7 きっかけ
◇ ◇ ◇
クロウたちは、目の前で起きた出来事を理解するのに、数秒の時間を必要とした。
「た、隊長ー!」
一番はじめに動揺から立ち直ったのは、カドモスα隊のパイロットたちだった。
2騎のカドモスが、ゴードン騎を助けようと、バッタ型に向けてレーザーライフルを乱射する。
「え、援護!」
直後、シグルドたちもレーザーライフルを構える。
しかし、照準がバッタ型を捉える前に、宇宙怪獣はレーダーから姿を消していた。
数秒後、1騎のカドモスの前にバッタ型が現れた。
カドモスが反応する前に、バッタ型の腹の前にある器官が機体を飲み込んだ。
「うわぁぁっ!」
「こいつ…一体どういう動きをして…!」
残った4機で再びレーザーを斉射するが、バッタ型は宇宙空間を自由自在に飛び回り、攻撃を躱していく。
「な、なんで…なんで当たらないのよっ…!」
そして、宇宙怪獣の姿が、再びレーダーから消えた。
攻撃の予兆だ。
数秒後、バッタ型がミソラ騎の前に姿を現す。
今までと同じように、器官がミソラ騎を飲み込もうとするが…ミソラ騎は間一髪のところで、攻撃を避けていた。
それはシグルドだからこそ対応できた、紙一重の反応だった
「なめんなぁっ!」
目の前に現れた敵を逃すほど、ミソラは大人しい性格ではなかった。
ウェポンボックスからレーザーブレードを取り出すと、バッタ型へ斬りかかる。
それは確実にバッタ型へと届くであろう斬撃だった。
しかし、次の瞬間クロウが見たのは、バッタ型の腹部…2つの器官の間から飛び出した触手によって、右腕を失うミソラ騎の姿だった。
シグルドであれば、バッタ型の攻撃には対応ができた。
しかし、不意打ちの一撃にはシグルドと言えど、反応ができない。
「…えっ?」
あっけにとられたミソラの声が、クロウたちへと届いた。
その間にも、バッタ型が触手を振るい、ミソラ騎の左腕、両脚を破壊していく。
すでに彼女は、目の前の宇宙怪獣に対応する力を失っていた。
バッタ型の器官が震え出す。
それはミソラを怖がらせるため、わざと動きを見せつけているようだった。
「い、いやあああああああああ」
ミソラの絶叫が、宇宙にこだまする。
その声を聞いた瞬間、クロウの中で何かが弾けた。
今まで、無気力に過ごしてきた。勝手に選ばれて、それに流されていただけだった。
戦いは嫌いだ。俺は星を見て過ごせれば、それで良かったんだ。
でも、このままじゃ…
このままじゃ、いけない!
それはクロウが、初めて抱いた闘争心だった。
別に彼はミソラが好きなわけではなかった。
けれども、口うるさい彼女が、なんだかんだ言って自分を放っておかない彼女が、目の前で死んでしまうことだけは、許せなかった。
「クロウくん、ダメ!」
セレナの制止を、クロウは聞かなかった。
彼の視界にはもう、宇宙怪獣とミソラが閉じこめられたシグルドしか入っていなかった。
推進器を限界まで稼働させ、ミソラ騎の元へ。
ウェポンボックスから武器を取ろうかと考えるが、その時間が惜しい。クロウは破壊されたミソラ騎の右腕が、レーザーブレードを握っていたことを思い出す。残骸とのすれ違いざま、機体の速度を落とさないままに、それをもぎ取った。
その時のクロウは、シグルドと自分が一体になったかのような感覚を味わっていた。
エインヘリアルシステムが、彼の思考を刹那で読み取り、機体の動きに反映させていたのだ。
まるで、自分の体のようだ。
機体を操りながら、そんなことを思う。
自分の適正値を利用すれば、機体を自由に動かすことができるということを、彼は今まで自覚していなかったのだ。
クロウはバッタ型の器官へとレーザーブレードを突き刺す。
宇宙怪獣に、初めて攻撃が当たった。
バッタ型の口が開く。それは痛みに耐えきれず、叫び声を上げているようにも見えた。しかし真空の宇宙空間ではその声が響くことはない。
バッタ型への一撃を加えた後、クロウはミソラ騎を蹴り飛ばした。
宇宙怪獣の攻撃に、巻き込まれないようにというクロウの配慮だった。
「えぇぇっ!?」
あとでこのことを怒られるんだろうなぁ…
クロウは、そんなことを考えながらウェポンボックスからレーザーブレードを取り出すと、残っていたもう1本のブレードをバッタ型の器官へと突き刺した。
これでこいつの武器は封じた。あとはトドメを刺すだけだ。
適切な武器は…結論が出ると同時に、ウェポンボックスからハルバートが飛び出した。
バッタ型がクロウ騎に背を向ける。しかし、シグルドの左腕が、宇宙怪獣の背中に生えた突起を掴んで離さない。
「逃がすかぁっ!」
クロウはハルバートを頭上に掲げる。
バッタ型は、斬撃から逃れようと身をよじった。
その時だった。
彼の視界を、光が遮った。
その光はバッタ型の背後にある、恒星から発せられたものだった。
恒星ヒュプノス。
それは、偶然なのか、狙って行われたのかは分からない。
クロウは咄嗟に目を細めた。
同時に、シグルドのセンサーが、光量を調整するが…その間に一瞬の隙が生まれていた。
それをこの賢しい宇宙怪獣が逃すわけがなかった。
機体が激しく揺れ、クロウの腹部に激痛が走る。
見ると、バッタ型の背中から、一本の触手が伸びていた。
それは、まっすぐとシグルドのコクピットまで届いていて…
「ちくしょ…」
――そんな脳はあいつらにはきっとない。でも偶然、似たような状況になるとも限らないでしょ?
数時間前の、ミソラとの会話を思い出す。
まさか、本当にこんな目に遭うなんて…
あの時、もうちょっと自分に言い聞かせてれば…同じことにはならなかったかも。
消えゆく意識の中で、クロウは後悔する。
だが、過ぎてしまったことをいくら後悔しても仕方がない。
自分の状況を確認する。腹に穴があき、赤い血がドバドバと溢れ出していた。
これは、助からない。
…元から戦闘の才能なんてなかったんだ。
火事場の馬鹿力で、ここまで動けたんだから、まぁいいだろう。
だが、せめて死ぬ代わりに1つぐらい仕事をこなさなきゃ。
シグルドの目は生きていた。
シグルドの腕もまだ動かせた。
クロウは、最後の意志を機体に伝える。
目の前の敵を叩き斬れ!
頭上に掲げられたハルバートが振り下ろされる。
それが、バッタ型の生命活動を止める一撃となった。
その日、1人の若いパイロットの命が失われた。
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