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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第4章 悲しき戦い
67/126

29 追走

 ◇ ◇ ◇


【オリュンポス恒星系 第15惑星アルクメネ 外縁】


 暗闇が支配する冷たい宇宙空間を、銀河連合軍の長距離輸送ブースターグラニが進んでいく。


 それは宇宙の戦場を駆ける早馬だった。

 グラニには3騎の騎士、殲闘騎シグルドが乗っていた。


「目標、発見」


 通信強化ユニットを取り付けたことで、索敵能力が向上したアイン騎が、目標であるシグルドβを発見したのは、統一時間4月13日の14時45分のことであった。


「直線に進んでくれていて良かったわ」


「ええ、方向を変えていたら見つけられなかったでしょうし…」


 ミソラは目標との距離を確認する。

 グラニの速度を上げれば、数十分後には追いつくことができる。


「友軍との通信は?」


「生きているわ。一番近い友軍に位置情報を送れば、あらかじめ短距離ワープをさせておくことも可能」


「わかった」


 答えながら、ミソラは付近の宙域情報を確認し、戦場を定めた。


「エッジワースカイパーベルトに入ると、ワープ要請がしづらくなる、その手前でアイツを叩くわよ」


「了解」


「了解」


 ミソラの通信に、僚騎のパイロットたちが答えた。

 同時にグラニのスピードが上がっていく。


 今回の戦いには、ミソラの同期であるアインとツヴァイが同行していた。

 それは2人の強い要望があったからだった。


 ミソラがクロウを追うことを決めた際、他の殲闘騎パイロットたちも同行を申し出た。

 その主張が一番強かったのはアレックスだったが、ミソラはそれを拒否した。

 彼の機体はすでに損傷しており、戦いに参加するのは現実的ではなかったからだ。

 他にもセレナが自分を連れて行くようにと懇願したが、それも拒否した。

 確かにセレナはパイロットとしても優れた技能を持ち、機体も傷ついてはいなかったが、セレナがクロウに対して、戦友以上の感情を持っていることを、ミソラはなんとなく察していた。

