21 目覚め
◇ ◇ ◇
彼らからの情報を受け取ったクロウは、動揺を隠せなかった。
「じゃあ、お前たちは…情報を手に入れるためだけに?」
「そうだ。僕らははじめ、君たち人類の情報がほしかっただけなのさ。だが、ファーストコンタクトはうまくいかなかった」
ファーストコンタクト、それは先程クロウが読んだ、人類側から見た宇宙怪獣との歴史に書かれていたことを示しているようだった。
開拓船が新種の生物に襲撃を受けたという事件。
「おかしい…情報を取るだけなら、なぜ攻撃なんてしたんだ」
「違うよ。攻撃をしてきたのは、君たちの方が先だ。僕たちの姿を見た人類は、何も言わずに僕らの同胞を滅ぼそうとしたんだ」
「だから…殺したと?」
「ああ、はじめはそんなつもりはなかったんだけどね。攻撃的な種族は君たちが初めてじゃなかったし、僕たちはある程度痛めつければ彼らも降参すると、そう学習していたんだ。でも、違った」
宇宙怪獣を名乗る思考粒子から、後悔のような念が流れてくる。
「彼らは、最後まで僕らを攻撃しつづけたんだ。君たちの船に致命的な障害を与えるまでね」
「じゃあ、その後は…?」
記録によれば、宇宙怪獣とのファーストコンタクトの後、人類は彼らから数多の襲撃を受けることになった。
「ああ、あの時は恥ずかしながら、君たちの攻撃がある種のコミュニケーション手段なのではないかと考えたんだ」
「じゃあ、お前たちはただ人類が攻撃的な種族だからと、そんな理由で人々を襲っていたのか?」
「そうだね。ただ、それもすぐに誤解だということも理解したよ。なぜなら、そんな野蛮な種族がここまで文明を築くなんて、不可能だからね」
そう言うと、宇宙怪獣の意思は笑った。それは嘲りの感情がこもったものだということを、クロウは理解した。
姿も見えない、見えたとしてもきっとおぞましい姿であろうそれが笑っているということを、思考粒子は情報としてクロウに伝えてくるのである。
「結局、君たちの情報はこの星に降りた後に、大体手にすることはできたんだ。ただ、それで終わりではなかった。僕たちは君たちが生きる上で、不可解なものを重視していることを知った」
「不可解なものって…」
「感情さ」
感情、それは人を人たらしめる重大な要素だ。
だが、宇宙怪獣たちはそれを理解できなかったのだという。
「幸せ、怒り、悲しみ…あらゆる感情は、僕たちにとってはノイズとしか思えなかったんだ。そういう概念があることはわかった。だが、その本質は理解できなかった。人類それぞれの個体を見たら、その情報の発生要因は個体それぞれで違った。驚愕したね…いや、驚愕なんて概念を僕たちは持ち合わせていなかったから…とにかく、わけが分からなかったと言っておこう」
同時に、クロウの元へ情報が届けられてくる。
雄叫びを上げるもの、悲鳴を上げるもの、笑うもの、無反応なもの…
空を見上げた人間たちは、人それぞれの反応を返していた。
その光景は…宇宙怪獣が地球を襲った時の人々の反応を写したものであった。
「それ以外の記録も僕たちは持ち合わせている。だが、いくら情報を蓄積しても、君たちの感情がどう揺れ動くのか、どう生存に有効に働くのか、僕たちはさっぱり理解できなかったんだ」
「だから、250年間も…お前たちは」
人類と争い続けていたのか。
その言葉は、クロウの口からは出なかった。しかし宇宙怪獣はその言葉の意図を正しく理解していた。
「そうだね。ここまで長い間、1つの種族を観察することなんて今まではなかった。君たちと遭遇してわかったことなんだが、進化の過程で、僕たちは本能的な…一貫性のあるものしか理解できていなかったんだ。この思考粒子に出会うまではね」
その瞬間、思考粒子が震えて、クロウの元に新しい情報が届けられた。
「お前たちは、この粒子を見つけたから…人の思考を知ることができるようになったのか!?」
「そうだ。まさか君たちの方から僕たちと正しく情報を共有できるものを作ってくれるとは思わなかった。これには…感謝という言葉を示すのがいいのかな」
