10 智将
◇ ◇ ◇
【パルテノス恒星系 第1惑星アテナ近郊】
人類と宇宙怪獣が遭遇してから現在まで、彼らの闘争は、あらゆる銀河、あらゆる恒星系、あらゆる宙域で行われていた。
ある時は大艦隊と大群の、またある時は1対1の全ての戦闘を数えていてはきりがない。
そして現在。このパルテノス恒星系にて、また両者の戦闘の歴史に新たな描写が記録されようとしていた。
宇宙怪獣は、アルゴナイタイ恒星系を襲ったものよりもさらに強力な個体を含む大群で、パルテノス恒星系を襲撃した。
暫定カテゴリー6のファブニールの他、カテゴリー4のサラマンダー型が32匹、ウミヘビ型が60匹という布陣である。
カテゴリー7はいないまでも、圧倒的な戦力である。
対する人類側は迎撃艦母艦という特殊な艦種の戦闘艦が1隻。迎撃艦1隻。そして惑星守備のために駐留していた巡洋艦が6隻、その他小型の駆逐艦が20隻程度の戦力である。
宇宙怪獣との戦闘の要である殲闘騎は200騎近くいたが、その大半が従来型のカドモスであり、戦力としてはかなり心許ない。
統一時間11月4日 20時45分。
両者の遭遇から3時間が経過していた。
戦力差を考えると、パルテノス恒星系での戦いは宇宙怪獣の勝利で終わっていてもおかしくない時間である。
しかし、現在戦場は両者が拮抗した状態を維持していた。
その原因は人類側の司令官。アリーヨ・リアリーにあった。
彼は宇宙怪獣の大群の襲来で混乱する部下たちを落ち着かせると、即座に戦術案を構築、その実行を持って宇宙怪獣の襲撃を防いでいたのである。
「巡洋艦はA3ブロックに集中砲火。5秒をおいてB3に砲撃を加えろ」
彼の指示を受けた巡洋艦が、指定区域へと砲撃を開始する。
その場にいた宇宙怪獣たちは砲火をすり抜けるため、移動を開始するが。
向かった先で、さらなる砲撃を食らい、爆散する。
「ウミヘビ型4匹の撃墜を確認! 現在2匹が生き残っていますが、追撃しますか?」
「いい、残りは近くの殲闘騎部隊に任せろ。多少なりとも傷を負っているはずだから、6騎いれば楽に処理できるはずだ」
ヴァルハラのブリッジでは、戦闘の状況を知らせる報告が次々とモニター越しに浮かぶ。
アリーヨはそれを流し見しながら、次々と指揮を出していた。
「D2の駆逐艦をD1まで下がらせてくれ。ゆっくりで良いから機雷をまいてな」
「了解!」
「ヤツらはどうだ?」
「ファブニールたちは現在も4方向に分かれて我が軍への攻撃を加えています! ですが、機雷に阻まれて大きな損害はでていません」
「よし、あと3分は持つだろう。その間に他の艦のいるエリアまで下がらせてくれ」
「了解!」
アリーヨの戦術はこうであった。
まず殲闘騎部隊は宇宙怪獣との戦闘を主にせず、艦の援護に割くこと。
敵の攻撃が薄い場所に進出し、機雷をまくこと。そして敵の攻撃が激しくなる前に、艦を下がらせ防御に徹すること。
防御時に有利にことが運ぶよう、各艦の連携を密にすること。
これだけの条件で彼は3時間もの間、宇宙怪獣の猛攻を防いでいたのである。
その能力は、この戦場で最も強力な個体であるファブニールに関しても有効であった。
その発生の由来から1個体しかいないと思われていたファブニールが、少なくとも4体以上存在することが確認された時、人類側の衝撃は大きなものであった。
しかし、アリーヨは一切動じるそぶりを見せず、作戦の内容を一部変更するにとどめた。
その結果、ファブニールを止めるとまではいかなくとも、その侵攻をかなり遅らせることには成功していた。
「司令、迎撃艦シリウスから通信文が入っています」
「内容を教えてくれ」
「殲闘騎27騎が先行してパルテノスへ向かっているとのことです。到着予定時刻は20時50分!」
その報告に、艦橋から歓声が上がる。
