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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第4章 悲しき戦い
69/126

31 正体

 ◇ ◇ ◇


 アイン騎は戦闘宙域から離れた場所で待機していた。

 彼女のそばには長距離輸送ブースターのグラニが浮かんでいた。


 通信強化ユニットを取り付けた機体は、その分機体が重くなり動きが鈍くなる。

 また、近場に味方がいない現在、周囲との通信を行える機体を戦闘で失うわけにはいかない。


 そういった配慮から、彼女は戦闘には直接参加せず後方で友軍との連絡のやりとりや、戦況分析を行っていた。


 レーダーからクロウが乗るシグルドβの反応が消えたのは、アインがちょうど友軍との通信を終えた時だった。


 アインは意識を戦場へと向ける。機体周辺に敵影はない。


 シグルドβがシグルドの目の前に現れたのは、それから数秒後のことだった。


「……」


 どういった理由で、彼がレーダーを欺き、機体の前まで来れたのかは謎である。

 シグルドβにステルス能力はない。


 だが、この機体は気配もなく機体に近づき、彼女を墜とそうとしていた。


 シグルドβは、すでに右手に握ったレーザーブレードを振り上げている。

 一方のアイン機は、レーザーライフルを構えただけで、射撃体勢には入れていない。


 どちらの攻撃が先に当たるか、その結果はわかりきっていた。

 確実に、シグルドβの攻撃の方が早い。


 アインは、1秒先の未来に備えて、目を細めた。

 だが、それは自らの死を覚悟したという意味ではない。


 アインのシグルドの胸部がまばゆく光った。

 フラッシュである。

 シグルドβに装備されているものは、当然シグルドにも装備されている。


 光に視界を遮られ、シグルドβの動きが止まった。


 その隙をアインは見逃さない。

 全速力で、機体をブレードの届かない範囲まで引かせる。


 シグルドβは、そのアインの動きを見て、機体を前進させようとするが…

 機体の右腕にワイヤーが絡まった。


 アインの元にシグルドβが現れたのを確認したツヴァイが、援護に来たのである。彼女はシグルドの指先に内蔵された、アンカーを放ったのだった。

 本来は小惑星などに機体を固定するためのものであるが、ツヴァイはそれをシグルドβを捕らえるために使用していた。


 腕に巻き付いたワイヤーによって、シグルドβの動きが鈍る。

 当然、ブレードはアイン騎には届かない。


 クロウは、即座にターゲットを変更した。

 機体が、ツヴァイ騎の方へと向く。

 まずは自分の動きを封じようとする、邪魔者を消そうとしたのだ。


 しかし、そんなシグルドβの左腕に、さらにワイヤーが巻き付く。

 今度はアイン騎がアンカーを放っていた。


 そのまま、アインとツヴァイは逆方向へと機体を進める。

 両腕に巻き付けられたワイヤーが伸び、シグルドβはその動きを完全に封じられた。


「ナイス! アイン、ツヴァイ!」


 その光景を見ていたミソラは、思わずそう叫んだ。


 シグルドβは自らの機体を消すことで、混乱した相手の隙をつく。


 ミソラたちはシグルドβの動きを予想して、それを利用することにしたのだ。

 ミソラ騎とツヴァイ騎によって追い詰められたシグルドβは、必ず姿を消す。

 その行く先はグラニのそばに、単騎で待機しているアイン騎になるだろうと、彼女たちは予測していた。


 各機体の距離も、これを見越して設定されていた。

 アインが襲われても、ツヴァイがフォローに回れ、ツヴァイの元にシグルドβが現れたとしても、ミソラとアインがフォローに回れる距離。


 あとは、一瞬の隙を作ればいいだけである。

 そのために、彼女たちはクロウが使ったフラッシュを利用することにした。


 相手の隙を突きかえして、動きを止める。

 その上で、余った一騎が最後の止めを刺す。


 その役割は、今回ミソラがこなすことになった。


 ミソラ騎がシグルドβに接近する。

 機体は刃を前方に出すようにブレードを構えていた。


 その刃の先端は、シグルドβの胸部、コクピットへとまっすぐ向けられていた。


「これで! 終わり!」


 シグルドβは最後のあがきとばかりに、足を使って、ミソラ騎が持つブレードを蹴り上げようとした。


 しかし、その足技は不発に終わった。