宇宙怪獣の記録には、破壊されたシグルドの残骸が映し出されていた。
その残骸から漏れ出した粒子に触れた宇宙怪獣は、その粒子の組成をまたたく間に理解した。
「この粒子は、情報を正しく伝達する力を持っている。本来の僕たちに似た特性をもったものだ。この粒子があれば、君たちが感情と呼ぶものも、僕たちは理解できるだろうと考えた」
その言葉を聞いた瞬間、クロウは背筋が凍るような感覚を抱いた。
「お前…!」
「ああ、そうだよ。君が今考えていること、抱いている感情は、全て観察させてもらっている」
なんということだろう。
クロウは思考粒子に取り込まれたがために、宇宙怪獣たちが情報を得る手段として使われてしまったのだ。
「いや、でもわからないぞ! お前たちは俺が思考粒子と同化しているなんて知らなかったはずだ!」
「いや、知っていたさ。君は、僕の体内で…機体を遠隔操作しただろう?」
「体内…ドラゴン型か!?」
クロウは、ガイア恒星系の戦いを思い出す。
あの時、クロウは遠隔操作型のシグルドを、ドラゴン型の体内で操縦していた。
「そうさ。あの時の機体の中にあった思考粒子、あれには君が宿るシグルドからの信号が送られ続けていた。その信号には君が思考粒子として存在しているという情報が載せられていたんだ」
「そんな…」
「ああ、あれはまさに…君たちの言葉で言うなら天からの贈り物だと思ったね」
クロウは今まで、宇宙怪獣はたまたま自分の意思が入ったシグルドの残骸を持ち帰ったのだと考えていた。
しかし、そうではなかった。
「お前たちは、はじめから俺のことを狙っていたんだな? ゼウスからわざわざ機体を盗み出したのも、それが理由だったんだな!」
「ああ、そうだ。すべてはクロウ・シノサカ、君を手に入れるための行動だった。いやぁ運が良かったよ。僕たちの同胞がたまたま君の肉体から情報を吸い出そうとしたおかげで、君の肉体には同胞の情報が入り込んでいた。おかげで、目的である君の意識を手に入れるために、君の体を動かして、シグルドをおびき寄せることができたんだから」
宇宙怪獣は、感情という情報を正確に理解するために、行動を行っていた。
しかも、その目的を達成するために、自分を狙っていた。
「これで、僕たちの当初の目的は達成できた。君という存在を得たことで、感情の動きについても知見を得ることができた。どうだい? 君から見て、今の僕は感情豊かにふるまえているだろう?」
悔しいけれど、認めるしかない。
宇宙怪獣は理解してしまったのだ。感情というものを。
そのことにおぞましさを感じながらも、クロウは宇宙怪獣へと思考を送った。
「だが…これで、お前たちの目標は達成できたんだろう? もう、人類からは離れるんだよな」
宇宙怪獣の目的が感情の理解なら、もう宇宙怪獣は人類に用はないはずだ。
このまま放浪の旅に出るのであれば、人類は天敵と別れることができる。
「いいや。残念だがそれは違う」
だが、宇宙怪獣の回答は、クロウの考えとは異なっていた。
「なぜだ! お前はさっき当初の目的を達成できたと言っていたじゃないか!」
そう叫ぶ、クロウだったが…
「…あぁ」
宇宙怪獣から送られてくる思考を受け取って、彼らが人類から離れられない理由を理解した。
「残念だがクロウ。僕たちは感情を理解することで、新しい目的を手に入れてしまったんだ。君にはこの感情がわかるだろう?」
思考粒子の波が、クロウを包む。
その振動に込められたのは、様々な感情であった。
そして、その中で一番大きなもの…それは…
「僕たちは様々な種と情報を交換してその力を手にしてきた。情報を交換した種の中には、君たちが滅ぼした星のものたちもいる。今、その種を起源とする僕の一部がね…こう言っているんだよ」
――人類は、滅ぼさなければならない。
それは怒りや憎悪と言った、どす黒い感情であった。
彼らは、人類の感情を知ったことで、復讐心というものを、手にしたのであった。
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