 セレナが戦いに参加してしまえば、どのような結果であっても、彼女は傷つくことになる。ミソラは親友にこれ以上辛い思いをしてほしくなかったのだ。


 そうして、機体の状態、パイロットの能力、本人の希望からアインとツヴァイが同行することになった。

 特にアインのシグルドには通信強化ユニットがつけられていたため、索敵という面でも彼女が同行するのはありがたかった。


「ねえ、ツヴァイ」


「なに?」


「どうしてツヴァイは、今回の戦いに同行しようと思ったの?」


 ただ、ツヴァイに関してはなぜ同行を強く希望したのか、わからないミソラであった。

 彼女は別にクロウとも、ジョセフとも親しい間柄だったという記憶はないのである。


「わからない」


 だが、それはツヴァイも同様だったらしい。


「ただ、あなたがクロウを追うと言った時に、私の中…心が強く揺さぶられたの。気がついたら同行を申し出ていたわ」


「…そう、なのね」


 要領の得ない回答だった。

 だが、考えてみればアインやツヴァイ、そしてこの場にはいないドライは元から自分の感情を口で説明するのを苦手としていた。

 だから、うまく話せなくとも彼女にも参加したいだけの理由があったのだろう。


「ジョセフは、私たち姉妹の仲で、ツヴァイにだけ声をかける機会が多かった。もしかしたら、それが関係しているのかもしれない」


 そんなツヴァイに対して、アインは思うところがあったようだ。意外な情報を提供してきた。


「…………」


 対して、ツヴァイは何も答えない。

 ミソラは改めて、この姉妹たちの内面を不思議に思うのであった。


 ◇ ◇ ◇


 統一時間4月13日15時00分。

 シグルドβに乗るクロウの動きに変化があった。

 どうやら彼は、自分の後を追うミソラたちの存在に気がついたようだった。


 シグルドβの顔がこちらに向いたのを、ミソラたちは観測した。


 ミソラはアインに対して現在位置と戦闘予定宙域を友軍に送るよう指示を出し終えると、これからの戦闘に向けての準備を始めた。


 それは主に機体状況の確認と、精神の集中であり、その様子をシグルドと一体となったクロウは終始眺めていた。


 精神に乱れはなしか、でも、実際に戦いはじめたらどうなるか…


 機体が測定したミソラの精神状態と、情報として流れ込んでくる彼女の思考、そのどちらをも確認しながら、クロウは一抹の不安を覚えていた。



 シグルドにその精神を宿らせるまでのクロウは、ミソラのことをどこか自分とは違う人物だと思っていた。

 ミソラは殲闘騎の操縦をさせたら、おそらく銀河連合軍の中でもトップの実力を持っていた。彼女は常に自信に満ちあふれ、どんな出来事も冷静に対処ができるクールさを持つ――しかし、実際の彼女は違った。彼女は年相応の不安定さを持った、1人の女の子だったのである。


 それなのに、彼女は1人でいろんなことを抱えすぎていた。

 クロウのことだってそうだ。


 今も彼女はクロウのこと、機体を持ち出したもう1人の自分のことで悩んでいるようだった。


 アタシは、アイツを殺さなきゃいけない…でも…


 アイツを殺したら、クロウはずっとこのままになってしまうの?


 シグルドに宿るクロウとしては、自分の体のことなどどうでもいいと考えていたし、実際にそうミソラに伝えたつもりだった。


 だが、クロウがいくらそう言っても彼女はクロウの体のことを諦めたくはないのだ。そんなミソラの悩みを、クロウはずっと側で見ていた。


 でも…


 と、クロウは考える。

 もし、もう1人の自分が本気でミソラを殺めにきたとしたら。


 今の状態のミソラでは、あいつに勝てないんじゃないか…?


 そう思ってしまうのである。


 そしてもし、もう1人の自分の正体が、あいつなのだとしたら…


 ここまでの道中で、ミソラたちはアレックスとクロウの戦闘のデータを何度か確認していた。

 ミソラや他のパイロットたちはシグルドβの動きにどう対抗するか、その点に注目していたが、映像を見ていたクロウは別の点に注目していた。


 相手の動きに既視感を覚えていたのである。


 だが、そんなことはありえない。

 その動きをした存在は、すでにこの世にいないのだ。

 なによりも、その存在は殲闘騎を操る人間ではないのだ。


 それが殲闘騎を操るなど、聞いたこともない。

 結局、クロウは自分が突拍子もないことを考えていると結論づけ、そのことはミソラに伝えていなかった。


 だが、胸のうちに残るもやもやはいつまでも取れそうになかった。


 ◇ ◇ ◇


 統一時間4月13日 15時10分

 ミソラたちが乗るグラニとクロウが操るグラニの距離は、ついにお互いの攻撃が届く距離まで近づいていた。


「さぁ、そろそろ目標に追いつくわよ! みんな、用意はいい?」


 ミソラは僚騎の2人に通信を入れると、すぐに準備完了を告げる報せが返ってきた。


「一発目はアタシが撃つ! あとは作戦通りに頼んだわよ!」


 アンタも、頼んだわよ。やりにくいとは思うけど…


 ミソラが心の中で、もう1人の相棒へ語りかけると、すぐにモニターに文字が浮かび上がった。


「了解」


「俺のことは気にせず、全力を出してくれ」


 それは、ミソラに対しての彼なりの最大限の励ましだったようだ。

 数秒ほど、クロウからのメッセージを眺めたミソラは、気合いを入れ直すために操縦桿を強く握った。


 そうして…


「そこまで言うなら、どうなっても知らないんだから!」


 そう声に出して叫ぶと…


「撃つわ! 作戦開始!」


 シグルドにレーザーライフルを構えさせ、最初の一撃を放った。



 戦いが、始まる。


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