14 宣戦
◇ ◇ ◇
「これ以上、人類が無計画な宇宙開拓を続けるなら、我々宇宙怪獣は総力を上げてあなたたちを殲滅すると!」
ファブニールの宣言は、ヴァルハラの艦橋からも確認できていた。
映し出された映像は、人々を驚愕させた。
「…まさか、宇宙怪獣が人間の言葉を話すなんて…」
「チル参謀、通信の対策は大丈夫かい?」
「はい、司令の指示した通りに、ファブニールからの放送はアテナの外へは出ないよう手配済みです。しかし、司令はこのことを予想していたんですか?」
「ふむ、これは想定していたよりも大事だったけどね。いや~、お茶の間に宇宙怪獣が映るかもしれないからって、そうしていたんだけど」
そう言うと、アリーヨは頭をかいた。
その動きを見て、チルは彼が嘘をついているということを、察した。
アリーヨは敵の度肝を抜く作戦を考えるのは得意であったが、個人的な嘘をつくのは、苦手だったのだ。
「それで司令、どうするんですか?」
「ああ、あれね。うん、クロウ・シノサカの格好をした宇宙怪獣…」
モニターでは、今でもファブニールの演説が続けられていた。
「我々は、クロウ・シノサカの肉体、そしてエインヘリアルシステム内にあったデータを読み取ったことにより、あなたがたの思考を理解することができるようになりました。このチャンスを得たことにより、あなたがた人類への警告ができるようになったのです」
「ふむ…彼らはシノサカ大尉の肉体を使って、奪取したエインヘリアルシステムを使いこなせるようになったのか?」
「さぁ、それは定かではないけど、なかなか興味深いことを言っているのは確かね」
アリーヨのつぶやきに、ルーシーが答えた。
「でも、エインヘリアルシステムを手に入れたところで人間の思考が理解できる…なんていうのは話が飛躍しすぎている気もするわね。そもそも、クロウ・シノサカが宿るミソラ騎ならわかるけど、奪取されたシグルドβに入っていた思考粒子は情報を運ぶだけのもののはず…」
「たとえば、シノサカ大尉の死体から、意識を学んだというのは?」
「そんなのオカルトよ。それに、そんなことができたとしたなら、わざわざエインヘリアルシステムを奪う必要なんてないはず…」
そこで、ルーシーはあるできごとを思い出した。
「待って…」
ルーシーは手に持った端末を操作する。
そこには半年前のシグルドの整備記録が表示されていた。
「まさか…そういうことなの?」
「なにか気づいたのかい?」
「ええ、まだ多少オカルトよりではあるけど、まだ納得できる仮説ができたわ」
「…聞かせてもらえるかな?」
「まず、ファブニール…というか、放送に映っている男。あれには少なくともクロウ・シノサカの意識らしきものが入っているわ」
「…それは、どういう?」
「あいつらはクロウが入った思考粒子を奪っていたのよ! 半年前の戦いの時に!」
ルーシーの話を聞いたチルが、手元にホログラムモニターを浮かび上がらせ、ミソラの戦闘記録を調べはじめる。
「4月13日の戦いで、アカツキ大尉の乗るシグルドは右腕を失っている…」
「ええ、ファブニールとの戦いでね。それで、ヤツは戦場を去るときにシグルドの右腕を持って離脱したの」
殲闘騎シグルドは、搭載されたエインヘリアルシステムによってパイロットの思考を読み取り、機体操作の補助が行われるようになっている。
思考制御の手助けをする物体の名前は、思考粒子と言い、それは機体の全身に充填されている。
「ファブニールが右腕を奪ったのは、シノサカ大尉の意識が入った思考粒子を奪う…ため!?」
「あくまで仮説だけどね。でも、それならヤツがクロウの体と、エインヘリアルシステムを手に入れることによって、人の考えが理解できたと言ったのかがわかるでしょ?」
ルーシーの考えは、現在の所、もっとも納得のいく説明だった。
