第204話 『殲滅のユニバーサルウォリアー』
あらすじ
無理を重ねてなんとかようやくお世話になった犬の島。
平和も束の間。そこに攻め入ってくる2つの勢力。
シーワルド軍最高戦力ドラコと、ぽっくん子飼いの密命を受けた冒険者6名。
それぞれが必死に戦う中。
冒険者のうち、スケルト、レディ=キラが戦闘不能。クロガネサイドはリッカとヒカリが脱落。
ドラコと善戦するクロガネの元にやってきたのは、謎の男・ダンディと侍・オンジだった。
不意打ちを受けてクロガネは、オンジにより首を刎ねられてしまう。
クルクルまわる風車の如きクロガネの頭蓋。
はてさて。旅は終わるのだろうか。それとも・・・・
ウイユベールの目の前に、見たことのない赤と白の模様の繭が転がっている。
無意識に鑑定すると、中には、ピノコが倒したレディ=キラが囚われているのが見えた。
徐々にはっきりとしてくる意識。
朦朧とした意識を振り払うように、ウイユベールは頭を振った。
「・・・一体、何が・・・」
「気がついた?」
見上げるとモデル姿のピノコが居た。
「私は!? あの人は!?」と、記憶が定かではない。
ウイユベールが覚えているのは、レディキラに向き合い、毒を吸いこまされて殺されかけたところまで。
その後どうなったのか、どれくらい時間が経ったのか分からない。
周囲を見渡す。
森の中。戦闘の後。日差しは変わらず高く、時が過ぎた様子はない。ピノコが無事な以上、戦いには勝った様子。不自然な存在、赤白の水玉模様の繭。
あらためて、神眼で鑑定する。
――レディ=キラを閉じ込めた菌糸でできた繭――
AR表示のように視界に浮かぶタグに、はっきりとそう書いてあった。
ふらつく足で立ち上がりウイユベールは問いかける。
「・・・勝ったのですね・・・他の方は?」
「さあ。でもそろそろお兄を助けにいくわ」
と長い髪をかき上げてピノコが言った。
ウイユベールは、例のメガネをかけて、慌てて周囲を見渡す。
木々の間にタグが浮かぶ。
致命的な仲間は・・・・。
ぐっ、とウイユベールの息が詰まった。
スケルトが瀕死だ。
西の方向。クロガネと田中のタグが見えた。二人とも無事なのを確認してほっとした。
だが・・・。
そこへ近づく2人。
タグは記す。
“サブライ オンジ=コノエ” そして 、その隣の人物は・・・・“鑑定不可”・・・・・・
鑑定不可!!!!!!!!!!
ウイユベールが初めてみた表示!!!
神眼を偽装するスキルは存在する。『偽装(神)』というスキルだ。
スキルの優劣は、じゃんけんのようなもので、“絶対”というものはない。
仮に“絶対”と名がついても、絶対同志の相剋で互いに無効化することすらある。
この世に絶対は“絶対”ないという、古典的なパラドクスは今更言うまい。
ただ、不条理に存在し、そして不条理に終わる。
世界とはそう世界なのだと、ウイユベールですら知っている。
だが、その偽装(神)のスキルでさえ、表示を誤魔化すだけで、表示を拒否するような”鑑定不可”という文字は出ない。もしそれを可能とするなら・・・・まさに神の所業としか言いようがない。
そんなことこ考えながら驚愕するウイユベールにさらなる追い討ちが迫る。
まさに不条理というのは、唐突に訪れる。最悪のタイミングで・・・・。
クロガネに音もなく近寄った“サブライ”は、今、一閃の元にクロガネの首を刎ねた。
「え?」
クロガネのステータスが瞬時に変わる。
――
クロガネテツオ
瀕死 断首
――
ウイユベールの世界もまわる。くるくると回る。
唐突な宣言に、ウイユベールはこれまで見たことのない眩暈を感じた。
血の気が引き、胃に血が収縮し、立っていられない。
クロガネまでの距離は450メトル。走って救命できる距離ではない。ああ、絶望の味。
目の前のモデル美女・ピノコの長い黒髪が逆立っていた。
「ああああああ、なんて!!! なぜなぜなぜなぜなぜ!!!
奪うの?? なぜ なぜ なぜえええええええええええええええええええ」
鬼々迫るあるまじき咆哮で、キノコが変形する。
そして薄れゆく意識の中で、ウイユベールは愛の奇跡を見た。
―――――――――――――
カウボーイハットのイケメン、カサノヴァ=ダンディは、タバコに火をつけながら、サムライ・オンジに向かって問う。
「一撃で終わって良かったのか」と。
「・・・・」
オンジは頬面の奥で目だけ光らせて何も答えずに居た。
森の木々が、切り株を残して倒れている。結果、開けた土地の上で日差しが傾こうとしている。
侍が見た後ろで、赤ずきんが、詠唱を終えた。
「終わってみればあっけねえ」
と、タバコの煙を吐きながら、木にもたれた男が言う。カウボーイハットで目は見えない。
「・・・エストドラ・ゴラム・メキド」
少女の口が詠唱の最後の単語をぼそぼそと言った。
変化は一瞬。
クロガネが作った城の上空がカゲロウに歪む。
それは、高濃度の酸素が無理矢理集められた結果。
そして、そこに小さな火種を放り込むことで、圧倒的な火力を産む。
少女が唱えた魔法は、賢者が古代呪文を再現した禁呪であった。
ご存知。
――メキドフレイムーー
かつて、退廃都市・ソドムとゴラムを焼き尽くした神の炎。
周囲2キロを6千度の高温で焼き尽くす殲滅呪文である。
その余波は、10キロ四方まで広がり、自然と生態系に著しい被害をもたらす。
だが、そんなことは知ったことではない。
「あっけねえな」とカウボーイハットの男が再び呟いた直後。
何度目かの・・・神の奇跡が起こった。
豪炎が巻き上がるその下で、すわ殲滅かと思われたその寸前。
城の中から飛び出した小さな人物が、青く燃える炎の中に飛び込み・・・。
そして、大きく息を吸い込んで、その炎を・・・。
食べた!!!
