14 2人の…
◇ ◇ ◇
統一時間4月10日 16時30分。
「それで私に伝えたいことってなにかしら?」
応接室に現れたルーシーは、ソファに座るやいなや、ミソラに用事を聞いた。
「博士が昨日、シリウスに来た時にお話していたことがありましたよね。クロウの意識がシグルドに残っているのではないかと」
「ええ、クロウ・シノサカはエインヘリアルシステムに対して規格外とも言えるほどの適正値を持っているから…それが?」
「博士の予測は、正しいです」
「…どうして、そう言えるのかしら」
ルーシーは首をかしげると、興味深そうにミソラを見つめた。
「アタシは、シグルドの中に宿ったクロウと話をしたことがあるんです」
「…それは本当に?」
「ええ、嘘をつくために博士の時間を奪おうなんて、アタシは考えません」
「その話、もっと詳しく聞かせてもらってもいいかしら?」
ルーシーに促され、ミソラは話し始めた。
ミソラがシグルドを乗り換えた後、機体の動きに違和感を覚えたこと。
ドラゴン型が現れた後、コクピットにヒントが表示されたこと。そのことをきっかけとして、機体の中に何者かの人格が存在することに気がついたこと。
そして戦いが終わった後、シグルドに文字が書かれた画像データを送ることで、その人格が自身をクロウだと打ち明けたことを。
「なるほどね。2つ質問してもいいかしら」
「はい」
「そのシグルドの中にいる人格が、自身をクロウ・シノサカだと名乗ったというのは分かったわ。でも、あなたがそれをクロウ・シノサカだと思った理由は?」
「うまく言葉では表せないんですけど…性格って言うんでしょうか。会話をしている時のアイツの文字の選び方や態度に、アタシは違和感が無かったんです…アイツは肉体を喪っていましたが、それ以外はクロウそのものだったんです!」
「そう。それじゃああくまであなたの主観の範囲で、彼は限りなくクロウ・シノサカであったということね」
「…はい」
うまい説明できなかったことに、ミソラは下唇を噛んだ。
ミソラは彼がクロウであるということを疑いもしていなかったが、それを周囲に納得させるような材料は持っていなかったのだ。
「そんな顔しないで? あなたの言いたいことは十分に伝わった。少し意地悪な質問をしちゃっただけだから」
ミソラの不安は、顔に出ていたようだ。
ルーシーはフォローするようにそう告げると、満足そうな表情で腕を組んだ。
「そもそも、姿の見えもしない相手が誰かなんて判断するのは難しいのよ。もちろんテストをすればそれなりの精度で人の判別くらいはできるのだけれど…話をするならそれをやってきてからだ…なんて言うのはおかしいでしょう?」
ルーシーの態度を見る限り、ミソラの話は彼女に強い興味を抱かせたようだった
「そういう検査をするのは私の仕事。あなたは十分価値ある情報を教えてくれたわ。ありがとね」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「それじゃ、2つ目の質問。あなたはこのことを私に伝えた目的を教えてくれるかしら? 単純に私の研究を手伝いたい…というわけではないわよね?」
「…はい」
ルーシーの質問は、ミソラにとってもありがたいものだった。
聞かれなくとも、ミソラはルーシーに自分の願いを伝えようと思っていたのだから。
「アタシは、シグルドの中に宿ったクロウを助けたいと思っているんです。元の体に戻すとか、それがダメならせめてアイツをシグルドの外で自由に過ごせるようにしてあげたいんです。だから、博士に力を貸して欲しくて…」
「…そう」
ルーシーは口元を手で隠すと下を向いた。
ミソラの話を聞いて、何かを考えているようだった。
「今の所、あなたの願いを叶えられると方法は思いつかないわ」
しばらくの沈黙の後、ルーシーは顔を上げて、そう告げた。
「でも、これはまだ私が実際に彼のことを調べていないからアイディアが出てきていないだけ。近々、シリウスにお邪魔させてもらうわ。そうすれば何かが方法を考えられるかもしれない」
「本当…ですか?」
「ええ、元から私はクロウ・シノサカの意識がシグルドに宿っているのではないかって考えてあなたたちに会いに来たのよ? ハプニングで優先順位は下がってたけど、こんな情報を与えられたら、また動きたくなるじゃない」
その一言は、ミソラにとってなによりも心強い一言だった。
その後、ルーシーは自身のスケジュールを確認すると、ミソラに対して3日後にシリウスへ訪れる旨を伝えた。
「本当なら今すぐ行きたいところなんだけどね、他にやらなきゃいけないこともあるから…」
「…こっちのクロウの調査が、うまく行ってないんですか?」
「そうね。癪だけどそう答えるしかないわ。彼…なにもかもがイレギュラーなの」
そう言うと、ルーシーは応接室に浮かび上がったままのホログラムモニターに視線を移し、ため息をついた。
「そもそもなぜ生き返ったのか、その原因から詰まっちゃってね。それ以外にも謎は多いし…」
そこまで言った後、ルーシーは何か思いついたようにミソラを見た。
「そうだわ。あなたに確認をしておきたいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「あなたから見て、この研究所にいるクロウ・シノサカに対して、何か感じてることってある?」
「…え?」
「例えば、あなたはシグルドの中にいる人格と話をすることで、それがクロウ・シノサカだって感じたのよね。じゃあ、彼は? この研究所にいるクロウには、本来の彼らしさを感じる?」
「…いいえ。実はまったく感じてないです」
ルーシーの意図は分からなかったが、ミソラは素直に答えることにした。
「今でもアイツの姿を見ても、アタシはアイツがクロウとは違うやつなんじゃないかって思ってしまうんです。ただ、それはあいつが記憶を喪失しているからなのかもしれないですし…」
「ふーん、やっぱりあなたはそう思っていたのね」
そしてその回答はルーシーにとって、予想できるものであったらしい。
「…やっぱりって、どういう意味ですか?」
「さっき私はあなたに、姿の見えもしない相手が誰かを判断するのは難しいって話をしたわよね?」
「…はい。テストをしてみなければ分からないんですよね」
「ええ、このテストはね誰に対しても行うことができるの。例えば、今目の前にいる人間が本当に自分の知る相手なのかを判別することだって可能…」
「それって、もしかして…!」
「そうよ。私はこの研究所に彼を入れた後にそのテストを行った。テストは過去の彼のデータを元に行われたのだけど、結果は彼がクロウ・シノサカの人格である可能性は低いというものだったわ…記憶の喪失があることを鑑みてもね」
その言葉を聞いた瞬間。
これまで経験したことのない悪寒が、ミソラの全身を襲った。
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