彼らは、殲闘騎部隊の到着で、戦況が有利に動くことを予想したのであった。
「彼らのワープアウト予定地点は?」
だが、アリーヨは特にそのことを気にする風でもなく、通信士へと質問をした。
その態度は、この状況を当初から予測していたかのようにも見えていた。
「本艦の後方、F7地点になります」
「よし、では作戦を次の段階へと進めるとしよう。残存艦に向けて通信を指令を送ってくれ。作戦開始は彼らの準備が整い次第だ」
◇ ◇ ◇
統一時間11月4日 20時50分。
ミソラ率いる殲闘騎シグルドの部隊が、パルテノス恒星系へと到着した。
彼女たちの前には、1隻の輸送艦が浮かんでいた。
そのことに気がついたミソラだったが、輸送艦へと通信を送る前に、彼女の目の前にホログラムモニターが浮かび、アリーヨの顔が映し出された。
「アカツキ大尉、ご苦労さま。すまないね。戦闘が終わったばかりなのに、また働かせてしまって」
「いえ、これがアタシたちの使命ですから」
「仕事熱心で大変結構だ。僕も見習いたいよ」
アリーヨは、そう言うと気の抜けた笑顔をミソラに向けた。
一方のミソラは、その言葉をどう受け取っていいのかわからず、苦笑いを浮かべる。
「そ、それよりも司令、戦況はどうなっているんですか? ファブニールが4体現れたと聞いているのですが」
「ああ、戦況で言えば、そこまでは悪くない。ファブニールも君の言うように4体確認できてるが、まぁ大丈夫だ」
「そうですか…」
ミソラは司令の回答に、再びうろたえる。
そもそもこの部隊が設立された目的の1つに、ファブニール討伐があったというのに、彼はそのことを全然気にしていないそぶりであった。
「一応、君たちが来てくれたおかげで彼らを一網打尽にできるチャンスができた。協力してくれるね?」
「もちろんです!」
だが、彼の言葉は不思議と心地がよく、ミソラはアリーヨに力強く頷きかえす。
「よし、じゃあ今作戦内容を送った。あと、ちょうど今君たちの前に輸送艦が来ているだろう。武器はその中に入っているから、受け取っておいてくれ」
「わかりました」
答えながら、ミソラは作戦内容を確認する。
そして…
「…え?」
その内容に目を疑った。
「どうかしたのかい?」
「い、いえ…司令、少し確認がしたいのですが、この作戦文に間違いはないですか?」
「間違いはないね」
「えっと…アタシの目に間違いがなければ、これから防御を緩めた上で、敵に重要拠点を制圧させる…と書いているように見えるのですが」
「ああ…それじゃあ、やっぱり間違ってないよ」
作戦文には、惑星アテナの軌道上に浮かぶ外部通信用の放送衛星を襲わせると書いてあった。
「どうやら彼らの狙いがこの衛星にあるようなんだ。彼らは3時間もめげずに僕たちを襲ってくれた。だからその熱意に応えて、この衛星を彼らにあげようと思う」
「なっ…!?」
「ま、使用料はしっかり払ってもらうけどね。でも、彼らに貨幣の概念はなさそうだから、命で払ってもらおうと考えている」
いつも通りの気の抜けた笑みで話すアリーヨを見て、ミソラは開いた口がふさがらなかった。
この男は、どこまで本気なのか?
「この作戦の成否…ファブニールの撃退は君たちの手にかかっている。やってくれるかい?」
ミソラは、アリーヨの心のうちを読めずにいたが…
「…はい、全力で務めさせていただきます」
だが、彼に任せるべきだという心の声に従って、最後は作戦案に従うことにした。なぜならば、アリーヨは奇抜な作戦を取ることで有名であり…そして、今まで参加した戦いで、一度も負けたことがないということでもまた、有名な人物であったからだった。
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