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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第3章 アルクメネ会戦
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26 包囲突破

 ◇ ◇ ◇


 統一時間4月13日13時25分。

 ホールBの直径は20メートル以下になった。

 これ以上、宇宙怪獣がこの宙域に現れることはない。


 だが、そのようなことを、現在戦場にいる誰もが気にしてはいなかった。

 彼らは今を生きるため、数分先の未来をつかみ取るための戦いに、全神経を使っていたのである。


「ワタシたちの準備は完了した! ジョセフ、はじめて!」


「任せたぞ! ジョセフ!」


 そうして、カンナのかけ声と共に、宇宙怪獣からの包囲突破作戦がはじまった。

 作戦は球の外にいる、ジョセフ隊の面々による援護射撃で始まることになっていた。


 3騎の殲闘騎が並んで、狙撃銃を構える。

 そのうちの2騎は、安定した射撃姿勢を取っていたが、1騎はやや自信なさげに銃を構えていた。新兵が乗るシグルドβである。

 

 そのシグルドβに乗るパイロットの青年はプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。


 2期生の、特に選抜組と呼ばれるパイロットである彼は、エインヘリアルシステムに対して高い適性を持っていない。その狙撃の腕前はジョセフやセレナと比べるまでもなく低い。

 戦闘がはじまってからも、彼は1度も宇宙怪獣に攻撃を当てることができずにいた。


 俺が、外したら…仲間が死ぬかもしれない!


 トリガーに触れた指は震え、勝手に歯がカチカチと鳴る。


「大丈夫。あなたならきっとできますよ~」


「ポイントは僕たちで合わせるから、肩の力を抜いて撃ってください」


 だが、そんな彼に温かい言葉がかけられた。

 僚騎のパイロット、セレナとジョセフである。


「…落ち着いてやれば絶対当たりますよ~」


「一緒に皆を助けましょう! 不安なところがあれば、僕の方でアドバイスしますから!」


 この戦闘中、2人はずっと彼のことを励ましていた。

 1期生は超えるべき相手だと考えていた彼だったが、この時ばかりは2人の言葉がありがたかった。


 いや、もう超えるなんて考えることはやめよう。

 この2人は自分よりも、実力も性格も自分より優れているのだから。


 その瞬間、心の中でつっかえていた何かが溶けたような感触を、彼は感じた。

 同時に、不自然だったシグルドβの射撃姿勢が最適なものへと矯正される。


「うん、いい感じ~!」


「僕のアドバイスは必要なさそうですね。じゃあ、3、2、1で撃ちますよ?」


「は、はい…!」


 新兵が狙撃銃のスコープを覗く。

 不思議と、さっきまでよりもターゲットが見やすくなっているような気がした。


「3…」


 大丈夫、この2人がいれば…


「2…」


 俺だってきっと!


「1…」


 役に立つことができる!


