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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第五部 鉄勇者の果断
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第201話  『fumihiko』

メガネは小学校1年から付けるようになった。

甘やかされて育った。


田中は夢の中で、思い出していた。幼少のころの自分を。自分の家族のことを。


田中の母親は狸顔の美人で、ずっと笑っていた。優しく過保護。何をするにも手をだしてくる人だった。

母親はお嬢様育ちだった。世間知らずだった。


田中は小学校の低学年で、そのことに気づいていた。


口癖は「ふみひこちゃんは天才!!」だった。


勉強をするときはずっとそばで教えてくれた。


後になって、お手伝いさんが常駐している家というのが、他にはあまりいないということを知り、意外に思った。


成績は高校2年まで常に学年トップ。なのに全く目立たない。

勉強はあまり真剣にやった記憶がない。


運動は苦手で、走るのが遅かった。


外で遊ばせてもらった記憶がほとんどない。

怪我をするからという理由で。


ちなみに学校は小学校から私立。

都内の学校に送迎してもらっていた。


高校までずっと、通学は母親と一緒だった。


それをクラスメイトに揶揄われたりした。


幼い頃から小太りで、目立たないキャラだった。

小学校の時、初めてゲーム機を買ってもらい、以後、ねだればソフトも殆ど買い与えられた。


母親はゲームは1日1時間と言ったが、そこは、上手に隠れて3、4時間はゲームをした。


本も好きだったので、いろんな本を読み、技術を身につけた。

ミニ四駆、プラモデル、パズル、ボードゲーム、基盤、パソコンの組み立て。


そのあたりは、なんでも手を出した。


勉強の成績が良かったので、許されていた。

だが、大人になって思うのは、家が裕福だったから。


歯医者の3代目が父親。

今は歯医者が増えて以前ほど儲からないというが、それでも3代目のメリットはデカい。

設備のお金はほとんどいらないし、顧客は引き継げるし、宣伝費もほぼ不要。


母親いわく、父親は将来を見ていたので、新型の設備投資を恐れずに行い、時代に遅れることもなかったと聞く。


一人っ子だったが、跡は継がなくて良いと言われていた。

興味がないこと以外は集中力が続かない。

田中はそんな子供だった。


アスペルガー症候群を疑い、母親が診察に連れて行ったが、医者の判断はNOだった。


ADHDの傾向が見られるが、いたって普通。頭の良い子にありがちな注意不全が見受けられるが、年齢を重ねるごとに治るでしょう。


医者はそう言った。


外で遊ぶ機会も少なく、友達とも仲良くなれなかった田中は、一人で過ごすことが多かった。


明るく笑顔を絶やさない子と母親は息子を見ていたが、田中は過保護に育てられたおかげで、コミュニケーションがやや苦手な子に育った。


中学では目立たず、特に事件も何もなかったが、高校になり入学してきた意地の悪い連中に目をつけられた。成績トップというのが気に入らないらしかった。


「おい、田中。おまえ、臭いんだよ」

という言いがかりから始まり、


「邪魔だ、どけ」と、肩を小突かれる。


このまま田中が卑屈な態度を取れば、いじめにエスカレートしそうな雰囲気だった。


田中の学校は小学校からそのままエスカレーター式で、ずっと共学。だが、高校から入ってくるのがおよそ6割で、中学までの連中は金持ちだと敬遠される場合があった。


高校入学からしばらく、何度かそうした嫌がらせがあったが、田中は終始笑顔だった。


高校の一学期が半ば過ぎた頃、いじめっ子の一人が席に座る田中に覆い被さり、耳元で言った。


「あのさあ、小遣い足りないんだけど。俺たち友達だろ? ちょっと貸してくれよ」

と。


ある意味恐喝である。


田中は微笑んで、

「いいよ。いくら?」と聞いた。


「へへ。3万でいいや」といじめっこが言った。


だが田中は意外な言葉を返した。

「期限は? 利子は年利12%で良い?」と田中が笑顔で言った。


「は? お前何言ってんの?」

といじめっ子が言った。


田中は前を向いたまま言った。

「水野晴雄くん。7月19日生まれ。東京都墨田区●●3丁目14番5号。一軒家に5人暮らし。主な収入は父親。鉄道会社勤務。勤続23年。水野達郎41歳。母親は近くのスーパーでパート。祖母智恵さん。妹千雅ちゃん。の5人暮らし。

血液型はA型。趣味は野球。

他にもいろいろ知ってるけど、あってる?」


と、田中は言った。


いじめっこは咄嗟に田中の襟をつかみ、ひきづり上げた。


「てめええええ!」


と言った後、何も言えなくなった。


田中は水野を見て言う。

「水野くん。この学校ってさ。進学校でしょ。親御さんもお金をいっぱい払ってキミを入学させてると思うんだ。でね。恐喝とかいじめで、もし君が退学にでもなったらさ。君も将来台無しだと思うんだ」


