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4.だれも気づかない(2)
いつもの洗面台の鏡に顔を映すと、ふらりと、お母さんがいつも添えているピンクの小さな花瓶の花が揺れた気がして。わたしの目元も不安げな色をともしているのを目にして、どきっとする。
—―だめ、いつものようにしなくちゃ。……気づかれちゃう。……あの、よくわからない怖いものに。
鏡を通して、右後ろに見えるお姉ちゃんが先ほどまで手にしていて置き去りにした水着が詰め込まれたビニールバックが見えた。そのビニールバックが鏡を通してみると、藍色にくすんで見える。
びくりっと肩がはねた。急いで真っ青になった顔と手を洗い、お母さんの元に急ぐ。お姉ちゃんとお母さんを2人にしちゃ駄目ってお母さんの元に急ぐ。
急いで台所へ向かうとお母さんが、炊飯ジャーからご飯をよそっているところだった。カレー用の少し深いお皿に私もお母さん特製のカレーを注ぐ。カレーの良い匂いがふわりと漂った。
ちらりと、先ほどから視線を感じて仕方がないお姉ちゃんの方を向くと、まるで、見たことのない表情をしたお姉ちゃんが居た。
爛爛と目を輝かせて、目をこれでもかというほどに見開いている。口元からはよだれがたれそう。
(……私のお姉ちゃんは、こんな顔しない!)
わたしは、必死に悲鳴を飲み込みながら、震える手でカレーを注ぐ