だからこそ、ルーシーたちの間で、重苦しい空気が流れた。
なぜならそれは――この仮説が正しいとするならば、1つの問題が発生していることを意味していたからであった。
エインヘリアルシステムを手にして、人間のことを理解した宇宙怪獣。
その宇宙怪獣が人類に対して宣戦を布告した。
だが、もし宇宙怪獣がそんなことを考えたとしても、宇宙怪獣に連れ去られたであろうクロウの一部分は、宇宙怪獣の肩を持つ必要は無い。
つまり…
少なくとも、ファブニールに連れ去れたクロウ・シノサカ、今彼らの目の前で演説をしているクロウ・シノサカは宇宙怪獣側につき、人類を敵に回したのだ。
「人類は今、無秩序にその版図を広げようとしている。だが、あなた方はその過程で数多くの惑星の生物を殺戮してきた…」
クロウの演説は、まだ続いていた。
アリーヨはその映像を一瞥すると、ため息をついた。
「いろいろと気になることはあるが、これ以上この放送を見ていても得られるものは少なそうだね。そろそろ、終幕としよう」
そして、その言葉と同時に右手を上げる。
次元振動砲の発射を指示しようとしたのだ。
「待って!あの個体にはクロウ・シノサカの意識が入り込んでいる! 我々の貴重なサンプルになり得るわ!」
「いや、アレは貴重なサンプルではないだろう」
「どうして、そんなことが言えるの? あれは人語を理解している、唯一の宇宙怪獣かもしれないのよ!」
「アカツキ大尉率いる部隊が、先ほど1体のファブニールと遭遇、戦闘し、これを撃退したそうだ。だが、その時、彼女たちは戦闘中のファブニールからクロウ・シノサカの声で通信が入ったと報告してきていた…彼女たちは、これを理由にファブニールの本体を倒したと主張したんだけどね…」
「ああ、なるほどね。あなたはこう言いたいわけだ。今や、クロウ・シノサカの意識は複製され、複数体の宇宙怪獣の中にあるって」
「そういうこと、ちょうど君が今やっている研究と同じようなことを、宇宙怪獣が実現したということさ」
その一言を聞いて、ルーシーは面白くなさそうな表情になる。
だが、そんな顔を見せたのも一瞬で、そのまま、アリーヨたちに背を向けた。
「わかったわ。ならさっきの発言は撤回します。あなたの言うとおりなら、サンプルはまた別の場所でもとれるでしょう」
「ご理解、感謝します」
「いいえ、こちらこそ悪かったわね。作戦に口出しなんてして」
ルーシーが艦橋を出て行ったのを見送ると、アリーヨは上げていた右手を前に振り下ろした。
数秒後、ヴァルハラから放たれた次元振動砲が放送衛星をファブニールごと消滅させた。
◇ ◇ ◇
次元振動砲による光を、ミソラたちは無言で見つめていた。
戦いが終わったということよりも、ファブニールが全て倒されたということよりも、クロウが宇宙怪獣の側に立ち、人類に対して宣戦したという出来事の衝撃の方が大きかったのである。
「…ねぇ、クロウ」
沈んだ声が、コクピットに響いた。
「なんだ?」
「あなたは、クロウ・シノサカなのよね? 間違ってないのよね」
不安そうな声。
クロウは、そんなミソラの声を聞いて、あるはずのない胸がざわつくような感覚を抱いた。
「…当たり前だろ。体はないけど、俺は俺だ」
「そうよね。ごめん…変なこと聞いた。あれは宇宙怪獣で、アンタとは関係がないのよね」
クロウは、何も答えられなかった。
ファブニールの放送を見ながら、クロウは映像に映る人物が自分自身だということに気がついていた。
そして、それがただ自分を模した存在でもないということも…
「…まずは疲れてるだろ? 艦に帰ろう」
ミソラの質問には答えないまま、クロウは話を変えた。
「…………うん」
しばらくの間の後、シグルドはヴァルハラへと向かって動き始めた。
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