と田中は平然と言った。


水野といういじめっ子は手を振り上げて田中を殴ろうとしたが


「暴力は良くないと思うよ。周りを見たら?」


と田中が言う。


クラスメイトが注視していた。女子は手を口にあてて怖がっている。


「おい水野、やめとけ」

といじめっこ仲間が水野を制した。


「竹内くんありがとう。きみたち。じゃれるくらいなら良いけどね犯罪はだめだよ。この写真とか、どう?」


田中がスマホの画面を見せる。


そこには、女性とラブホテルに入る竹内と呼ばれた男子が映っていた。


「僕、喧嘩弱いからさ。殴られるのも怖いし。いろいろ調べたんだよ。君たちのこと。仲良くしようね」


田中はそう言ってにこやかに笑うと、教室を出て行った。


田中を見て呆然とするいじめっ子たち。

進学校にくるような子だから、頭も悪くないし、根性も据わっていない。田中はそのことを知った上で、対処した。


田中は額に汗をかきながら廊下を早足で歩き、トイレに駆け込むと、ドアをしめ、便座にしがみつき、盛大に吐いた。

顔には出さなかったが、怖かったのだ。


呼吸が元に戻るまでしばらく震えた後、田中は恐怖を誤魔化すようにして強張った表情でなんとかニヤリと笑った。


―――――――


気がつけば、スマキにされていた。

肩を捻って縄を解こうとするが、きつく縛られて解けない。


視界は森の中。目の前に崖。視界がぼやけるが、見えないほどではない。メガネが無くなっていると気づいた。


意識がはっきりしてきた。スケルトに殴られ気絶した。腹パンで気絶するとか。都市伝説だと思っていた。


状況は正確には不明だが、予想としてはおそらく冒険者による襲撃。

なんとかこの状況から脱出して、事態を整理する必要がある。


田中は今みた夢について考えた。


――なぜ、このタイミングで思い出したんだろうか。


あの頃の弱かった自分。今は、少しは強くなったと思う。


クロガネと出会い、戦闘力は爆上がりしたと実感している。

実践に勝る訓練はない。


なにより身体強化を身につけたことは大きい。

体型も以前より引き締まったと思う。丸顔だからあまり分からないが・・・。


襲撃を打破するためには、自分も戦力になる必要がある。S級は無理でもせめてA級には。


田中は理解している。今の自分に足りないもの。

田中のポジションは、いわゆる、「軍師」である。


戦略物資の補給と戦略立案を行える軍師。自己贔屓としても優秀な駒だ。


だが、決定的に欠けている能力がある。


それは 『情報収集力』!


ウイユベールの神眼頼り。クロガネの気配察知頼り。


これでは軍師には、遅すぎる。

判断が遅れるのだ。

新たなスキルの獲得が必要と痛感していた。


田中は馬鹿ではない。控えめに言ってその逆。むしろ天才の類であった。


スキルの獲得条件を独自で試し、理解していた。


田中が求めたのは気配察知。それも広域の。


田中はこの島に来てから、自由時間はほぼ全て、ある場所にいた。


それは、アヌビスの住む洞窟。の入り口あたり。

広まった袋小路。


田中はそこで、目をつぶり瞑想する。それをこの10日ばかり繰り返していたのだ。


なぜ、そんなことをするのか。


それは、暗闇の中、静寂の中、ただただ膨大な神の気配の近くに身を置くことで、気配というものをより敏感に感じるためであった。


それは、太陽を直視することにも似て、他の小さい気配は何も感じられなくなる。


それほどまでに神の気配は大きく、身を震わせるほどだった。


最初はアヌビスの気配しか感じなかった。

目を閉じて座禅を組み、神経を集中する。


肌にびりびりくる神気が、洞窟の壁の向こうから感じられる。


そのうちに、神の気配にも慣れてきた。まるで磁力線のように気配が同心円を描く中、乱れに気付く。


そこに意識を向けると、存在圧を感じることができるようになった。


田中は、それを感じた瞬間立ち上がり、存在圧に向かって走り出した。


およそ400メートル。


洞窟から飛び出して、田中は体高7メートルもある巨大な二首の犬。オルトロスを見つけた。オルトロスも田中を見つけ、牙をちらりと見せて唸った後、興味がなさそうに視線を戻した。


手を握りしめ喜びを噛み締める。


気配察知に成功した。


そこまでくれば後はもう、それを常時展開するだけの作業!!!


意識して気配を読み続けるだけの簡単なお仕事!!!