「何!!!!!????」
さすがのダンディもその光景を信じられない思いで見つめ、次の瞬間、炎を飲み込んだ謎の人影は、あり得ない速度で、城から二キロほどの距離をたった2ステップで駆け寄り、次の瞬間には、ダンディの腹に拳を突き刺した。
「な・・・・・ゲフっ!!!!!!」
めり込んだ拳が体を持ち上げ、ダンディは初めて見せる表情を、殴りつけた人物に向けた。
その男は、血の気の失せた顔で、顔は丹精ながらも、髭が生え、そして・・・・・。
体の一部が腐った筋肉質の男。
腐乱した体から溢れるほどの神気を噴き出している。
「メラァァアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「クソ野郎ォオオ!!!!!!!」
カサノヴァの咆哮に、食い気味で腐りかけの男が吠えた。
そう。城から飛び出して殲滅呪文を食い破り、無敵と思われたカサノヴァ=ダンディに一撃を入れたのは・・・
メラが憑依したゾンビ兵 ―― ジャングロード・バンナムであった。
神が取り憑いたゾンビ兵。
名付けて 全能死体闘士!!!!!!1
体をくの字に折り曲げ、10メトルほど吹き飛ばされ、ぐうと唸ったあと、痛む体を起こすようにして立ち上がったカサノヴァ=ダンディは、土を払いながら、
「さすが、腐っても武神か。精神体だけで、ここまでやるか」と自嘲気味に言った。
「あんたのおおおお、あんたのせいでえええええ」と、腐りかけの筋肉男子が、オネエ言葉で吠える。
「はっは! 織り込み済みだろうよ! 今更!!!!!」
とカウボーイハットの男は笑った。
――――――――――
愛の奇跡があるとすれば。
それは、献身的な身代わり。
否。
死地にある愛しい思い人を、自分にしかできない方法で呼び戻すことも、愛の奇跡と呼べるだろう。
ピノコがクロちゃんの細い糸で繋がったクロガネの状態を常に把握していることは、クロガネ自身も知らない。
そして、コンマ2秒で、ほぼ即時的にクロガネの状態以上をピノコが把握していることを、クロガネは知らない。
今。
ヒカリのときの脅しとは違い、一刀両断のもと、首と胴体が泣き別れたクロガネは、おそらく、ほんの1分もせぬうちに、完全な死を迎える予定だった。
だが。愛の奇跡が、ピノコを進化させる。
いびつに変形したきのこのカサが、大量の胞子とともに、爆鳴気と同等の圧力を生じ、ジェット噴射の勢いで飛び出すことを実現させた。
それはさながら、空気のヒダが周囲の景色を歪めるごとくで、ウイユベールが見たのは、ゴウと爆音を響かせ、飛び立った巨大キノコの姿だった。
亜音速どころか、それすら超えてソニックブームを発生させた赤白のキノコは、クルクルと舞うクロガネの首を瞬時に包み込み、胴体ともども捕食した。
ばっくりと裂けた粘糸の牙をむき、優しく、愛おしく、クロガネの全てを飲み込んで。。
ゆっくりと振り返り、非威の甲冑武者をギロリと無数の目で睨みつけた。
―――――――――――
田中は、クロガネの首が刎ねられた時。
それに全く気づかなかった。
それも、いたしかたない。
スケルトの圧力は増すばかりで、一向に気が抜けない。
自分でもやりすぎかな、と思うところはあった。
マグナム弾12発を喰らわせ、火炎放射器で炭になるまで焼き尽くす。
それ以外、スケルトの半神化を止める術を思いつかなかった。
田中はスケルトの半神状態を知っている。5メートル近い巨体に変身して、ただただ破壊を繰り返す知性のない化け物。
それがデミゴッド形態のスケルトだ。
田中は、スケルトが覚醒する前に、徹底的に勝負を決めたかった。
慈悲や憐れみなどは不要。
ただ単に相手を無力化する必要がある。そうでなければ、死ぬのは自分自身である。
あともう少し。あともう少しでスケルトを滅せる。
田中は汗をかきながら、必死になっていた。
そして、それを邪魔したのは他でもない。
田中が全く気づかないうちに近寄っていたカサノヴァ=ダンディだった。
メラが憑依したジャンクロードの攻撃を捌きながら、カウボーイハットの男は、田中の無防備な腹に一撃を入れた。
そして、一言。
「うちの子孫を殺すんじゃねえ」
はっきりとそう言った。




