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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【驚動編】 第2章 パルテノス恒星系防衛戦
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12 対峙

 ◇ ◇ ◇


 ミソラはアリーヨの指示の下、殲闘騎部隊を3つに分けた。

 放送衛星正面に6騎。ファブニールが衛星に向かう際、通るルートの両翼に12騎と9騎を配置したのである。


 宇宙の暗闇に、無数の光条が走った。

 両翼に配置された部隊が、ファブニールに攻撃を仕掛けたのだ。


 ファブニールは攻撃をかわしながら、一直線で放送衛星へと向かってきていた。


「深追いはするな! まだ後続が来る!」


 ミソラは、両翼の部隊に指示を出すと、自機に近づきつつあるファブニールに備えた。


「クロウ、データはまとめられた?」


 シグルドにグラムを構えさせながら、ミソラが聞くと、返答の代わりにデータが共有される。


 それは、今回の戦闘で撮影されたファブニールの外観写真であった。


「半年前と大きく姿は変わってない。ただ、両腕に武器らしくものをつけているのと、装甲の強度が増しているようだ」


 クロウの説明と共に、ファブニールの映像の上にマークがつけられていく。


「両腕はそれぞれ巨大な杭のようになっている。まぁ、半年前の武装が強化されたと考えて良いだろう。また、装甲に関しても生まれた当時はシグルドβの装甲が一部露出していたが、現在はほぼ細胞との融合が完了しているな」