田中はこうして気配察知を手に入れていた。



崖の下でスマキにされている田中は、スキルを起動させようとウンウン唸ったが、一向に発動することができない。


おそらく、スケルトのことだ。なんらかの魔道具でスキルを封じているに違いない。


神聖教の得意分野であるが、そうした魔道具は比較的、出回っている類のものだ。


田中の灰色の頭脳がいくつかの解決策を模索する。

アヌビスに助けてもらう、自分の腕をちぎってその後くっつける、スキル封じを破る、異世界から物を取り出してなんとかする・・・

およそ数十の可能性を模索する。


まず、周囲に見張りはいない。


少数で動いているのだろう。それはそうだ。大勢でこの島に来たところで、犬に襲われて死ぬのがオチだ。


スケルトも田中じぶんがこれほど早く意識を取り戻すとは思っていなかったのではないか。


――侮られている。


普通なら悔しいとか腹が立つとか思うところだが、田中は違う。ラッキーと素直に喜んだ。


これは好機だ。


なんとか抜け出して加勢できれば、不意打ちもできる。


まず自分の状況を確認する。後手で縛られ、その上からゴザのようなものでぐるぐる巻きにされて、その上から、肩、腰、膝で縛られているようだ。

顔は外に出ている。


田中はそのまま転がって崖に近寄った。岩がごろごろしている。


崖に身を擦り寄せて、なんとか立ち上がろうとした。


全身を包まれているので、思うように動かない。


身体強化で縄をちぎろうとしたが、スキルは発動しない。力不足だ。


ずりずりと時間をかけて、崖壁に寄り添う。顔を起点にせねば動けない。頬と顎で体をくの字にしながら、ゆっくりと上体を起こしていく。


やがて、ふらふらしながら、なんとか立ち上がることができた。


次は歩けるかどうかだ。


膝が結ばれているので、内股のようにヒョコヒョコ足を動かしてなんとか襲いながらも歩ける。


周囲を見渡す。


野営施設のようなものが置かれている。


簡易テントと布のバッグだ。ここがスケルトたちの基地なのだろうか。それにしては荷物が少ない。収納風呂敷があるのだから当然だろうか。


そもそも此処はどこだろうか。


島からは出ていないと思うが、城までどのくらいだ? アヌビスの洞窟はどっちだ?


自力で拘束を振り解く手段を考えないと、移動もままならない。


考えついたのは、木に体を擦って縄を切る方法と、テントを物色して刃物を取り出す方法、そして、最後にこのまま移動して道具を探すという3つのアイデアだった。


テントを物色するためには屈まねばならず、そうなると先程やっと立ち上がったのに、もし何も見つからなければ、再度、同じことをせねばならず、時間がかかる。

このまま移動するにせよ、100メートル歩くのに5分以上もかかるような速度では、どこまで行けるか定かではないし、途中、根や岩につまづくだろう。


となれば、結局消去法で、木で縄を解く以外選択肢はない。


周囲を見渡し、手頃な木がないか探す。


一つ、腰くらいの高さで枝が折れ、尖っている節を持つ木を見つけた。


そこまでヒョコヒョコ歩いていき、背中向きに擦り付ける。


すると、なんと、バランスを崩し、引っかかってしまった!!!


「なんとおおお」


腰でひっかかりそのまま体勢を崩し、田中はくの字に俺曲がったまま、木に吊るされてしまった・・・。


足をもがいてなんとか地面に届かせようとするが、完全に宙に浮いてしまっている。


そうしてしばらくもがいていたが、次第にどうにもならないと諦めかけた時。


目があった。


毛がはえていないコボルト・・・・。黒い瞳がおびえながら田中を見て首をかしげていた。


この時、田中は必死だった。


「助けて!! ねえ、キミ。たしかああ、名前はベス! ベスだよね!!! これ解いて!!! お願い」


田中はテイムスキルもなければ、ウイユベールのような翻訳スキルもない。


ベスと呼ばれたコボルトは、田中の叫びを聞いて驚いた顔をした後、にやりとして、腰からナイフを取り出すと、復讐の機会を得たとばかりの悪い顔をして、そのナイフをペロリと舐めた。


―――――


どさり。と音がして田中は地面に落ちた。


バウとコボルトが吠え、ナイフで田中の縄を切った。


一瞬殺されるかと覚悟を決めた田中だったが、どうやらコボルトは縄を切ってくれたようだ。


最後に後手の縄を切ってもらい、久々の自由を感じると、痺れた両手を振りながら、田中は礼を述べた。


「キミのおかげで助かったよ!!! 本当にありがとう」


よし、と気合を入れてスキルを使おうと念じたが、スキルはまだ発動しない。


田中は自分の体をいろいろ触ってみて、服の下、肩のところに貼りついている紙を探り当てた。


しおり程度の大きさのそれは、剥がしてみると、護符だった。



なにやら幾何学模様が描かれていて、これがスキルを封じていたに違いない。

他にも無いか探ったが、特に何も無い。


ジャキンと音がして、田中の両手にマグナムが握られている。


「さあ、反撃ですよおおおお」と、一人、トリガーハッピー状態になり、鼻息も荒く、走り出した。


田中の気配察知が戻る。戦況は概ね把握できた。数カ所に分かれ個々に戦っている。田中が参戦すべきは・・・。一番大きな反応。そこに違いない。


「ありがとう! ベスくん!!! またねええ」とコボルトに礼を言い、田中は走り去って行った。


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