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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第3章 アルクメネ会戦
66/126

28 悲壮

 ◇ ◇ ◇


 統一時間4月13日 13時43分。


 ミソラたちが到着したのは、全てが終わった後のことだった。

 グラニを降りたホールC迎撃部隊の面々は、その光景を見て言葉を失った。


 宙域には破壊された殲闘騎の破片が浮かんでいた。

 それは、この場所で戦いが行われていたということを示している。


「なにが…あったのよ」


 かろうじて、ミソラが言葉を発する。


 彼女たちは、殲闘騎の残骸を発見していた。

 殲闘騎シグルド。


 コクピットを含む数十箇所に攻撃を受けたその機体はパイロットと共に、すでに動きを止めていた。


 機体の周りには生き残った殲闘騎たちが集まっていた。


 皆、自分たちの目の前でやられたパイロットのことで、頭が一杯なのだろう。

 ホールB迎撃部隊のパイロットたちは、ミソラたちの到着にも気づいていないようだった。


「くそ…なんでだよ…」


 アレックスの声が聞こえたのは、ミソラのコクピットに宿ったクロウが、強制的にシグルド同士の通信を開いたからだった。


 アレックスの声以外にも、他のパイロットたちが発する音が聞こえてきたが、それはどれも意味を持たない、すすり泣きや嗚咽の音だった。


 アレックスのシグルドは、ホールB迎撃部隊のどの機体よりも傷ついていた。しかし、誰よりも殲闘騎の残骸に近づいて、嘆き悲しんでいた。


「どうしてお前が死ななくちゃいけねーんだよ。ジョセフ!」


 今まで聞いたことのない、アレックスの叫びを聞いて、ミソラは思わず目を閉じた。


 ジョセフ・ダンドリー。

 ミソラたちの同期である心優しい少年は今、破壊されたシグルドの内部にいた。


「なんとか言えよ! ジョセフ! おい!」


 アレックスは目の前の殲闘騎に対して、声をかけ続けるが反応は返ってこない。

 それでも彼は、ジョセフを呼び続けた。


 ミソラたちは、アレックスの叫びをどれくらいの間聞き続けていただろうか。

 彼女たちは、ホールB迎撃部隊の面々に対して、声をかけることもできずに、その場に浮いていた。


「アレックス…ジョセフは、もう…」


 アレックスを止めたのは、カンナだった。


「ワタシたちは、現実を見るべき」


「馬鹿野郎! カンナ、お前どうしてそんなことが言えるんだよ! ジョセフは…ジョセフは…!」


「ジョセフは死んだの! わかってるでしょ!」


 その叫び声は、普段冷静なカンナが発したことのないものだった。

 その声はよく響き、彼女の内心の悲しみをもミソラたちに伝えていた。


 彼女の迫力に圧され、アレックスはジョセフの名前を呼ぶのを止めた。


「くそ…くそおおおおおおおおお!」


 代わりに、ありったけの声で叫ぶと。

 彼は号泣した。


 その泣き声を聞いて、ミソラの目頭も熱くなる。

 アレックスの悲しみは、その場にいる全員の感情を揺さぶったようだった。

 ホールC攻略部隊の面々からも、すすり泣く声が聞こえた。


 ミソラたちはこの宙域に到着する直前に、ジョセフの死を知った。

 だが、現場に到着してからも、彼女たちは彼の死を認めることはできなかった。いや、認めたくなかったのだ。

 だが、アレックスの嗚咽を聞いて、彼女たちはジョセフの死を認めざるえなくなった。


 ジョセフは、心優しい少年だった。

 控えめな性格で、トラブルメーカーのアレックスにはよく振り回されていたが、少しだけ困った表情をしながらも、彼といつも行動を共にしていた。


 ゼウスに降りた時も、彼はアレックスとシューティングバーに行き、ドリンクを賭けて対決をしていた。

 結果はジョセフの圧勝で、悔しそうにするアレックスを見ながら、申し訳なさそうに笑っていた姿が印象的だった。


 気がつくと、ミソラの瞳から1粒の涙がこぼれ落ちていた。

 無自覚に泣いていたことに気がついて、ミソラはまぶたをこすった。


 まだ、泣くときではない。


 ミソラは自分にそう言い聞かせると、深呼吸した。

 そして、気持ちを落ち着かせると再び、ホールB迎撃部隊の面々へと通信を送った。


「みんな」


「…ミソラ。来てくれたのね」


 ミソラの声に反応したのは、カンナだった。


「ええ、状況を詳しく教えてほしいのだけど、いいかしら」


 悲しみを隠しながら、自然な態度でミソラは質問した。

 彼女には自分の悲しみを抑えてでもやらなければならないことが残されていたのだ。


 ミソラの質問を受けたカンナは、しばらく沈黙していたが、静かに話し始めた。


「ワタシたちはホールCでの戦闘を終えた後、1騎の殲闘騎を見つけたの…」


 カンナは淡々と、だが適切にことのなりゆきを説明した。

 クロウが乗ったシグルドβを発見したこと、彼を捕らえようとした際に抵抗を受けたこと、アレックスとクロウの戦闘…


「彼の動きは化け物じみていた。ワタシたちはアレックスを援護することができずに、ただ戦いの様子を眺めていることしかできなかった…ジョセフ以外ね」


「じゃあ、ジョセフはアレックスを助けようとして?」


「ええ、クロウがアレックスにとどめを刺そうとした時、ジョセフはクロウ騎に向けて狙撃銃を撃ったの。確実に直撃できるはずだった…けど、クロウはそのレーザーすらも避けた。そして…標的をアレックスからジョセフに変えたのよ」


 ジョセフは、突如目の前に現れたクロウのシグルドに抵抗することができなかった。

 クロウはレーザーブレードでジョセフの機体を切り刻んだ後、コクピットを貫いたのだった。


「それが…さっきここで起きた出来事の顛末よ」


「…クロウは、どこに行ったの?」


「逃げたわ」


「逃げた?」


「ええ、グラニを奪ってね」


 そこで、ミソラはホールB迎撃部隊のグラニが一隻なくなっていることに気がついた。


「クロウはジョセフにとどめを刺した後、ワタシたちには目もくれずに去って行ったわ…もしかしたら、クロウの狙いははじめからグラニにあったのかもね」


「そう…わかったわ」


 そこまで聞いて、ミソラは決心した。


「カンナ、クロウが去って行った方向って、分かるかしら?」


「記録には残っているけど」


「じゃあそのデータと、できればさっきの戦闘の映像を、アタシにおくってちょうだい」


「いいけど、一体なにを…」


 途中まで答えたところで、カンナはミソラの考えに気づいたようだった。


「まさか、アナタ…!」


「ええ、アタシは今からクロウの後を追う。これ以上、アイツに好き勝手させるわけにはいかないの」


 それはミソラにとっては使命のようなものだった。

 むしろ、ミソラ以外にこの役目を果たさせようとは思わなかった。


「ジョセフの仇はアタシが取る」


 そうしてアタシは…


 クロウを殺す。

 命の恩人の皮をかぶった…アイツを殺す。



・作品の感想お待ちしております。またブクマ登録していただけると泣いて喜びます!

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