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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第3章 アルクメネ会戦
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25 アレックスという男

 ◇ ◇ ◇


 アレックス・ジャックマンはこの時代における、ごく一般的な惑星に産まれ、ごく一般的な家庭で育った。そしてごく一般的な少年たちと同じように、将来は宇宙開拓の仕事につきたいと考えていた。


「俺はいつか開拓船の船長になって、オリュンポス星団よりもおっきな! 人がたくさん住める星団を見つけてやるんだ!」


「ばーか、開拓船の船長になるにはたくさん勉強して頭が良くないといけないんだぞ。僕よりも頭の悪いやつに、そんなことできるかよ!」


「なんだと!」


 少年時代のアレックスはよくそんな話題で友人とけんかをしていた。

 彼は自分が特別な存在になることを夢見て生きていた。


 そのための努力も人並み以上にはしていた。頭が悪いと言われた日はいつもより勉強をしたし、運動ができないことを馬鹿にされてからは毎日トレーニングに励んだ。


 アレックスは負けず嫌いな男だったのである。

 しかし、アレックスはいくら努力しても、何事も平均より少し上程度の成績しか残せていなかった。


 そんな彼の人生が変わったのは1年半前。

 アレックスは殲闘騎シグルドに搭載されるエインヘリアルシステムに対して高い適正を持っていることが判明したのだ。


 その事実に彼は、他の多くのパイロット候補生と同じように喜んだ。

 そして、自分が銀河一の殲闘騎乗りになることを夢見た。


 だが、現実は甘くはなかった。

 彼は自分が決して殲闘騎乗りとしては1番になれないことを、早いうちに自覚してしまったのだ。


 アレックスは集められた他のパイロット候補生と比べて、どの分野においても平均以上の能力を持っていたが、必ず彼よりも優れた人間がいたのだ。


 アレックスは適正値ではクロウに及ばず、戦闘センスもセレナには勝てなかった。また、カンナのような知力があるわけでもなく、ジョセフの狙撃能力のような一芸も持っていなかった。

 だからといって、全ての分野を平均以上に伸ばそうとしても、総合力ではミソラに劣る。


 その事実をはじめ、負けず嫌いのアレックスは認めることはできなかった。

 どこかで巻き返すことができるのではないかと、人一倍努力もした。

 しかし、アレックスの才能はどれも努力以上の伸びを見せることはなかった。彼には特異な才能などなかったのである。


 そうして、彼は一番になることを諦めた。


 ◇ ◇ ◇


 アレックスはカバ型の接近に気づいた後、自分にできることはないかを即座に考えた。

 しかし、現状を打開するアイディアは何一つ思い浮かばなかった。


 カンナやセレナなら、なんとかできるんだろうな。


 だが、彼女たちのような、知識や戦闘センスをアレックスは持っていない。


 ミソラなら、むしろ反撃をしそうだよな。


 アレックスの適正値では、機体をどれだけ早く動かしても攻撃を避けることはできない。


 ジョセフの狙撃に期待するのは…無理だろうな。完全に隙をつかれたし。


 カバ型の大きく広がった口を見ながら、アレックスはそんなことを考えていた。


 死にたくはねーんだけどな。夢も叶えられてないし…


 訓練時代に一番になれないことを悟ったアレックスだったが、その後も腐ることなく努力は続けていた。それは一番になれないなりに夢を持ったからだった。


 どんな時でも、誰と組んでも実力を発揮できるパイロットになる。


 そんなこと恥ずかしくて誰にも言ったことはなかったが、彼は1人その夢を胸に

 抱いて戦い続けていたのである。

 だが、その夢も諦めなければいけないようだ。


 やっぱり、なにかしらの才能を伸ばしておいたほうが良かったか…


 そんなことを考えているうちに、カバ型の口が閉じられ巨大な歯がシグルドにぶつかる。


 その時だった。

 アレックスから見て、右下…カバ型の胴体部分が爆発した。

 仲間の援護射撃だ。


 攻撃を受けたカバ型の動きが止まり、一瞬の隙ができる。

 アレックスは訪れたチャンスを逃すことはなかった。


 機体を後ろに引かせ、カバ型と距離を取る。

 一瞬の後、今度はカバ型の胴体を閃光が貫いた。

 球の外から放たれた、狙撃銃によるものだった。


 おそらくジョセフが、狙撃を成功させたのだろう。


「さっきのは、カンナか!?」


 アレックスは、ジョセフに礼を言う前に、窮地を救ってくれた味方騎を調べた。

 その結果を見て、アレックスは絶句した。


「…新兵!?」


 アレックスの窮地を救ったのは、彼の僚騎に付いていた2騎のシグルドβだった。今までまともな活躍の無かった新兵たちが、わざわざ自らの機体を危険にさらしながらも、カバ型に至近距離で攻撃を食らわせ、アレックスが攻撃から逃れる隙を作ってくれたのだ。


