16 式典…その頃
◇ ◇ ◇
統一時間4月13日 9時28分
ミソラたちは、ガイア恒星系でのドラゴン型撃退を記念した表彰式典の会場に到着した。
この式典の主役は彼女たち、迎撃艦シリウスの乗員であった。
必要最低限の人員と整備兵を除いた、ほとんどの乗員が式典に参加するため、会場はシリウスの乗員と、軍の高官、取材の記者たちでごった返していた。
「ミソラは個人的に表彰されるんだよね~?」
「ええ、まあね」
今回の式典ではガイア恒星系の戦闘に参加したシリウスの乗員全員に勲章が授与されることになっていた。その他、的確な戦闘指揮を取った艦長のマディ、ドラゴン型体内への突入作戦の立案と実践部隊の指示を行ったミソラ、作戦中命を落とした戦闘機部隊の兵士たちに追加での勲章授与が予定されていた。
ミソラに関してはグランとの会談の際に明かされた通り、少尉から中尉への昇格が行われることになっていた。
また、彼女の他にももう1人、シグルドパイロットで階級が変わる兵士がいた。
クロウ・シノサカ。一度死亡した彼は二階級特進で大尉となっていたが、後に蘇生が確認されたため昇格は取り消され、改めて中尉への昇格が決められていた。
彼はガイア恒星系の戦いには参加していなかったが、その前のヒュプノス・タナトス恒星系の戦いにて、単騎でカテゴリー5を撃墜した功績が認められたのだった。
「まさか、ミソラの他にクロウも階級が上がるなんてなー」
「カテゴリー5を倒すには最低でも9騎以上の殲闘騎が必要と言われている。でも、クロウは1人でそれを倒した。戦闘時の映像は見たでしょう?」
「見たよ。何百回ってレベルでな…どんだけ殲闘騎に乗ってもあの動きは俺にはできそうにねーなー」
クロウの昇格を知った際に、アレックスはそんなことをぼやいていたがカンナとの会話を聞く限り、不服ではないようだった。
クロウの昇格は、パイロットたちにとって意外ではあったが、納得できるものだったのだ。
ドラゴン型の出現と撃退の話で、目立たなくなっていたが、昇格するには十分過ぎるほどの功績をクロウは残していたのだった。
「勲章を受賞される方は前の方へお越しください。繰り返します、勲章を受賞される方は前の方へお越しください。」
会場内にアナウンスが流れた。
「じゃあ、アタシは行ってくるから」
ミソラは仲間たちに声をかけると、1人会場前方へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
【オリュンポス恒星系 第一惑星ゼウス 宇宙港】
同時刻。
最低限の人員を残して惑星ゼウスへと降りたシリウスの乗員たちであったが、整備兵たちはほとんどが艦に残り作業に追われていた。
整備班の人間たちは3日間の作業で艦内の殲闘騎の整備を終えていたが、今日から新しい殲闘騎や装備が納入されるため、艦がゼウスの宇宙港に停泊している残り数日間も作業に明け暮れる予定となっていた。
むしろ彼らの仕事が忙しくなるのは、ここからとも言えた。
「おら、新型が届いたぞ! 置き場所はどこだ!」
「カドモスですか!? βですか!?」
「βの方だ! おら、早く教えろ!」
「しょ、少々お待ちを…!」
「後ろつかえてんだぞ! 急げ!」
怒号が響く中、殲闘騎シグルドの内部にいるクロウは、ハンガー内部の様子を退屈そうに眺めていた。
「あ、あれがシグルドβかー」
ミソラと分かれてから、クロウは有り余る時間の使い方に苦労していた。
ミソラと再会してからは、艦の外に設置されたカメラの映像を通して、宇宙空間に広がる星空を眺めるのがクロウの楽しみになっていた。
それだけあれば、彼はどれだけの長時間でも楽しく過ごすことができていた。
しかし艦が宇宙港に入ってからは事情が変わった。宇宙港の内壁しか見れなくなってしまったのだ。
こうなると、眠ることもできないクロウは退屈との戦いを始めなければならない。
はじめはシグルドの整備があったため、その様子を眺めていたクロウだったがすぐに飽きてしまった。
続いて、クロウが注目したのは、新しく艦に配備される新型の殲闘騎だった。
元は殲闘騎に興味はないクロウではあったが、自身が殲闘騎になってしまった手前、また時間がありあまっていたためスペックには目を通しておこうと思ったのだった。
シグルドβ――81騎生産されたシグルドに小規模な改修を加えたこの機体には、頭部にシグルドの思考操作をサポートするアンテナが取り付けられていた。
このアンテナによってエインヘリアルシステムの適正がそこまで高くないパイロットであっても、シグルドの操作性を向上できるそうだ。そのため、今回はミソラやセレナよりは低い適正値の2期生が艦に配属されることになっていた。
他のパイロットたちと比べて、クロウは2期生に対して悪い印象は抱いていなかった。
むしろ、彼らのような志願者たちでシグルドパイロットが固められればいいのにとすら思っていたのだ。
そうすれば、クロウのような望まない徴兵をされる人間が減るのだから…
「にしても…これはどういうことなんだ?」
新型騎のデータを眺め終わり、パイロットの情報を確認したクロウだったが、その後、驚くべき情報と遭遇していた。
それはクロウが――自分自身が生きていたというものだった。
慌てて自身の所在を確認したクロウだったが、それは彼の肉体がすでに研究所に送られた後のことだった。
「…俺が生きていたって、じゃあ俺は一体なんなんだよ」
そういえば、とクロウはミソラのことを思い出した。
「あいつ、借りは返すって言ってたけど。このことに関連はあるのか?」
彼の疑問に答えてくれる者は誰もいない。
結局、クロウはこのことに数時間、頭を悩ませたが、すぐに考えないことにした。
答えの存在しない問いに対して、いくら考えても時間の無駄だと思ったのだ。
だが、彼には時間がいくらでもあるわけで…
「どーなってるんだろーなー実際」
退屈を覚えると、すぐにそのことで彼の頭はいっぱいになった。
彼にとってはハンガーの様子を眺めるよりも、自分のことを考える方がまだ時間を有効に活用していると思えたのだった。
◇ ◇ ◇
同時刻。
惑星ガイアの研究所では、騒ぎが起きていた。
研究所内で検査を受けていたはずのクロウ・シノサカが、失踪したのだ。
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