13 ファブニール
◇ ◇ ◇
「話を聞いてくれ、ミソラ!」
ファブニールによるクロウの声での通信は、ミソラに少なからず衝撃を与えた。
しかし、彼女の動揺は一瞬のうちに、怒りへと変わる。
「お前はあああ!」
目の前の宇宙怪獣が、過去、彼女の仲間達を手にかけたことを、思い出したのである。
さらに、やつは罪深いことに、クロウの真似までして彼女を揺さぶろうとした!
それは、ミソラにとって耐えがたい侮辱なのであった。
シグルドは、ファブニールに接近するとグラムを振るう。
グラムの危険性を知ったファブニールは斬撃を受けることなく、後退することで攻撃をかわした。
だが、ミソラの攻撃は止むことは無い。
それどころか…
「アレックス、セレナ! 至急アタシの所に来て!」
目の前の敵を追い詰めようと、さらなる増援を呼ぶ。
「わかった! で、でも…いいのか? 俺たちが来ると放送衛星の防衛が…」
「かまわない! 今目の前のコイツから通信が入った! コイツは、クロウの声でアタシに話しかけてきたの!」
ミソラは攻撃の手を緩めずに、怒鳴った。
いくら姿形が同じ宇宙怪獣が4体いたとしても、クロウの体は1つしかない。
そして、彼の肉声って通信をしてきたということは…
「つまり、コイツは半年前…ジョセフを殺した張本人! アタシたちが追っているファブニールの本体ってこと!」
「…そうか!」
途端にアレックスの声に殺意がみなぎる。
僚友を目の前で殺された彼は、ファブニールに対してミソラに劣らない憎しみを抱いていたのだ。
「ミソラ、ワタシたちは援護に回らなくていい?」
「カンナたちは通信衛星の背後で待機していて、他の宇宙怪獣たちが放送衛星を通り越してアテナに攻撃を仕掛ける可能性は十分にあるから!」
「…わかった。でも、ここから狙撃はやらせてもらってもいいわよね?」
「もちろんよ! 司令からの命令通り、放送衛星は他のやつらに渡してもかまわない! でも、コイツだけは…アタシたちの手で墜とす!」
ミソラの斬撃をかわしていたファブニールだが、後方から飛んできたレーザーに当たる。
アレックスとセレナが放った援護射撃が、直撃したのだ。
死角からの攻撃で、ファブニールの動きが、一瞬止まる。
ミソラはその隙を逃さずに、グラムを振った。
その斬撃は、確実にファブニールに届くはずだった。
しかし、宇宙怪獣は起死回生の手段に出る。
レーダーから、姿を消したのだ。
それはヤツがバッタ型であった頃からの特殊能力だ。
数秒後、ファブニールはミソラたちから距離を取った場所に現れた。
しかし、移動が終わった瞬間、宇宙怪獣の肉体をレーザーが貫いた。
カンナが放ったスナイパーライフルのレーザー弾が、ファブニールを捉えたのだ。
それは、偶然による出来事ではない。
度重なるシグルド隊との交戦の結果、人類はファブニールの瞬間移動後の出現地点を予測することに成功していたのだ。
「その技は、もう見飽きたのよ!」
レーザーライフルとは比べものにならない威力の攻撃を食らい、ファブニールの動きが止まる。
「今度こそ、トドメッ!」
同時に、ファブニールの目の前にミソラのシグルドが現れた。
ファブニールが移動を終えたのを見計らって、シグルドを動かしていたのだ。
「みんなの…仇!」
上段から振るわれたグラムが、ファブニールの脳天を切り裂いた。
刃は止まることなく、宇宙怪獣を両断する。
同時にグラムの刀身に使われているナノメタルがファブニールの体内に侵入する。一拍の間を置いて、両断された肉体が光を放ち、爆発した。
ミソラたちの敵は今度こそ宇宙の塵となったのであった。
「うおおおおおおおおお!」
「やった! やったよぉ!」
コクピットに、アレックスとセレナの歓声が響いた。
ミソラたちは、ついに宿敵の命を奪うことに成功したのである。
「やった…やったの?」
歓声が響く中、ミソラはまだ、自身がファブニールを打倒したことを、信じることができなかった。
「レーダーにも反応なし。ミソラ、俺たちはヤツを倒したぞ」
しかし、クロウからの報告を受けて、だんだんと実感がわいてくる。
「そう、本当に…やったのね」
ミソラは、そう呟くと。まぶたを閉じた。
瞳の奥からあふれてくる、涙をクロウに見せたくなかったのである。
「…ミソラ、お疲れ様。喜んでる所申し訳ないんだけど、報告があるわ」
喜びをかみしめている中、カンナから通信が入ってくる。
彼女の声を聞き、自分たちがまだ作戦中であることを思い出したミソラは、涙を引っ込めると、努めて冷静にカンナの通信に応えた。
「なに?」
「ファブニール3体が、通信衛星に取りついた。やはりヤツらの狙いは衛星にあったみたい」
「そう。司令の言うとおりだったのね」
放送衛星を確認すると、カンナの言うとおり3体の宇宙怪獣が通信衛星の回りを飛び回っていた。
「どうする?」
「どうするって、司令の言うとおりにするわよ。アタシたちは全騎、この宙域を離れる」
「了解」
カンナとの通信を終えると、ミソラは全殲闘騎へ宙域を離脱するよう、指示を出した。
「アタシたちの目標は達成した。作戦指示書にあるポイントまで、全騎機体を下がらせて」
あとのことは、アリーヨが引き受ける手はずになっている。
ミソラたちは宿敵を倒した喜びをかみしめながら、機体を指示された場所まで移動させはじめた。
◇ ◇ ◇
同時刻。
