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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【驚動編】 第3章 竜王誕生
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15 赤い惑星の主

 ◇ ◇ ◇


 統一時間11月5日 00時00分。

 パルテノス恒星系第1惑星アテナ近郊での戦いは終結した。


 ヴァルハラより放たれた次元振動砲が、放送衛星ごとファブニールを消滅させたのを確認した宇宙怪獣が、次々と宙域から離脱していったのだ。


 アリーヨは逃げ出した宇宙怪獣たちに対して、追撃を加えたが、敵の掃討を完了することはできなかった。

 宇宙怪獣がホールを生み出し、その内部へと逃げていく。

 ホールへの侵入を試みようとした、血気盛んな殲闘騎パイロットもいたようだが、結局部隊長から止められた。

 ホールの内部環境、そしてホールが向かう先がどこか、見当もつかない。

 そんな危険な場所に、貴重な人員を送り込むことなどできない。


 部隊長は人を送り込ませるような危険なことは行わなかったが、かわり無人偵察機をホールの中に送り込ませると、部隊を引かせた。

 その判断は、賢明なものとして、後に賞賛されることになった。


 ◇ ◇ ◇


 ヴァルハラの艦橋では、アリーヨが珍しく真面目な表情で考えごとをしていた。


「さーて、これからどうなるんだろうね…」


「それよりも、司令」


「なんだい?」


「アテナの行政局と報道局から、放送衛星の破壊について話が聞きたいと連絡が入っております」


「あー…そうだったね。うん…これは面倒くさい」


 ご自分でやられたことでしょう。

 とチルは頭の中で考えたが、口には出さなかった。


「事前連絡を忘れていたからね。まぁいい。今から手配すれば数日後には新しい放送衛星が届くだろう。それまでは本艦を衛星の代替として使うよう、伝えておいてくれ」


 アリーヨは前髪をいじりながら、つまらなそうに答えた。

 ヴァルハラをはじめとした、銀河連合の巨大艦艇には恒星間連絡用の放送衛星と同等の機能を持つ通信システムが搭載されていた。

 無論、これは本来、惑星艦放送のために使うことを想定されたものではない。


「いえ、司令…」


「なんだい?」


「行政局と報道局には、司令が直接話をつけていただきませんと…」


「…僕じゃなきゃ、ダメかい?」


「当たり前です!」


 チルの剣幕に、アリーヨが体を震わせた。


「今回の作戦、宇宙怪獣は追い出すことができましたが、被害が大きすぎます! それに放送衛星は惑星運営における重要なインフラなんですよ! 司令はそれを破壊した説明を、部下に任せようとお考えなのですか?」


「わかった、わかったよ! 僕から連絡は入れる!」


 アリーヨは慌てて頭を下げ、チルの怒りを鎮めようとした。

 参謀のチルは事後処理を部下に押しつけようとする上官をしかりつけるほどには、肝の据わった女性なのであった。


「しかし…これからやることは山積みだ。まずはノイマン博士と話をさせてくれ」


「それは、最優先でやらなければならないことですか?」


「ああ、最優先も最優先さ。なんせ、人類の未来がかかってる…かもしれないからね」


 ◇ ◇ ◇


【太陽系 第3惑星地球 月軌道】


 統一時間11月5日 03時00分。

 真っ白な衛星の目の前に、黒い穴が開く。


 そこから次々と宇宙怪獣の群れが飛び出してきた。

 彼らは皆、パルテノス恒星系の戦いに参加したものたちであった。


 大小の宇宙怪獣たちは、そのまま群れをなして進んでいく。

 その先にあるのは、赤い惑星。

 人類発祥の星、地球であった。


 ◇ ◇ ◇


 地球に降下した宇宙怪獣たちの群れはだんだんと小さなグループへと分かれていく。

 あるものは海へと降り、あるものは山へと帰っていく。

 その中の小さな一団は、ある目的のためにとある都市――かつて人々が東京と呼んでいた街へと訪れていた。


 地球の海は赤い、それどころか地面すら赤い、風により土が舞い大気すらも赤く見える有様である。

 そして、東京にあるその建物も、地球と同じく赤い色をしていた。


 東京タワー。

 中心部から2つに折れ、100メートル足らずの大きさとなったその頭の先端にそれは座っていた。


 東京タワーの前に到着した宇宙怪獣たちは、恭しくその存在に頭を下げた。

 塔の先端に座るのは、宇宙怪獣の指導者であった。


 その姿は、先ほどの戦いで消滅させられた4体の宇宙怪獣――ファブニールと同じである。


 ファブニールが、右手を前に出した。

 すると、東京タワーの下にいた宇宙怪獣たちが、身を起こし、翼を羽ばたかせファブニールの前へと上昇した。


 ファブニールの右手の先端から触手が放たれる。

 触手は宇宙怪獣に絡まると、先端を皮膚に突き刺し、体液を吸い取っていく。


 宇宙怪獣は咆哮を上げるが、その顔は恍惚としていた。

 数十秒後、宇宙怪獣の吸収を終えたファブニールは、タワーの先端から立ち上がると、咆哮を上げた。


 咆哮と同時に、ファブニールの肉体からは赤い光が放たれる。

 光は瞬く間に空を覆うと、地球上を覆い尽くしていく。


 ◇ ◇ ◇


 咆哮を上げるファブニールの体内では、ある1つの意思が存在していた。


(そうか、この姿をした俺たちは滅ぼされたか…)


 その思考の正体は、ある人間のものである。


(まぁ、いい。これで俺たちの意思は、人間に伝わった)


 その正体は元銀河連合軍の殲闘騎パイロットであり、半年前まで殲闘騎シグルドの中に存在したクロウ・シノサカの意識であった。


(あとは彼らがどう動くかだ…このままどちらかが滅びるまでの戦い続けるか、妥協点を見つけて、平和を築くことができるのか…)


 そこまで考えたところで、ファブニール=クロウは咆哮を止めた。

 同時に地球の表面を覆っていた光も消える。

 その光はパルテノス恒星系での出来事を、地球に暮らす宇宙怪獣に伝えるための光であった。


 クロウは、光によってパルテノスでのできごとは、この地球に住む全ての宇宙怪獣に伝えたのであった。


 ◇ ◇ ◇


 同様の出来事が、他の宇宙怪獣たちが住む星でも行われていた。

 それぞれの星にも、ファブニールの同様の姿をした宇宙怪獣たちがいた。


 彼らには共通点がある。

 それはクロウ・シノサカという存在。


 全てのファブニールの内部にはクロウの意識が存在している。

 それどころか、全ての宇宙怪獣の中に、程度の差はあれ、彼の意識が植え付けられていた。つまり、数え切れないほどの数のクロウ・シノサカが、宇宙怪獣の中に存在しているのである。


 今やクロウ・シノサカの意識は、1つだけのものではない。

 クロウ・シノサカは、宇宙怪獣という存在、それを代表する全にして1つの意識となっていたのであった。


 そのきっかけは、半年前にさかのぼる…




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