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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第2章 首都星ゼウス
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13 持たざる者

 ◇ ◇ ◇


 惑星ゼウスは人類がその種の故郷である地球を喪ってから、その存在価値をより大きなものとしていた。すなわち、人類の第2の故郷という地位である。


 数世紀前に起きた地球陥落以降、この惑星は人類の繁栄の象徴として扱われるようになった。当時、地球という精神的な故郷を喪った人々は、宇宙怪獣によってこの第2の故郷が奪われること極度に恐れ、この惑星が存在するオリュンポス恒星系全体に強固な軍隊を配置した。

 以降、この体制は変わることなく継続されており、結果としてゼウス内には広大な軍事施設がいくつも存在していた。



【オリュンポス恒星系 第一惑星ゼウス 宇宙軍基地】


 統一時間4月10日 16時00分

 そんな軍事施設の1つにセレナはいた。

 前回の戦闘で愛機を喪った彼女は、新しい機体の調整を行うためにこの地を訪れたのだった。

 そして今、ハンガーに案内されたセレナは自分の新しい愛機と対面していた。


「これが私の新しいシグルドかぁ~!」


 セレナの前には白銀の殲闘騎――シグルドが立っていた。

 それはつい3日前に組み立てが完了したばかりの、最も新しい機体だった。


「あれ? 前のシグルドと比べて、顔が違う?」


 目を輝かせて、新しい愛機を眺めていたセレナだったが、そこで前の機体とは異なる点を見つけていた。

 今までのシグルドと頭部のデザインが異なっていたのだ。

 中世の騎士の兜を彷彿とさせるという点では同じだったが、新しい機体には頭頂部にとさかのような意匠が付けられていた。


「それは思考操作サポートアンテナですよ」


 首をかしげるセレナの疑問に、背後からの声が答えた。


「新しく生産されるシグルドたちには全て、これが搭載されるんです。もっとも、試験的に作られた初期生産品にはつく予定はないみたいですけどね」


 セレナが振り返ると、そこには1人の青年が立っていた。

 肩まで伸ばした黄金色の髪と青い瞳。自信に満ちあふれたその顔を見た瞬間、セレナは相手の名前を口に出していた。


「アランさん。お久しぶりです~」


「お久しぶりです。ミラディ少尉」


 アラン・アースキン。

 彼は銀河連合軍に所属する殲闘騎乗り、正確には殲闘騎乗り候補であった。


「ここにいるってことは、やっぱりアランさんもパイロットになられたんですね~」


「当然。そもそも、君たちがいなければ、私はもっと早くシグルドに乗れていたんですけど…」


 丁寧な口調ではあったが、アランはセレナに対する不快感を隠そうともしなかった。


「そうなんですか~?」


「そうやって、上から見ていられるのも今のうちですよ」


 彼がこのような態度を取るのには理由があった。

 一時期彼はセレナたちとシグルドパイロットの座を争っていたのだ。


 殲闘騎シグルドに搭載されたエインヘリアルシステムは、パイロットの思考波を読み取り機体制御全般に反映させる装置である。


 システムをうまく稼働させるには高い適性を持ったパイロットが必要ではあったが、このシステムの開発当初、軍の内部では殲闘騎パイロットの訓練時間を大幅に短縮させられるのではないかという期待がされていた。


 そして、アランは銀河連合軍の兵士を対象とした、このシステムの適正検査を受け、当時トップの成績でシグルドパイロットの内定を勝ち取ったのだった。


 アランは名家の出身であり、当時から自らの優秀さを軍内部で示していたため、周りからの期待も大きかった。アラン自身もその期待に答えるべく訓練に励んでいた。


 しかし、訓練を始めてから3ヶ月後に事件は起きた。

 エインヘリアルシステムとの接続にも慣れ、機体の操縦もだんだんと覚え始めていた81名のパイロット候補たちに対して、急遽訓練の中止が言い渡されたのだった。当然、その対象には訓練でトップの成績を出し続けていたアランも含まれていた。


「君たちよりも遙かに早く、うまく、シグルドを使いこなせる人間が見つかったのだ」


 反発したアランたちに対して、当時の上官はそう告げた。


 話の真相はこうだった。

 アランたちが訓練を開始したのと前後して、全宇宙の人間を対象にコンピュータによるエインヘリアル試験の適正検査が行われていた。

 結果、精鋭であったはずのアランたちよりもはるかに高い適正値を持つ人間が数多く発見されたのだった。


 そんな説明をされても納得ができないアランたちであったが、その後に見せられた映像が、彼らに衝撃を与えた。

 ジュニアハイスクールに通うくらいの年齢の少女が、シグルドを動かしていたのだ。

 無論、それはシミュレーターを使っての操縦であったが、彼女の操縦練度はその場にいる誰よりも高いものだった。


 その映像が決め手となった。パイロット候補たちのほとんどは、やる気を失い自らが元いた部隊へと戻っていった。

 だが、一部の候補たちは上官に対して訓練の継続を志願した。その中には、当然アランも含まれていた。


 結果、一部の志願者たちは真のパイロット候補1期生に続く、2期生という形で訓練の継続を許可されることとなった。訓練はシグルドではなく擬似的なエインヘリアルシステムを搭載したカドモスで行われるようになったが、それでも彼らは諦めなかった。

 それほどまでに、彼らは最新の殲闘騎乗りという称号がほしかったのである。

 そして、アランに関してはそんな動機の他に、もう1つのモチベーションが存在していた。


「今後、シリウスには私たち選抜組のパイロットが配属されることになります。それまで、どうか一時の天下を楽しんでくださいね」


 それは、1期生たちに対する嫉妬の感情であった。

 エリートである自分が、このまま終わるわけにはいかない。

 今度は自分たちが、才能だけの1期生を超える。超えなければならない。


 それはアレックスやミソラが聞いたら騒ぎにもなりかねない発言であったが…


「はいはい~仲良くしましょうね~」


 相手がセレナだったのが悪かった。


「…はぁ。あなたはいつもそうでしたね」


 アランは、呆れたように首を横に振った。


「まあいいでしょう。これからの訓練で、私の実力をお見せしますから」


「あ、そうだよね~。アランさんの操縦、みたいみたい~!」


「笑っていられるのも、今のうちですよ…」


 それから30分後、新しいシグルドに乗ったセレナは機体の調整を兼ねて2期生の追加パイロットたちと模擬戦をすることになった。


 結果は、セレナの圧勝で終わった。

 努力を続けていたのは、2期生のパイロットだけではなかったのである。


 ◇ ◇ ◇


 同時刻。

 再度研究施設に入ったミソラは、応接室でルーシーが来るのを待っていた。

 この部屋に来てから2時間近く待たされていたが、元から急なアポであったため、ミソラは長く待たされるのも仕方のないことだと考えていた。


 なにより、スタッフが気を利かせてクロウの病室の映像を室内のホログラムモニタに映し出してくれていたため、彼女は退屈をせずに時間をつぶすことができていた。


 部屋の中でクロウは、ベッド上に流れる映像コンテンツに集中していた。

 無言でモニタを眺めている彼は笑いもせず、泣きもせず、無表情で映像に食いついている。


 やっぱり、読んでないか。


 ミソラがクロウに渡した本は、ベッドの脇におかれていた。

 彼女が応接室に通され、この映像を見始めてから、クロウは本を手に取ることは1度もなかった。


 そして、それは30分後にルーシーが応接室にやってくるまで変わることはなかった。

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