない。


ただ、無表情で、田中は炎を吹きかけ続けていた・・・。


――――――


少し離れた場所で槍を捌いていた俺は、燃える塊がスケルトだと気づくのにしばらくかかった。


正直なところ、長時間、意識をそちらに向ける余裕はない。


俺の視線にドラコも気づき、チラチラと炎の方を見る。


その隙に鉄を伸ばし顔面を突き刺そうとするが、軽くいなしてきた。


「オジキっ、くそ」

と短く呟くが、そこで吹っ切ったように、集中を戻した。


田中・・・。やりすぎじゃねえか・・・。


いや、迷っている暇は俺にもない。ドラコはそこまで弱い敵ではない。


全力で相手をせねば、勝てる相手ではない。


ドラコの槍の腕は尋常ではないが、バトルセンスのおかげか、経験値10倍のおかげか、目も慣れてきた。


奴の槍は、霧モードと氷モード、炎モードの3種類あり、それらを器用に切り替えられるようだ。


槍自体の性能は霧と氷。付属のリングが火を吹き出す。

あら便利なアタッチメントですわね。今ならおまけにもう一つ、とか聞こえてきそうな気がする。


冗談はさておき、相手は強い。

心を鬼にして、殺らねば殺られる。手加減する余裕はない。


相手の突き刺してきた槍の先を避けるが、ねじりながら横に払ってきた。顔を捻ってなんとか避ける。


その時、背中にゾワっと悪寒が走った。


全速力でもう一度、バックステッポ!!!!


カカッと避けたその視線の先に、ドラコの顔を鎧ごと掴み、持ち上げると、地面に叩きつけたカウボーイハットの男が見えた。


ドラコは地面に背中からめり込み、グボっと盛大に血を吐くと、そのまま動かなくなった。


なんという動きだ。まったく近寄られているのに気づかなかった。


そして、またゾワワと血の気が引いた。


聞こえたのは、「チン」という鯉口が鳴る音。


振り返った俺が見たのは、腰溜めに構える赤い甲冑。


俺の右手がくるくると宙を舞い、ぶしゃあああああと派手に血を吹き出した。


視界が血煙で霞む中、咄嗟に鉄を展開し、刀を防がねばと必死になった。


時間がゆっくりと流れる。


今回は自分の力ではなく、強制的に時がゆっくり流れていく。死に際の集中力ってやつだ。


くるくると腕がゆっくり舞い上がり、おれは「てーーーーんーーーーーーかーーーーーいーーーー」と叫ぶ。


右腕を切られるのは、3回目かなとか、関係ないことを思い、自重せねばと思い直し、赤い甲冑が右手の小指を揺らしたの見た。


唐突に思い出した。


モーゼルの言葉を。


――剣士系には、絶対切断っていう恐ろしいスキルがあるんだよ。硬さ関係なく、切り裂くスキルだ。まあ、レアだから滅多にお目にかからないがーー


ゆっくり流れる世界で。


侍の刀が白い剣閃を描いて俺に迫る。


弧を描きながらものすごい速度で放たれた斬撃は、時間がゆっくり流れる世界でもプロ野球選手のスイングなみの速さで、一瞬で俺の出した鉄をバターのように切り裂き。


俺の首を・・・一瞬で跳ね飛ばした。


視界がくるくると回る。


ゆっくりと黒くなる視界の中。俺はようやく気づいた。


こいつが、こいつこそが、俺の天敵なんだ、と。

鉄の防御など関係しない、圧倒的破壊力。


こうして、俺の旅は終わった。


仕事が忙しすぎて続きが書けけないよーという言い訳をする夢をみた。

うそです。素直に謝ります遅れてすいません。

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