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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【驚動編】 第1章 争いの中で
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5 そして戦場へ

 ◇ ◇ ◇


【パルテノス恒星系 第1惑星アテナ近郊 トランジットポイント】


 パルテノス恒星系は4ヶ月前に開拓が始まった恒星系である。

 人類の生存可能な惑星を複数抱え、またその惑星がどれも豊かな資源を持っているため、現在、多くの夢見る開拓者たちが集まる場所でもあった。


 特に第1惑星アテナは大気組成がほぼ地球と同じであり、また月と同サイズである衛星アイギスを持つことから、開拓されてから日が浅いにも関わらず、多くの植民者が集まる星となっていた。


 統一時間11月2日 17時30分。

 開拓船で賑わうトランジットポイントの中に、一隻の宇宙艦がワープアウトした。迎撃艦母艦ヴァルハラである。

 最新鋭の迎撃艦を4隻抱え、もっとも巨大な一級開拓船と比べてもなお大きいその艦は、開拓者たちからの好奇の視線を欲しいままにしていた。


 ◇ ◇ ◇


「失礼します」


 迎撃艦シリウスの艦長、マディ・マンディとミソラが、ヴァルハラの艦橋近くにある総合作戦室に到着したのは、作戦会議がはじまる1分前のことであった。

 総合作戦室には、すでに他の迎撃艦の艦長3名と、ヴァルハラの幕僚たちが着席していた。


 遅れてきた彼らを、作戦参謀のチル少将が不機嫌そうに咳払いが迎えた。


「遅いじゃないか、マディ准将、アカツキ大尉」


 チルは自らに意識を向けた後、2人を注意する。

 彼女は銀河連合の中でもかなり厳格な人物として知られていた。

 秩序を重んじる人物であり、その性格に違わない実務手腕を持っていた。


「申し訳ございません。移動に時間がかかってしまって」


 マディは帽子を脱いで、頭を下げると長テーブルの端側にある席に座った。


「同じく、工場区画からの移動に時間がかかってしまいました」


 ミソラも、チルに頭を下げると、長テーブルの末席へと座った。



 ヴァルハラの艦橋や作戦室など、艦のオペレーションを司る機能は艦前方のブロックに集中している。

 それは艦後方が工場区画として使われているためであったが、一番はオペレーション機能が分散した場合に、巨大な艦内では人の移動に難儀するという理由があったからであった。


 ただし、これはヴァルハラ単艦に限ったことであって、艦に取り付けられた迎撃艦から、艦前方への移動には時間がかかるため迎撃艦のスタッフたちからは影ながら不評であった。

 特にシリウスはヴァルハラの後方にドッキングされているため、移動にそれなりの時間を擁するのであった。


「では、定刻だ。会議を始めよう」


 時間を告げるホログラムの通知が浮かび上がったのを確認して、チルが上席を見る。そこでは艦隊司令のアリーヨ・リアリー中将が寝息を立てていた。


「ごほん!」


 咳払いと言うには大きなチルの咳払いで、アリーヨの体がビクンとはねる。

 数秒後、アリーヨは目を開いた。


「司令、会議の時間です」


「ああ、すまんすまん…はじめようか」


 アリーヨは眠たそうな表情で、幕僚達を眺めた。


「今日は何の話をしようとしてたんだっけ?」


「パルテノスとアルゴナイタイの作戦についてですよ」


「あぁ、そうだったそうだった」


 チルの言葉を聞いて、アリーヨは頷いた。


 今回、幕僚たちが集まったのは、パルテノス恒星系での出現が予想される宇宙怪獣の迎撃と、ファブニールの出現が予想されるアルゴナイタイ恒星系、それぞれにどれほどの兵力を割くかを決めるためであった。


「いいんじゃないかい。今出ている作戦案で」


 アリーヨは、目の前に表示された資料を一読すると、にへらと笑った。

 気の抜けた表情である。


「しかし、今提出された資料は根拠に乏しく本当に妥当なのか…」


「うーん、根拠に乏しいって言われてもね…そもそもこの宙域にも、アルゴナイタイにも宇宙怪獣が出るって、まだ決まったわけじゃないんだぜ?」


「それを言っては、ここまで艦を動かしてきた意味が問われますぞ!」


 司令官のアリーヨは、とかく不真面目…というよりもぼーっとしていることが多いと言われていた。趣味は休憩室で睡眠を取ることと、展望室で星を眺めること。もしくは本を読むこと。

 争いは好まず、宇宙怪獣との戦争にもあまり興味がない。話だけ聞くと、まったく軍人らしくない人物である。


 だが、彼は艦隊や殲闘騎の運用においては右に出るものがいないほどの戦巧者だった。30代前半でこの地位にあるのが、その証拠であろう。

 そんな彼の雰囲気に、ミソラはどことなくクロウの面影を感じていた。


「冗談さ、どちらの宙域にも宇宙怪獣は出る…たぶんね。そもそも司令本部でも、この艦のシステムでも、そして意識のある彼も…演算の結果、宇宙怪獣が出現するって言ったんだろ」