 ミソラが刃を突き立てる直前に、ブレードを引いたのだ。


「これも、予想済みよ!」


 このシグルドβは、機体の手足までも武器として使う。

 ミソラはそこに最大限の注意をはかっていた。


 ミソラは、蹴り上げられたままのシグルドβの右足を太もものあたりからブレードで断ち切った。さらに、その勢いでブレードが握られた右手もレーザーで焼き切る。

 ワイヤーに干渉しないよう注意をはらった攻撃により、シグルドβは機体の自由は奪われたまま、右手を失った。


 勝負はあった。

 一瞬のうちに、シグルドβはその戦闘能力のほとんどを奪われていた。


 ◇ ◇ ◇


「今度こそ、観念なさい」


 ミソラは、レーザーブレードの切っ先を、シグルドβのコクピット前に突きつけると、そうクロウに通信を送った。


「…………」


 数秒後、彼女の前に、シグルドβを操るクロウの映像が浮かんだ。


「クロウ…」


 その顔を見た瞬間に、ミソラの心が揺らぐ。

 本来ならこれは、不要な通信だった。

 だが、彼女は彼にとどめを刺す前に、最後に一度だけ話をしたいと思っていた。


「最後に、質問をさせてほしい。どうしてアンタはこんなことをしたの?」


「…………」


 ミソラの質問に、クロウは答えなかった。

 それどころか表情一つ変えない。


「ここまで追い詰められても、だんまりなのね…」


 アレックスたちの話を聞いていたミソラである。このような反応をされることは予想していた。

 しかし、命を失いそうになりながらも、かたくなに黙秘をする彼の心理は理解ができなかった。


「じゃあ、最後にもう1つだけ質問させてもらうわ…」


 ミソラは話を変えることにした。

 そして、彼女自身が一番したい質問をすることにした。


 あなたは、何者?


 ミソラは、クロウはその体は本人としてもその意識は完全に別人として認識していた。だからこそ、それだけは聞いておきたいと思っていた。


 できれば、こっちだけは答えて欲しい。

 とどめを刺すにしても、少しは気が楽になるから…


「あなたは…」


 一瞬の逡巡の後、ミソラは口を開く。

 だが、ミソラが質問をしようとした瞬間、クロウに変化が起きた。


「くっくっく…」


 シグルドβを操る、クロウが笑いだしたのだ。

 それは、彼が生き返ってから、初めて見せた人間らしい笑顔だった。


「な、なによ…いきなり笑い出して」


 だが、現在の状況を鑑みると、その笑いは不自然きわまる。

 実際、ミソラもクロウに対して警戒心を増やすが…


「あはは…はははははっ!」


 クロウは、かまわず笑い続ける。


 そうして…


「ミソラは…馬鹿だなぁ」


 あざけりを込めた口調で、彼はそう言った。


「な、なんですって…!」


 突然の侮辱に、ミソラは熱くなるが。

 その熱は、次のクロウの一言で、急激に冷めた。





「スグに殺セバ、僕…私…オ、オレ…をと、止められたのニッ…!」




 同時に、クロウの顔にひび割れた陶器のように亀裂が走る。

 パキッというような、音がなり、彼の顔の左半分が、お面のように落ちた。


 その下にあったのは…


「えっ…?」


 思わず、声が漏れる。

 だが、彼が何者であるかを理解する前に…


「避けろっ!」


 モニターに映る、彼の顔の前に文字が浮かび上がった。


「…!?」


 それはシグルドに宿る、本物のクロウからの警告だった。

 ミソラは咄嗟に、機体を後ろに引かせる。


 一瞬遅れで、彼女の機体が居た場所を何かが薙いだ。


 それは、シグルドβの背中から生えた、太い触手だった。


「な、なによ…これ…」


 シグルドβの変化は続く。

 断ち切られた右脚の太ももから、赤黒い脚がゾヌリと生える。

 焼かれた右手部分にも、ケモノのような手が新たに生えてきた。

 さらに、機体全身が小刻みに震え、膨らんだかと思うと、隙間という隙間から、細長い触手が姿を現した。


 その容姿は、機体が殲闘騎以外のなにかに変化したということを示していた。

 ミソラは、その姿を眺めながら、先ほどのクロウのことを思い出す。


 クロウの顔の下にあったもの、それは人間の顔ではなかった。


 あれは、紛れもなく…


「うちゅう…かいじゅう…」


 混乱した頭で、なんとかひねり出した言葉は、生き返ったクロウの正体を的確に現していた。


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