「0!」


 ほぼ同時に、3本の狙撃銃の銃口からレーザーが放たれた。


 ◇ ◇ ◇


 宇宙怪獣が作る球を、3本のレーザーが貫通した。

 それぞれのレーザーは球の表面のほぼ同じポイントを通り、宇宙怪獣たちの進行をさまたげる。

 この攻撃によって、ほぼ隙間無く埋められていた球の表面に穴が開く。


「今よ!」


 カンナが球の内部にいた全てのシグルドパイロットたちに呼びかける。


「おお!」


 カンナの声に呼応して、シグルドたちが列を作る。

 そしてカンナ騎を先頭に、次々と機体が穴を通って球の外へと脱出を図る。


 宇宙怪獣たちは、その動きに対抗し、外に出ようとするシグルドたちに襲いかかるが…


「させるか!」


 シグルドたちの列、その最後尾にいるアレックスのシグルドがレーザーライフルの乱射で、宇宙怪獣の行動を妨害する。


「アレックス!」


「おう!」


 自分以外の5騎が球から抜けたのを確認すると、アレックスも穴を突破した。

 カバ型が、彼の背後から機体に噛み付こうとするが、アレックスよりも先に外に出ていた機体たちが、カバ型に攻撃をし、その狙いを阻む。

 結果、球の中に囚われていたシグルド部隊は一騎も脱落することなく、全騎球の外へと脱出した。


 再度、宇宙怪獣による包囲網を作らせるわけにはいかない。

 穴から抜け出たシグルドたちは、そのまま宇宙怪獣たちに背を向けると、球から離れていく。


 宇宙怪獣たちは即座に球の形状をほどくと、シグルドたちを追おうとするが…

 先頭にいた3体の宇宙怪獣が、正面からレーザーを受けて爆散する。


「やったぁ! 3人同時に宇宙怪獣を倒したよ~!」


「初撃墜、ですね!」


「ええ、ありがとうございます!」


 ジョセフ率いる援護部隊が、シグルドを追う宇宙怪獣たちを狙撃したのだ。


「よし、宇宙怪獣たちとは距離が取れたな! 各機、やつらを各個撃破していけ!」


「了解!」


 アレックスの指示に従い、9騎のシグルドたちが宇宙怪獣への反撃を開始する。

 戦闘を通して、打ち解けたパイロットたちは、互いを助け合いながら確実に宇宙怪獣の戦力を減らしていった。


 そして…


「こいつで、終わりだ!」


 統一時間4月13日13時30分。

 アレックス騎のレーザーブレードが、カバ型の胴体を両断する。

 それが宙域内に存在する最後の宇宙怪獣だった。


「宇宙怪獣出現の兆しなし! 僕たちの勝利だ!」


 ジョセフの報告が終わるか終わらないかのうちに、シグルドパイロットたちの歓声が上がった。


 こうして、ホールBの戦闘は終了した。

 出現した宇宙怪獣は合計26体。アレックスたちは1騎の損失もなく、任務を終了した。


 ◇ ◇ ◇


 統一時間4月13日13時33分。


「よーし、お前たち! シリウスに帰るぞ!」


 一通り勝利の喜びを分かち合った彼らは、アレックスの号令に従い長距離輸送ブースターへと機体を向けた。


 その時だった。


「あれ…?」


 通信強化ユニットを搭載したシグルドに乗るジョセフが、レーダー上にある反応を確認した。


「どうした?」


「いや、今8千キロ先の宙域にシグルドβの反応を確認したんだけど…」


「そりゃあれだろ? 援軍の部隊だろ?」


「いや、違うんだ…援軍なら数がおかしい。レーダーに反応があるのは1騎だけなんだ」


「ああん? ジョセフ、データを俺たちに送れ」


「う、うん…」


 データを受け取ったアレックスは、レーダーに映った機影を確認する。

 ジョセフの言うとおり、レーダーにはシグルドβ1騎分の反応があった。

 その機体はゆっくりと、アレックスたちがいる宙域に向かって動いていた。


「どういうことなのかな~?」


 セレナが首をかしげる。


「グラニにも乗ってないようだけど…友軍からはぐれた? でも、この近くで戦闘が行われたという報告はない…」


 カンナも結論を出せていないようだ。


「ジョセフ、機体の所属は?」


「ごめん、まだわからない。もうちょっと近づいて来てくれれば、どの部隊所属かも分かるんだけど…」


「とにかく、その機体がいる所まで行ってみようぜ。どっちにしてもあっちは、俺たちに用があるみたいだしな」


 パイロットたちの反応を見て、アレックスが結論を出した。

 それは、わからないことが多い現在、自分たちから近づこうという判断だった。


 そうして、9騎の殲闘騎たちは反応があった宙域へと機体を進ませることにした。お互いの距離が近づくにつれて、通信強化ユニットをつけていないシグルドも相手をレーダーに捉えはじめる。同時に機体情報が彼らの元へと届けられた。


「え、この機体って…?」


 機体の所属を確認した、パイロットたちは皆、同じような反応をした。


「シグルドβ、アラン騎…?」


 それは数時間前までシリウスにいた機体。

 研究所を脱走したクロウが、勝手に持ち出した機体だった。


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