 チルとアリーヨがミソラの方を見た。

 チルは険しい表情で、アリーヨは緩い笑顔で。

 ミソラは目を伏せて、小さく頷いた。


「じゃあ出るのさ。だから私達はここに来た。それで…艦の分割についてだが…」


 アリーヨは再び、目の前のホログラムモニターに映し出された資料を眺めた。


「…うん、これが最適だと思うね」


 そうして、また頷いた。


「…根拠を聞かせていただけますか」


 チルはまだ納得いかないという表情で、アリーヨに質問した。


「この案は、参謀部から出されたものではなく、戦闘機部隊より出されたものです…妥当性だけでも知りたいのです」


 そう告げると、チルは不愉快そうにミソラをにらんだ。

 彼女は参謀部を通さずに受理されたこの作戦に、はじめから反対だったのだ。

 そして、その嫌悪は作戦立案者であるクロウ…ではなくミソラに向けられていた。

 ミソラは再び、目を伏せる。


「そもそも、なぜ本艦がこの宙域に留まり、迎撃艦3隻がアルゴナイタイに向かうことになっているのですか?」


 クロウの作戦案は、こうであった。

 旗艦であるヴァルハラと、迎撃艦カペラの2隻がここパルテノンに残り宇宙怪獣の、そして迎撃艦シリウス、カノープス、ベガの3隻がアルゴナイタイに向かい、ファブニールの襲撃に備える。


「ファブニールはゼウスに潜入し、殲闘騎を1騎奪取した上に追跡を振り切った強力な宇宙怪獣です。ヤツの迎撃に当たるのは武装も豊富な本艦の方が向いていると、小官は考えます」


「うーん、まぁそういう考えもあるよね~」


「では!」


「だが、この宙域を襲う宇宙怪獣の規模はまだ分かっていない。それにこの宙域が先に宇宙怪獣の襲撃にあった場合、もし私達がその迎撃を迅速に行えれば、前線力をアルゴナイタイに送ることができるだろう?」


「それは…逆もまたしかり、なのではないですか?」


「そうだね。でも、アルゴナイタイとこの宙域を比べた際に、こっちを優先した方がいい理由もあるんだ」


「それは…どういう?」


「アカツキ大尉。いや、シノサカ大尉と言った方がいいのかな? 君たちはそれを考えた上で、この戦力の分散案を出したんだろう?」


「は、はい!」


 突然声をかけられたミソラは、うろたえながらも返答した。


「そうか、では、その理由を聞かせてもらおう」


 チルの冷たい視線が、彼女を貫いた。

 ミソラは、自分の周囲だけ気温が下がったかのような錯覚を覚えた。


「アルゴナイタイとパルテノンを比較した場合、パルテノンの方が優先度が高いということだが、それはなぜか? この宙域とアルゴナイタイでは、いる人員の数は圧倒的にアルゴナイタイの方が多い」


「はい。その理由は植民が進んでいるか否かの違いによります」


 クロウから説明されたことを思い出しながら、ミソラは続けた。


「パルテノンは現在4つの惑星への植民が進んでいる一方、アルゴナイタイ恒星系ではまだ恒星系内の惑星の開拓調査を行っている最中です。また、ファブニールの出現の危険性を事前に伝えているため、本格的な植民は停まっています」


「植民されているか否かで、優先度が変わると? 私にはその場にいる人員の数の方が問題な気がするが? パルテノンは植民が進んでいるとは言え、各惑星の人口は100万程度、全ての惑星を合わせても500万程度だ。一方のアルゴナイタイは大規模な開拓船団で職員の数は1000万を超す。襲われた時に、どちらの被害が大きいかはわかりきったことだろう?」


「はい。ですが、アルゴナイタイの船団は、まだ全員船の中にいます。もし我々の力が及ばなかった場合でも、各船がワープをすれば、少ない被害で開拓船の人々を守ることができます」


「貴官は、もしもの場合はアルゴナイタイを捨てて逃げろ…と言うのか!?」


「はい…そうです」


「司令! こんなことは間違っています!」


「いや、少なくとも私はこの案の方が正解だと考えている。開拓船団は襲われた時、私たちが勝てないとなった場合、迎撃中に逃げればいい。そうすれば被害は少なくて済むだろう。一方のパルテノンはそうは言えない。私たちが負けた場合、この恒星系に住む500万人は逃げることもできずに死んでしまう」


「しかし、惑星の開拓が…」


「命と比べれば、惑星の開拓なんて大したことはないよ。私たちは宇宙怪獣に占領された場所はもう二度と取り返せないと考えている節があるがそうではない。一度獲得した場所が奪われたのなら、また機会を見て取り返せばいい。そうだろう?」


「その場合の被害は跳ね上がります…」


「そうだね。ただ、現状この案が最悪の状況を考えた時に、もっとも被害を少なくできる方法なんだと私は考えている。それに…」


「それに?」


「いや、今はいい。とにかく私の方針はこうだ。もし私が戦力の分散を任された場合も、同じように判断していただろう」


 アリーヨの言葉に、チルは反論しなかった。


「まあ、私たちは今、負ける前提で話していたが現実がどうかは分からない。もし駄目そうなら、その時はまた案を考えるさ」


「…そう司令がお考えなのならば、小官はもう何も言いません」


 こうして、会議はまとまった。

 パルテノン恒星系には迎撃艦母艦ヴァルハラと迎撃艦カペラが留まり、迎撃艦シリウス、カノープス、ベガの3隻はアルゴナイタイ恒星系へと向かう。

 同時に殲闘騎部隊の配置も決定し、ミソラたちはアルゴナイタイ恒星系――ファブニールの出現が予想される宙域への同行を命じられた。


作品のご感想お待ちしてます! また、ブクマ登録・評価をいただけると泣いて喜びます。


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