第200話 『サブライ』
あらすじ
どき! 犬だらけの島で襲撃されちゃった!
強制無能 VS いかれバトルマニア槍 VS 偽勇者カッコ笑
キノコ娘 VS 黒ゴケグモ女 おまけ 神眼少女
異世界アイドル暗殺娘 VS おさむらいさま ← いまここ
短いのとお待たせしたので、2話連続投稿します。
侍。
その語源は、「そばに居る」という意味の、”侍う”と言われる。
古くは貴族に付き添う用心棒、天守に侍る武装集団。
これらを総じてサブライと呼び、いつのまにか武士階級、それ自体を侍と呼ぶようになった。
エ=ルガイアにおいて、侍という職業は存在しない。
ワコクの一部貴族階級が、それを名乗ることはあるが、階級ではなく、どちらかと言えば、『剣聖』や『クロオビ』と同様に強さをあらわす称号として使われることが多い。
今から数百年前、日本の侍がワコクに流れ着き、鬼を退治した。その時から、ワコクには刀を扱う剣術が生まれ、そして”サブライ”というジョブスキルが受け継がれるようになった。
スキル保持者は、いずれもこの異世界人の血をひくものと言われている。
ゆえに。
鎧武者のワコク人、オンジが持つジョブスキル『サブライ』は、シーワルドの東方洋上に浮かぶ独立国『ワコク』にのみ受け継がれる、レアジョブスキルである。
『サブライ』のスキルはジョブスキルとして、身体強化、居合い、刀術、歩法、十手術などが組み込まれている。
異世界人の血をひくものが多く存在するワコクにおいては、わりと発生しやすいスキルであるという。
アーツの組み合わせにより強さは千差万別で、そのアーツの構成は個人により異なり、最強と呼ばれるものには『神速』や『心眼』が組み込まれていた例もある。
オンジは自らを『さむらい』と名乗り、スキル『サブライ』を喧伝している。
それは、強者を呼ぶ甘い蜜のようでもあり、敵を死地に誘う蟻地獄のような罠である。
サムライの本願は、一閃。ただ一閃。
一閃で全てを断ち切ることこそが目的であり、「しがらみ」も自らの「弱さ」も断ち切ろうとしている。
道半ばにして、偶然、新たな目的を見つけ、侍・オンジは、今、この島にいる。
―――――――
体中に薄いピンクの傷をつけ、異世界アイドル・ヒカリは、肩で息をしていた。
身に纏う黒装束は、切り裂かれ、布面積が半分以下になっていた。黒いミイラ姿のようにも見えるほど。
傷からは一滴も血が出ていない。
侍は、おそるべき腕だった。
布だけ切り取り、肌をかすめ、ピンクの筋だけ残すが、肌に一切傷をつけない。
こんな神業が人に可能かと思えるレベルで、ヒカリは翻弄されていた。
ブレながら近づく黒い影を、横凪一閃、刀を払うと、敵は遠のく。そして、皮一枚、いや布一枚が絶たれ、相手は近づけない。
「ふしゅうぅぅ」
頬面の下で、白い呼気が、蒸気をまとい吐き出される。
腰を深く構え、頬面の下の眼光を相手に見据える。
魔法をぶつぶつ詠唱する赤い頭巾の少女を木にもたれさせ、その前で、腰ダメに構える。
「何度やろうと無駄なこと。無益な殺生は好かぬが。
これ以上やるなら致し方なし。
次は、首を刈る」
冷ややかな視線がヒカリを見据える。
侍の声は地獄の幽鬼のように低く、男か女かも定かではなく、何人かの声が重なったような不快な響きだった。
だが、ヒカリも「はいそうですか」と引き下がるわけにはいかない。
舐められていると感じた。
殺すつもりなら、何度も殺せている。いや、殺されている。
――怖い。
ヒカリは心の底から、恐ろしさを感じた。
死。
死ねば終わり。
戦いの最中、死を感じるということは、すでに心が負けている。
ヒカリは距離を取りながら、震える手で起死回生を狙う。
その時、上空から影が舞い降りた。
巨体が、侍に背後から爪を振り下ろす!!
ギャギイーーーン!!
侍は振り返ることなく、刀を上に構えて爪を弾いた。
「ガアアアアア」
狼の口が大きく開き、開戦の咆哮。
それは、レディ=キラを追わずに獲物を変えた長男・サグだった。
ヒカリは好機を見た。
侍の後ろに、詠唱を続ける魔導士が、木に凭れている。
ヒカリですら分かる。あの詠唱にどれくらいの魔力が籠められているか。呪文が発動すれば、どれくらいの被害が出るか。
止めねば。
狼男の爪と、侍の刀が、剣筋も見えない速度で、はげしく鎬を削る。
大回りで魔導士に近寄り、仕留めれば・・・。せめて気絶させることができれば。
殺すことに躊躇しながら、ヒカリは森を駆ける。
ギャリギャリという金属音が続く。サグの猛攻を、侍は涼しい顔で捌ききっている。
殺気!!!
ヒカリの前を剣閃が走った。
飛ぶ斬撃!!!
木々を薙ぎ倒しながら、斬撃がかすめる。
手練れ。まさにその言葉が相応しい。サグの猛攻をいなしながら、ヒカリの進路を文字通り絶った。
「くっ」
頬面の奥の瞳が、ヒカリを牽制する。
「ガアアアアア」
狼男が吠え、手数を増やすが、侍はそれを見ることなく、見事に弾いていく。
「・・・・近寄らせなどしない」
地獄から聞こえるような声が、静かに言う。
「加減はここまで。散れ。夢想散華」
ヒカリは見た。
いや、正確には見えなかった。
侍の肩から先が消え、血飛沫が舞った。
曼珠沙華の花のような血飛沫が舞い、ヒカリには大輪の花が咲いたような幻が見えた。
血を吐き、ゆっくりと崩れ落ちる狼男・サグ。
「サグ!!!!」と叫ぶが、次の瞬間。
ヒカリは首が飛んだ。
はっきりと、自分の胴体を見て、自らが死んだのを実感した。
「はっぐっ」
だが、次の瞬間、首を押さえて、繋がっていることを確認した。
何が起きているのか全く分からない。
「見えたか。自分の死に様が」
鎧武者がゆっくりとヒカリを見る。
逃げることもできず、蹲り、ブルブル震えた。
力の差が大きすぎた。
「ひゃっく、ひゃっ」
ヒカリは地面を見て、泣いていた。呼吸がおかしくなっている。
殺される。間違いなく殺される。
手が震え、殺されること以外考えられない。パニックになっていた。
だが、いつまでたっても一撃は来なかった。
泣きながらゆっくり顔をあげると、そこには。
地面に横たわるサグ以外、誰もいなかった・・・・。
【マッチアップ結果】
サブライ:オンジ v.s 異世界アイドル暗殺者:ヒカリ
途中乱入 暗殺団長男狼男:サグ
結果
勝者:オンジ 決まり手:夢想散華
敗者:サグ(重症)、ヒカリ(戦意喪失)




