8 竜墜とす剣
◇ ◇ ◇
【アルゴナイタイ恒星系 トランジットポイント近郊】
統一時間11月3日 14時10分。
小さな光が灯って消える。それは夜空を駆ける流れ星のようであった。
現在、アルゴナイタイの宙域では、人類と宇宙怪獣の戦闘が行われていた。
巨大な宇宙怪獣を、複数の殲闘騎が取り囲む。
他方では宇宙怪獣によって、2騎の殲闘騎が同時に宇宙の藻屑へと変えられていた。
「…くっ、周囲の警戒を怠らないで!」
いつもとは雰囲気の違う、セレナの張り詰めた声が響く。
この宙域を襲ってきた宇宙怪獣は、サラマンダー型と呼ばれるものであった。
体長80メートルを超すこの宇宙怪獣は、代表的なカテゴリー7であるドラゴン型にそっくりな容姿をしており、そのカテゴリーは4。対応するには、熟練したパイロットが操る3騎以上の殲闘騎が必須。確実に倒すためにはさらにその倍の機体が必要になるとされていた。
さらにこのサラマンダー型は、従来のサラマンダー型とは違い、レーダーに観測されづらい、ステルス能力を持っている亜種個体の集まりであった。
そもそもセレナたちが宇宙怪獣の存在に気がついたのも、偶然だったのだ。
つい10分前、14時ちょうどにアルゴナイタイでの訓練を終えたシグルド部隊が、近づいてくる宇宙怪獣と遭遇したのだ。
そのためセレナたちは、現在12騎という心許ない機体数で、20匹を超すサラマンダー型との戦闘を強いられていた。
「右翼側からサラマンダー型が1匹…Eチームで対応して! 倒そうとはしなくていい、時間を稼げればそれでいいから!」
セレナの指示で、3騎のシグルドが宇宙怪獣へと向かう。
そのうちの1騎が、サラマンダー型が放った熱線の餌食となった。
残る機体はセレナ騎を含めて5騎まで減らされていた。
「くっ…ミソラ、クロウ君…」
カテゴリー4の宇宙怪獣20匹に対して、殲闘騎12騎で戦うというのは無理な話である。
宇宙怪獣と遭遇した当初、セレナは母艦への撤退も考えたが、母艦近くに密集した開拓船団のことを考慮し、援軍を呼ぶことにしたのだ。
セレナの指示は的確であった。
防戦を徹底した結果、本来なら5分も持たずに全滅させられてもおかしくない戦力差ながら、なんとか持ちこたえることができていた。
だが、それも限界が近づいてきていた。味方は次々と墜とされる一方で、敵の数は減らない。
サラマンダー型の固い表皮が、シグルドの携帯装備であるレーザーブレードやレーザーライフルの攻撃をはじいてしまうのだ。ハルバートを使えば表皮に傷を負わせることはできるが、致命傷にはならず、さらに敵に近づく分リスクも大きい。ある程度の安全性を持って戦うには、狙撃銃を装備する必要があったが、現状彼女たちの機体にそれは携帯されていなかった。
また1騎のシグルドがサラマンダー型の餌食となった。
あと数分もしないうちに、セレナたちは全滅を迎えることになるだろう。
焦るセレナの額から、一筋の汗が流れる。
その時だった。
「セレナ!」
親友の声が、セレナの耳に届いた。
◇ ◇ ◇
戦闘宙域へと飛び込んできたのは、3騎のシグルドであった。
敵の気配に気がついたサラマンダー型が、乱入者の方へ視線を向ける。
その殲闘騎たちは、今まで戦っていた敵と見た目は同じであったが、その動きの違いに宇宙怪獣たちも警戒を強めたようだった。
サラマンダー型の顔面に、光弾が3発ぶつかった。
新たに戦場に現れた殲闘騎のうちの1騎。アレックスのシグルドが放ったレーザーライフルの光弾が、サラマンダー型に直撃したのだ。
「やったか!?」
「なに自分でフラグ立ててんの」
