21 三方面作戦
◇ ◇ ◇
【オリュンポス恒星系 第15惑星アルクメネ】
統一時間4月13日12時15分。
迎撃艦シリウスは、オリュンポス恒星系外縁に存在する、アルクメネ近郊の宙域へとワープアウトした。
「ホールA、B、C確認しました」
オペレーターの報告と同時に、艦橋のホログラムモニターに3つ黒い穴の映像が映し出された。この宙域近辺に発生した3つのホールである。
ホールのサイズを示すカテゴリーはすべて1であり、各ホールともすでに最大直径までその大きさを広げようとしていた。
宇宙怪獣の出現予測時間まであと30分。それがカサンドラシステムが出した制限時間であった。
「殲闘騎部隊に準備ができ次第、発進するように伝えろ」
マディはそう命令を下すと、ホログラムモニターに映るホールの様子をじっと見つめ続けていた。
◇ ◇ ◇
統一時間4月13日12時25分。
シリウスから、26騎の殲闘騎が出撃した。
今回の作戦でシリウス所属の戦闘機は、出現した3つのホールに対して殲闘騎部隊を3つのグループへと別けて迎撃行動を行う三方面作戦を取ることになっていた。
「ビラーゴ、ゴーム、ムスカー隊の所属騎は全騎俺に続け!」
ホールA――シリウスから最も近い宙域に浮かぶホールには、シリウスの殲闘騎部隊長ビラーゴをはじめとする、9名の熟練パイロットたちが向かうことになっていた。
彼らが駆る機体は殲闘騎カドモスは、最新鋭機のシグルドと比べるとスペック上見劣りする部分が多いが、安定性が高く、現在銀河連合軍がもっとも多く運用する殲闘騎である。
また、シリウスに所属するカドモス乗りたちは、全員5年以上の実戦経験を有しており、その実力は銀河連合軍の中でも高いものと認識されていた。
事実、先日の遭遇戦の際にも、ドラゴン型からの一方的な攻撃を受け犠牲を出しながらも、8騎が生存するという快挙を成し遂げていた。
「ホールB迎撃に参加するシグルドは、小隊ごとにグラニに機体を乗せろ! 乗り遅れるんじゃねえぞ!」
ホールB――ホールAとは正反対方向に発生したホールの迎撃に向かうのは、シグルド3騎とシグルドβ6騎で構成された部隊であった。隊長はアレックスであり、その他の実戦経験者はアレックスのカンナ、ジョセフ、セレナの3名であった。
残りの5名は、アランを除いた初期シグルドパイロット選抜組に選ばれていた兵士たち――自称選抜組である。彼らにとってはこの戦いが初めての殲闘騎による出撃であった。
彼らは他のシグルドパイロットと比べると適正値が低いため、その戦闘能力も低いものと判断されていた。
そのため、シリウスの殲闘騎部隊長ビラーゴは、戦闘における損害を極力抑えるため、ホールBへと向かう部隊の編成に工夫をこらしていた。選抜組パイロットを2,2,1へと分け、それぞれに1期生のパイロットたちをサポートでつけたのである。
結果、アレックスとカンナはそれぞれ2名の選抜組のパイロットを率いることになり、ジョセフを小隊長として、その下にセレナともう1名の選抜組パイロットがつくことになっていた。
「なんでセレナじゃなくて僕が小隊長なんだろ…」
「だって私、まだ新しい機体に乗り換えたばっかりだし~。ジョセフなら大丈夫だよ~!」
「うぅ、不安だなぁ…」
ため息をつくジョセフである。今まで強いリーダーシップを持つアレックスやカンナと共に戦ってきた彼にとって、小隊長という責任ある立場を任されるのは初めての経験なのである。
「おら、ジョセフ! 早くグラニに乗っかれ!」
「あ、ああ、ごめん!」
弱音を吐いていたジョセフを、アレックスが一喝する。
「ダンドリー隊は、全騎グラニに乗ってください!」
「了解!」
「了解~!」
シリウスからホールBまでは距離があったため、彼らは長距離輸送ブースター、グラニを使用してホール近郊まで移動することになっていた。
グラニは三角錐のようなフォルムをしており、各面部分についた持ち手を掴むことで、最大3騎の殲闘騎を移動させることができるようになっていた。
9騎のシグルドが、3隻のグラニに取り付いたのを確認すると、アレックスは出撃の指示を出した。
直後、グラニは殲闘騎の5倍以上の速度でホールへと向かって移動を始めた。
「それじゃ、アタシたちも行くわよ! 全員、グラニに乗って!」
最後に残った8騎。ホールCへの迎撃に向かうのはミソラ率いるシグルド部隊である。この部隊は4騎のシグルドと、4騎のシグルドβで構成されていた。
実戦経験者はミソラの他、アイン、ツヴァイ、ドライの3名。残りの4名は選抜組同様今回の実践が初となるパイロットたちであった。
ただし、彼らは選抜組とは異なり、高い適正値を持って軍に入ったスカウト組であり、ビラーゴもある程度の実力があると判断しているようだった。
そのためこの部隊のみ、各シグルドを2騎一組とした4班編成で行動するよう指示が出されていた。実戦経験がある各シグルドパイロット1名に、新兵がつくという編成である。
ミソラと組むことになったのは、ミソラよりも年下の少女であった。
彼女は、グラニに機体を取り付かせると、ミソラへと通信をつなげてきた。
「た、隊長。今日はよろしくお願いします!」
「よろしく…えっと…」
「カリン・ヘルマン准尉です!」
カリンと名乗った少女は顔色が悪く、見るからに緊張している様子だった。
「そう。よろしくカリン…大丈夫?」
「あまり…大丈夫ではないかもしれません。隊長は、怖くないんですか?」
「ん~、そうね。ちょっとは怖い…かな? でも、怖がってどうにかなるわけじゃないし」
「そう…ですよね」
「大丈夫よ。あなたが大変そうだったら、アタシが守ってみせるから。安心して?」
「はい、ありがとうございます!」
ミソラが微笑むと、カリンは安心したように、ミソラに笑い返した。
数十秒前よりは、顔色も良くなった彼女を見てミソラは通信を切る。
そして、大きく深呼吸をついた後…
頼んだわよ、クロウ。
心の中で、そうつぶやくと。
「それじゃ、全騎、グラニに火をつけて! 全速力でホールに向かうわよ!」
自らが預かる部隊の人間全員に、そう告げるのだった。
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