 クロウの話を聞きながら、ミソラは半年前の戦いのことを思い出した。

 シグルドβとの融合を完了し、殲闘騎のような姿に変貌した宇宙怪獣――ファブニールに対して、ミソラとクロウは手も足もでなかった。

 特に細胞を変異させて作り上げた武器、触手のように伸び縮みする剣によって、四肢を分断されたのである。


「アイツも強くなってるね…」


 ミソラは、自分の声が震えていることに気がついた。


「ミソラ…」


「でも、アタシたちだって強くなった。そうでしょ?」


 だが、その心に恐怖心はなかった。

 他の感情、敵に対する憎悪や敵愾心が、恐怖を上回ったのだ。


「よしっ! 気合いいれていくわよ! クロウ、アタシの考えていることはわかるわね!」


 ミソラは、レバーを力強く握ると、クロウへ語りかけた。


「…わかってはいるけど、本当にいいのか?」


 彼女の思考を読み取ったクロウは、ミソラの考えに賛同しかねる様子であったが…


「大丈夫。アンタにアタシの命…預けるわ」


「後悔するなよ」


 ミソラの言葉に従って、彼女が考えた対ファブニールの秘策を実行した。


 ◇ ◇ ◇


 殲闘騎による攻撃をかわしきった宇宙怪獣ファブニールは、後ろを振り向くことなく、放送衛星の方へと向かっていた。

 そのスピードはベースが基になっているからか、シグルドの最高速度に匹敵していた。


 スピードを緩めることなく、進み続けていたファブニールであったが、前方からのビームの奔流が、彼を襲った。


 放送衛星前に配置されていた、シグルドたちが、ファブニールに向けて攻撃を開始したのである。

 先ほど同様、ファブニールは動きを止めることなく、進み続ける。


 しかし、ビームの奔流の中、ファブニールに一直線に向かってくる存在に気がつき、ついに宇宙怪獣は動きを止めた。


 それは機体の左肩に2つのハートが並んだ印をつけた、白銀の殲闘騎。

 ミソラが駆るシグルドであった。


 ◇ ◇ ◇


「うおりゃああああああ!」


 ファブニールが動きを止めたことを確認したミソラは、機体の速度を落とすことなく、宇宙怪獣へと突撃した。


 ファブニールとの距離が、目と鼻の先までとなった瞬間、彼女の脳内にアラートが鳴り響く。


 ファブニールの左腕から、レーザーが放たれたのだ。

 レーザーは正確にシグルドを捉えていた。


 ミソラが情報を確認すると同時に、シグルドの右腕が動きレーザーの射線上にグラムの刀身が入り込む。

 コンマ数秒の後、レーザーがグラムの刀身へと衝突した。

 ナノメタルの刀身に当たったレーザーは、シグルドに直撃することなく宇宙空間に霧散した。


 その反応の早さに、ファブニールは虚をつかれる。

 無理もない。

 シグルドの反応速度は、およそ常人では出すことのできないものであった。

 それはミソラであっても、例外ではない。


 しかし、ミソラはエインヘリアルシステムによる機体制御の権限を、大幅にシステムに委譲することによって、つまり、シグルドの操縦系の一部をクロウに任せることによって、この反応速度を実現することに成功していた。


 ミソラが機体にある行動を取る際に、機体側――クロウがあらかじめその準備動作を終わらせられるようにしたのだ。

 これにより見た目上の機体の反応は、大幅に上昇していた。


 ただし、これはクロウがミソラが取りたいと思った行動を適切に理解できなければ、機体の動きに無駄が生まれるというデメリットも存在する。

 しかし、ミソラとクロウはこの高度な信頼と連携が必要となる機体制御を、なんとかものにすることができていた。


「いくわよ!」


 レーザーを無力化したシグルドは、ファブニールに肉薄すると同時にグラムで斬りかかる。

 対するファブニールは、強大化した右腕で、グラムによる斬撃を防ぐ。

 同時に、右腕の先が伸び、細長い杭となった触手がシグルドを貫こうと動き始めるが…


 杭の動きが、止まる。

 それどころか、攻撃を防いでいたはずのファブニールの右腕が、崩壊をはじめる。グラムの刀身から流れ出したナノメタルが、ファブニールの右腕に浸食したのだ。

 ファブニールは亀裂の入った自身の右腕をまじまじと眺めた。

 ミソラは、その隙を逃さず、2撃目を加える。


 しかし、ファブニールは身をそらして、攻撃をかわすと距離を取る。

 同時に、ナノメタルの浸食が進む右腕を左腕で引きちぎった。


「ちっ…仕留め損ねた!」


 コクピットの中で、ミソラは舌打ちする。

 しかし同時に、彼女はファブニールとの戦闘に手応えを感じていた。


 これなら、コイツを墜とすことができる!

 もう、半年前の二の舞にはならない!


 再び、シグルドにグラムを構えさせる。

 対する、ファブニールはシグルドの様子をじっと見つめていたが、特に腕を構えるようなことはしなかった。


「なにか狙ってるのかしら? クロウ、わかる?」


「さぁ…でも、油断はしない方がいい…」


 数秒間。ミソラとファブニールはにらみ合いを続けるが。

 その均衡を破ったのは、両者の動き…ではなかった。


「ミソラ…」


 コクピットに声が響く。


「…え?」


 それは、ファブニールから発せられたものだった。


「この声…は」


 それは、彼女が聞き忘れるはずのない声だった。

 半年前までこの殲闘騎に乗っていた少年の声だった。


「俺だ。クロウだ」


「…っ!」


「ミソラ、道を空けてくれないか? 俺はお前と戦いたくない」


 シグルドの体が、揺れる。

 クロウの声を聞いて、ミソラの体が強ばり、クロウの機体制御との齟齬が生まれたのだ。


 だが、彼女が動揺するのも仕方がなかった。


「なんで…なんで、偽物なのに…」


 ミソラは、その声の主が宇宙怪獣であることを理解していた。

 当たり前である。彼女自身、半年前にクロウの体が宇宙怪獣に変貌する姿を見ていたのだ。


 しかし、どうしても手を出すのを躊躇してしまう理由が、そこにはあった。


「どうして、アイツらしくしゃべってんのよ!」


 クロウを語る宇宙怪獣から発せられた通信、そこにのせられたクロウの音声は…

 半年前、宇宙怪獣がクロウの体を乗っ取った時からは考えられないほど、自然な発音になっていたのである。


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