攻撃を受けたサラマンダー型が、以前健在なことを確認しながら、ミソラが突っ込んだ。
「いや~、やっぱりカテゴリー4は固いか」
「…向こうからの攻撃、来るわ」
カンナの発言とほぼ同時に、高熱源反応が機体に近づいてくる。
ミソラたちは、無言で3方向へと機体を分散させた。
「ミソラ、アレックス、カンナ!」
心強い味方の登場に、セレナの声が弾んだ。
迎撃艦シリウスのシグルド一期生の3人。シグルドの操縦においてトップクラス
の実力を持つ3人だった。
「セレナ、お疲れ様! アタシたちが来たからには、もう大丈夫よ!」
彼らはセレナたちの危機を聞くと、大急ぎで機体に乗り込み、随伴の殲闘騎たちを置いて、戦場まで急行してきたのだった。
「もうすぐ援軍が来る、それまではアタシたちだけで持ちこたえるわよ!」
「わかった!」
「任せとけ!」
ミソラのかけ声と共に、カンナ騎がレーザーライフルを放ち、シグルドを襲おうとしていたサラマンダー型の攻撃を妨害する。
アレックスはあえてサラマンダー型の前を横切り、その注意をそらしていた。
一方のミソラのシグルドは、ウェポンボックスから一振りの剣を取り出した。
それはレーザーブレードとは異なる、実体の刀身がある剣であった。
「クロウ、これ使えるわよね?」
「本気か? まだ試験も終わってないぞ」
「アタシが聞いてるのは使えるのか使えないのかってことだけ。試験はしてなくても、この戦闘をもって試験にすればいいでしょ」
「…一応機体とのリンクは完了してる。使用方法も今送るよ」
ミソラの思考に、手に持った剣の情報が流し込まれる。
グラム――竜殺しの伝説を持つ剣と同じ名前を持つ、最新の対宇宙怪獣用近接兵器であった。
シグルドは剣を構えると、機体前方のサラマンダー型に狙いを定めた。
同時に、刀身がエメラルドグリーンに発光する。
「拒絶装置の起動を確認。いつでも行けるが…本当にいいんだな? うまく起動してなかったら、あいつに殺されるぜ?」
「アタシはルーシーの作った兵器を信頼してるの。それに…もしダメそうなら、アンタも止めてるでしょ?」
ミソラの言葉に、クロウからの返答はなかった。
それを肯定と判断し、ミソラはシグルドを動かした。
シグルドは剣を前方に構え、突きの姿勢でサラマンダー型へと突進する。
サラマンダー型は、近づいてくるシグルドに対して、熱線を吐くが…
熱線が、剣の切っ先に触れた途端2つに割れる。
予想外の出来事に、サラマンダー型の動きが一瞬止まる。
その間に、シグルドはさらに宇宙怪獣との距離を詰め、剣の切っ先が今度はサラマンダー型の表皮に触れた。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
レーザーブレードの熱に耐えるサラマンダー型の表皮が、裂けた。
シグルドはそのまま機体の勢いを落とさずに直進し、サラマンダー型の体内を貫いた。さらに、手近にいたサラマンダー型に再び突進する。
結果、2匹目も1匹目と同じように、体に大穴をあけることとなった。
「どうよ!」
突撃を終えたミソラ騎が剣を振るう。緑色の残光が宇宙の暗闇を照らした。
10秒後。ミソラたちの後をついてきた殲闘騎部隊が戦闘宙域へと到着した。
カテゴリー4が18匹に対して、集まった殲闘騎は74騎。
「全騎、戦闘態勢に入って! 周りには守るべき開拓船はいない、存分に暴れていいわよ!」
ミソラのかけ声に、他の隊員達が応えた。
小さな光が灯って消える。その数は数分前と比べて、さらに多く苛烈になっていた。
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