9 到着
◇ ◇ ◇
超長距離ワープ航法の発見は、人類の宇宙開発を加速させ、人々の生活を大きく変えることになった。
この技術の発見により、人は多数の居住可能惑星を発見し、その惑星を開拓し、その地で子を産み育てていった。
現在、この宇宙には4,000億を超す人間が生きているが、超長距離ワープ技術の発見までその人口は100億程度だったことを考えると、この技術の発見がいかに人類を発展させたかが分かるだろう。
オリュンポス星団は、人類が超長距離ワープ航法を発見した後、開拓された星団であった。
周囲が暗黒宙域で囲まれているため、この星団の開拓には多くの犠牲があったと記録されている。
しかし、ヘスティア恒星系を起点として各恒星系への通行が可能になると、人類の生存に適した惑星を持つ恒星系が数多く発見された。結果、現在オリュンポス星団は1,000億を超す人々が住む、宇宙で一番繁栄した場所となっていた。
◇ ◇ ◇
【オリュンポス恒星系 第一惑星ゼウス 宇宙港】
統一時間4月9日 20時48分。
迎撃艦シリウスは、青い惑星の低軌道部に設けられた軍用の宇宙港に入港した。
艦の機関が止まると同時に、ゼウスの整備兵と作業機械が艦に取りつき修理作業を始めた。
この宇宙港では、入港した宇宙艦船の損傷をゼウスの整備システムで調べ適切な修理を行うようになっていた。
シリウスと殲闘騎たちは、これから艦がゼウスに滞在する1週間で新品同様の状態になるまで修理される。
特に、殲闘騎は戦闘でのダメージが大きいため、入念なチェックと整備が行われる予定だ。
◇ ◇ ◇
統一時間4月9日 21時30分。
整備ハンガーでは、慌ただしく人が動き回っていた。
シリウスでは1週間のゼウス滞在の期間中、各乗組員に対して最低でも3日間の休暇を与えていた。
しかし、この場にいる整備兵たちは別である。
「いいか、休みが取れるとは思わないことだ! ゼウスに上陸したいやつはいつもの2倍の早さで仕事をしろ! 1日でも休みを取りたい場合はその倍の早さだ!」
彼の言葉は、冗談でもなんでもなかった。
彼らはこれからの1週間、この整備ハンガーのはりつき、殲闘騎の整備作業に没頭することになる。
もちろん首都星ゼウスの整備兵や作業機械の助けは借りるが、基本的に殲闘騎の整備は彼らの仕事なのである。
また、整備班長は今回は特に過酷な作業になるだろうと予測していた。
前回の出撃で、シリウスは搭載していた27騎のうち12騎の殲闘騎を喪っていた。
今回の寄港の間に、この喪われた12騎の殲闘騎の補充がされることはほぼ確実であった。
そのため、新しく艦に入ってきた殲闘騎の調整作業も、彼らはしなければならないのであった。
「いいか、1週間なんてあっという間だからな! 怠けてるやつは宇宙空間に放り出してやる!」
そんな整備班長の脅しが響く整備ハンガーの中、一騎の殲闘騎のコクピットの中にミソラはいた。
これから首都星ゼウスに降りる彼女は、傷ついたままの自分の相棒――シグルドの中い眠る、クロウに挨拶に来たのであった。
「艦にはいなくていいのか?」
「ええ、艦長と一緒に司令部に呼び出されちゃってね。いろいろと報告とかあるから。あと表彰とかもあるみたいよ。アタシたち」
「すごいじゃないか」
「いーえ、その評価されるポイントを作ったのは、アタシじゃないし」
少しすねたように、口をとがらせミソラは答えた。
自分が考えたわけでもない作戦案を褒められても、クロウの手柄を横取りしているとしか思えず、素直に喜べないのである。
「この借りは、いつか必ず返すから」
「いいよ、別に」
「アンタって、本当にこういうことには無頓着よね」
「別に勲章がもらえたって、それで気分は高揚したりはしないからな」
投げやりな回答に、少しだけイラっとするミソラである。
クロウのこういう点を、彼女はずっと気にくわないと思っていた。
「…まあ、いいわ。アタシは褒められると嬉しいから」
だが、以前のようにクロウを責めようとは思わない。
「アタシはこれからしばらく留守になる…だから、アンタは…」
「俺は?」
「しっかり整備してもらいなさい。次乗る時に変な動きしたら許さないからね」
「怖…」
モニタに浮かんだ文字を眺め、ミソラはいたずらな笑みを浮かべるとコクピットから出た。
◇ ◇ ◇
…アイツ、アタシの心を読んでこなかったな。
クロウとの会話を終えた後、更衣室で制服に着替えながら、ミソラはふとそんなことを考えた。
クロウと話している間、彼女はずっと蘇ったクロウの話を伝えるか悩んでいた。しかし、彼はそのことに一言も触れなかったのだ。
「律儀なやつ…」
改めて、クロウのことを変わったやつだと思うミソラである。
自分が興味のないことに対しては無頓着なくせに、ちゃんと守ることは守る男なのである。
ミソラはクロウのことを、数日前まではただのできの悪いやつとしか思っていなかった。
才能はあるのに、それを有効に使おうともしない、臆病者。
だが、その認識が誤りであった。
彼は軍隊に関するあらゆることに無関心ではあったが、仲間の命を助けるということに関してだけは強い意思を持っていたのだ。その代償として命を喪ってもかまわないほどに。
そんな人間は臆病者なんかではない。
「…なんでアタシ、アイツのことばっかり考えてるのかしら」
ミソラはそうつぶやくと、ため息をついた。
ロッカーの鏡を見ると、頬がいつもより赤くなっていた。また、胸の鼓動も早くなってはいたが…ミソラはそれらの変化を無視して、着替えを続ける。
借りは返す…必ず。
ミソラは、心の中でつぶやいた。
命を助けられた身であり、相棒である彼…クロウについて、ルーシーは興味深いことを言っていた。
今ルーシーは生き返ったクロウに興味を向けていたが、ミソラが話をすれば、必ずシグルドの中にいるクロウについても調べてくれるだろう。
そして、もしかしたら彼の意識を、本来のクロウの肉体に戻すというミソラの目的も、実現してくれるかもしれない。
この1週間が勝負ね。
ミソラは改めて、クロウを機体からすくいだす方法を見つけようと決意を固めるのだった。
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