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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第2章 首都星ゼウス
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17 クロウの瞳

 ◇ ◇ ◇


 クロウの失踪が確認されたのは、統一時間4月13日の8時50分頃だった。

 担当の看護士がクロウの個室を訪れた時に、彼がいないことに気がついたのだ。


 はじめ、彼女はクロウがトイレにでも行ったのだと考えていた。しかし、いくら待っても戻ってこないため不審に思い、担当官に報告したことで問題が認識された。


 クロウの個室は常時カメラで監視がされていた。

 調査の結果、彼は6時54分に部屋を後にしてから、戻ってきていないことが判明した。


 このことは、すぐにルーシーの耳に入った。

 話を聞いたルーシーは見た目の上では冷静だった。監視室の人間には研究所内に設置されたカメラのデータを確認するように伝えたのだった。


 結果はすぐに出てきた。カメラの記録によると、クロウ・シノサカは6時58分に研究所の外に出ていた。


 この報告を聞いたルーシーは、まだ冷静だった。

 彼女は軍を通して、市内の監視カメラの情報を集めさせ、彼の足取りを追うように伝えたのだった。


 結果、彼は軍の宇宙港まで行き、そのまま連絡用のシャトルに乗ったという報告が返ってきた。


 この情報を聞いたルーシーは、ついに怒った。


「どうして、彼がシャトルに乗れるっていうのよ! 軍の入管システムはどうなってるわけ!? そもそも、この研究所の管理システムも見直す必要があるわね!」


 彼女がそう怒鳴るのも仕方がないことである。

 外に出てはいけない人間が研究室を脱走し、あろうことか惑星外の宇宙港まで行ったというのだ。

 今回は人であったが、これが研究所内で扱われている危険な薬品であったら、人の首がいくつか飛んだことだろう。


 怒りが収まらないルーシーは当直の監視員を呼び出し、彼を叱責した。

 研究所の入り口に立つ彼は、研究所から出てきたクロウを見ながらも、一言二言声をかけただけで、彼を外に出してしまったのだ。


「あなたは、彼が出ていい人間じゃないっていうことを認識していたわよね?」


「はい…」


「じゃあ、なぜ彼を外に出したの?」


「いえ、私も彼に声をかけたんですよ…ただ、それ以降の記憶が曖昧で…」


 顔を青白くさせた監視員は、申し訳なさそうにそう答えるのだった。


「なによそれ…彼が催眠術の使い手だったとでも言いたいの?」


 ルーシーはため息をついた。彼女は彼の話を苦しい言い訳としか思っていなかったのだった。


「とにかく、あなたには厳しい処分がくだされると思うから、覚悟してなさい」


「…はい、失礼します」


 監視員は泣きそうな顔で頭を下げた。

 泣きたいのはこっちだ、と思うルーシーである。

 この事件は研究所のずさんな管理体制が招いたものであったが、その責任はクロウの検査を行っていたルーシーにも問われることになるだろう。


 これから起きる出来事――軍上層部の人間との面談を考えて、ルーシーはため息をついた。


「とにかく、彼を早く取り戻さないと…」


 彼は様々な意味で、貴重な人間なのだ。

 宇宙でもっとも高いエインヘリアルシステムの適正値を持ち、死亡後に復活した経験を持つ男。


 もし彼の身に何か起きたら、それは人類の損失になる。


 そうルーシーは真剣に考えていた。


 ◇ ◇ ◇


 統一時間9時40分。

 宇宙港内部の軍用エリアには、宇宙戦艦や迎撃艦が並べられていた。

 その中の1つ。純白の迎撃艦シリウスの搭乗ゲートを歩く少年の姿があった。


 クロウ・シノサカ。

 彼は新しく艦に着任する殲闘騎パイロットと共に、連絡用シャトルに乗りこの宇宙港に到着していた。


「では、次の人」


 艦の入り口では新規着任者の確認が行われていた。


「お前、クロウじゃないか? どうしてここに?」


 確認を行っていた軍人はクロウの顔を見るや、首をかしげた。

 クロウはゼウスの研究所に収容されたと、一兵卒の彼でも知っていたのである。


「…………」


 軍人と対面したクロウは、うろたえる彼の姿を無言で見つめた。

 その瞳は見つめていると、吸い込まれそうな錯覚を感じてしまうほどに深いもので…


「よろしい、乗艦を許可する」


 気がつくと、軍人はクロウを通していた。


「…あり、がと」


 ぎこちなく礼を言ったクロウは、そのまま艦に乗り込むと、他の新規着任者と共に整備ハンガーへと向かうのだった。



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