迎撃艦母艦ヴァルハラの艦橋では、3体のファブニールによって通信衛星が占拠されたという情報が入っていた。
「本当に、司令の言うとおりになりましたね…」
参謀のチルは驚きを隠せないといった様子で、アリーヨの方を見る。
「まぁ、彼らの動きからなんとなく予想はついていたからね」
一方のアリーヨは、別段驚いた様子もなく、いつもの調子でそう答えた。
「彼らだって、バカじゃない。特にここ半年で知恵らしきものもずいぶんつけてきた。そんな彼らがアテナを襲うには非効率なルートをわざわざ選んで攻撃をしかけてきたんだ。そうなると、彼らの目的は単純にアテナを襲うことじゃないって予想ができるだろ」
「はぁ…」
アリーヨの言いたいことは分かるが、まだ納得ができないチルである。
彼女は軍学校時代から優秀な成績を納めていたが、それは教科書に書いてある通りのことをこなすのが、誰よりも得意であったからだった。
言い換えると、チルは決められたことをこなす能力に優れていたが、アリーヨのような柔軟な思考は持ち合わせていなかったのである。
だからこそ、彼女は自らの上官に対して畏敬の念を抱いていたし、一方のアリーヨは誰よりも模範的な回答を出す彼女を、重宝しているのだと感じていた。
「次元振動砲の準備はできているね?」
「はい。いつでも発射できます」
司令の確認に、チルが答えた。
放送衛星に取りついた宇宙怪獣たちを、次元振動砲の一撃で葬りさること、それが今回の作戦であった。
現在、作戦は最終段階に入っている。
あとはアリーヨの指示に従って、次元振動砲を放てば全てが終わる。
「よし。じゃあ、その状態を維持しておいてくれ」
だが、アリーヨはまだそれを実行しようとしなかった。
「…すぐに撃たないのですか?」
「うん。彼らが何をしようとしているのか、君も興味があるだろ?」
「…なっ!?」
思わず絶句するチルである。
「正気ですか! 司令!」
「正気だよ。僕はいつだって正気さ。もっとも、周りの人たちはそんな僕を奇人と呼ぶがね」
気の抜けた態度を崩さず、アリーヨは答えた。
「大丈夫。何があっても結果は同じさ。それなら、得られるものは多い方がいいだろう?」
「このままヤツらの様子を見ていても、得られるものなどなにもないと思いますが?」
「それはまだわからない…だろ? ノイマン博士」
チルの言葉に答えながら、アリーヨは背後に立つ少女に話を振った。
「ええ、ヤツらが放送衛星を狙う理由。それを知れれば、宇宙怪獣の研究が進むかもしれないわ」
「しかし…!」
そこまで言って、チルは自分の意見を飲み込んだ。
アリーヨたちの判断は、常識的に考えればあり得ないものだた。
しかし、今、彼女の目の前に立つアリーヨとルーシーは常識的なことしか言えない人々とは比較にならないほどの実績を残しているのだ。
「わかりました…司令のご判断にお任せします。取り乱してしまい、申し訳ございません」
彼女は頭を下げると、非礼をわびた。
「そんなことしないでくれ。今の状況を100人の良識的な市民が見たら、100人が君を支持するんだから」
それでも、アリーヨは自分の判断を曲げることはなかった。
そして、ついに宇宙怪獣たちの行動の成果が、彼らの前に披露される。
「し、司令…!?」
艦橋に、動揺したオペレーターの声が響いた。
◇ ◇ ◇
ミソラたちが、その出来事に遭遇したのはちょうど彼女たちが待避ポイントについた頃だった。
「み、ミソラ…!」
普段から冷静さを失わないカンナが、取り乱した様子で通信を送ってくる。
「どうしたの…?」
「通信を恒星間報道チャンネルに合わせて、今すぐ!」
恒星間報道チャンネル。それは有人惑星に浮かぶ放送衛星を使用してやりとりされる、報道用の通信チャンネルである。
超光速通信を使用することによって、放送衛星から流される通信は一瞬で人類の生存圏内にある恒星系へと送信されていく。
「…ヤツらが放送衛星を使って、何かやってるってこと?」
ミソラはそんなことを呟きながら、恒星間報道チャンネルを開いた。
そして…
「…………え?」
絶句した。
彼女だけではない、チャンネルを受信した他の全ての殲闘騎パイロットたちも皆、彼女と同じ反応をした。
なぜならば…
「銀河を開拓する、全ての地球人類にみなさん。私は皆さんが宇宙怪獣と呼ぶ存在の代理人です」
「うそ…」
報道チャンネルに映ったもの、それはグロテスクな宇宙怪獣の姿ではなかった。
そこに映っていたのは、ミソラたちがよく知る人物であった。
だが、彼は…
「私の名前はクロウ・シノサカ。元銀河連合軍の大尉であり…現在は銀河に住まう宇宙怪獣の同胞となった存在です」
クロウの姿を騙る宇宙怪獣は、すでに倒したはずなのに、肉体は宇宙の塵となったはずなのに…
彼はその放送に映っていた。
「本日、我々はある宣言をするため、この場をお借りしました」
その姿は、彼が死ぬ前となんら変わりない。
強いて違いを上げるとすれば、その瞳には強い決意のようなものが込められていた。
「これ以上、人類が無計画な宇宙開拓を続けるなら、我々宇宙怪獣は総力を上げてあなたたちを殲滅すると!」
11月4日。
それは人類以外の生命体が初めて、人類に対して警告を行った日となった。
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