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3.だれも気づかない(1)
「ただいまー!わぁ、今日のご飯、私の大好きなカレーだー!匂いですぐ解った!」
家に辿り着き、おねえちゃんが、はしゃいだ声をあげる。……いつものおねえちゃんなのに、なにか違う違和感を感じ取って、わたしは、不自然な表情になりそうなのを必死に抑える。
……何故なのか解らないけれど、—―気づかれてはいけない気がしたから。……あの、ふたつの黒いウロを持つ、……あの、よくわからない怖いものに。気づかれてはならない気がしたから。
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お姉ちゃんのあとをついて、あまり表情を動かさずに、静かに家に入るのは、いつものわたしの行動とおなじ。だから、誰も気づかないと思っていたのに、(いつもお姉ちゃんはわたしの表情に敏感だけれど今のおねえちゃんは絶対に解らないって確信があるの)なにか微妙な違和感を感じ取ってしまったのか、お母さんが、心配げな表情をつくった。
「……美鶴?なにか、」
お母さんが、私に声をかけようとするのを、わたしは必死に遮ろうとする。手をあらってくる!と、珍しく大きな声をあげてしまって、そのままパンダのスリッパに足をつっこむと、洗面台に駆けた。
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