「隊長、大丈夫ですか!」


 コクピット内のモニターが開き、新兵の顔が表示される。

 その顔つきにアレックスは一瞬、きょとんとする。


 そこにいたのは間違いなく「出撃前に偉そうなことばかり言っていた使えない2期生」のパイロットたちだった。しかし、彼のアレックスを見るまなざしは数十分前とは大きく異なっていた。


 彼らは2人ともアレックスのことを本気で心配していたのだった。


「お前たち、なんか態度変わりすぎじゃねーか?」


 思わず彼らの変化を口に出してしまうアレックスである。


「すいません、うまくは言えないのですが…この戦闘で自分たちの実力がよく分かったと言うか…」


「隊長には、何度も命を助けてもらってるのに生意気なことなんて言えないですよ!」


 真剣にそう語る僚騎のパイロットたちの言葉を、アレックスははじめうまく理解できなかった。

 まさか、そんなことを言うやつらだとは思っていなかったのである。


 だが、言葉の意味を理解した彼は…


「はっはっはっは!」


 思わず笑ってしまった。


「た、隊長!?」


「いやー、すまねえ、予想外過ぎてびっくりしただけだ」


 うろたえる僚騎のパイロットたちに一言わびると、アレックスは咳払いをして笑いを止めた。


「お前たちがそう言ってくれたことを、嬉しく思う。何よりも命を助けてくれたことに感謝する」


 そうして、真面目な表情でそう告げた。


「戦況はまだまだこちらの不利だ。だが、ジョセフの援護もあってカテゴリー3は一体落とせた。正直、まだお前たちの実力には期待はできねーが…俺がポカをしそうになったら、助けてくれ!」


「はいっ!」


「了解!」


 アレックスとその僚騎のパイロットたちはモニター越しにうなずきあうと、通信を切った。彼らめがけて、カテゴリー2の群れが襲いかかってきたからである。


 アレックスは僚騎を守りながら、カテゴリー2を1体撃ち落とす。

 すると、今度はカンナから通信が入ってきた。


「どうした?」


「カテゴリー3が1体減ったことで、包囲網突破の兆しが見えたわ」


「本当か?」


「ええ、ごくわずか可能性が上がっただけだけどね。ただ、このまま戦い続けるよりは良いかもしれない」


「よし、やろう」


「まだ、内容を言ってないのだけれど…」


「もう送ってくれてるんだろ?」


 アレックスがそう答えると同時に、カンナ騎から包囲網突破のアイディアが送られてきた。

 アレックスは内容を確認すると、即座にこの作戦を取る判断を下した。


「チャンスの見極めはお前に任せる」


「ええ、分かった。それじゃあ内容を全騎に向けて送るわね」


「ああ、任せたぜ」


 指示を終えたアレックスは、そのまま通信を切ろうとする。

 しかし、カンナが何かを言いたそうな顔で、アレックスを見ているのに気がつき、手を止める。


「…どうした?」


「いいえ、まさか…2期生があんな風に変わるなんて思ってもみなかったから…」


「聞いてたのか?」


「ええ、正直驚いた。さすがアレックスね」


「…別に、俺は何もしてねーよ。雑談は後にしようぜ」


 それだけ言い終えると、アレックスは通信を切った。

 そしてカンナ騎から全騎へ作戦案が配られたのを確認すると、全てのパイロットに向けて包囲網突破に備えるよう、命令を出した。


「しんがりは俺がやる! いいか! 誰も脱落するんじゃねえぞ!」


「おお!」


 周囲にハッパをかけ終えると、アレックスは作戦開始の合図を待つ。

 その間にも宇宙怪獣たちが彼と彼の僚騎に攻撃を仕掛けてくるが、うまく撃退していく。



 アレックスのシグルドパイロットとしての実力は平均以上ではあったが、突出するものは何もないと思われていた。少なくとも、アレックス自身はそう感じていたし、訓練時代の彼の成績もそのような記録であった。


 しかし1つだけ、彼には他のシグルドパイロットたちよりも優れた才能があった。それは誰よりもうまくチームを引っ張っていく能力。リーダーとしての才能である。



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