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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第1章 喜びと混乱と
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6 来訪者

 ◇ ◇ ◇


 統一時間4月9日16時40分


 迎撃艦シリウスに1隻の連絡艇が接舷した。

 連絡艇からせり出した通路を通り、ルーシー・ノイマンはシリウスへと乗り込んだ。


「はじめまして、ルーシー・ノイマンよ」


「はじめまして、私がこの艦の艦長マディ・マンディ大佐です」


「ミソラ・アカツキ少尉です」


「同じく、セレナ・ミラディ少尉です~」


「よろしく。それじゃ挨拶はこの位にして…整備ハンガーに案内してもらえるかしら」


 迎えた一同を見渡したのち、ルーシーはそう告げた。


「それは…ずいぶんと急ですな」


「私、時間を無駄にするのが嫌いなの。司令部からの許可は取っているわ」


「わかっています」


 マディは帽子を深くかぶりなおした。

 数十分前、ルーシーがマディへと渡した許可書には、銀河連合軍技術長官の責任においてルーシー・ノイマンの要請に応えるよう書かれていた。


 一体、この少女はどれだけの人脈を持っているのか…

 感心よりも恐れが強いマディである。


「もし案内人が用意できないのなら、1人で行くけど?」


「…博士は2人に用があるのでしょう? 我々が案内しますよ」


「そうね、ありがとう。では、行きましょうか」


 ルーシーには純粋な意味での案内は必要なかった。

 それは彼女がシリウスの設計に関わっていたためである。

 彼女は前を見ることもなく、ミソラ、セレナと会話をしながら整備ハンガーへと向かっていく。


「ふーん、じゃあドラゴン型を倒すための作戦も、脱出のアイディアもあなたが考えたのね」


「ええ、まぁ…」


「あなた、優秀なのね」


「そ、そんなことは…」


「いいのよ、謙遜しなくて。私、優秀な人が好きだから」


 ルーシの言葉に対して、苦笑いしか返せないミソラである。

 そもそも作戦を考えたのは彼女ではないので、それは当たり前の反応なのだったが、そんなことを言ってもルーシーは信じてくれないだろう。


「ちなみに、作戦を思いついたのは何をしていたとき?」


「えっと、殲闘騎の中で…瞑想してる時ですかね」


「…ふーん」


 思わず、ミソラはルーシーから目をそらした。

 いつもは誰に対しても普通に接することができるミソラであったが、ルーシーに関しては別だった。

 彼女と話していると、自分の心が全て読まれているような気がするのだった。


「ミソラは優秀ですよ~! シグルドの操縦もすっごい上手ですし、ドラゴン型のおなかの中に閉じこめられた時も、私は何も思いつかなかったのにミソラは冷静に作戦を考えてくれたんです~! すごいですよね~!」


 一方で、セレナはルーシーに対しても、自分のペースを崩さない。

 ミソラは、そんなセレナをうらやましくも思った。


「そ、そうなのね」


 ルーシーはそんなセレナを、やりづらい相手だと感じているようだった。

 ここまでマイペースな人間とは話す機会が今まであまりなかったらしい。


「こほん…話を戻すわ。アカツキ少尉、今乗っているシグルドはあなたが元から乗っていた機体ではないのよね?」


「…はい」


「彼女が今乗っているシグルドは、コクピットブロック以外は戦死したシノサカ少尉のものを使っています」


 答えづらそうなミソラに代わって、マディが詳細を説明する。


「アカツキ少尉は戦闘でシグルドを失い、シノサカ騎はコクピットブロック以外は機体の損傷が少なかったので応急処置として彼女のコクピットブロックをシノサカ騎へと移設しました」


「そう。そうなのよね」


 マディの話を聞いたルーシーは、意味深な笑みを浮かべた。


「それが…なにか?」


「そういえば、私がこの艦に来た理由を話していなかったわね。私はね、戦死したクロウ・シノサカのデータが、シグルドに残っているのではないかと思って、ここにきたの」


 そしてルーシーは、3人の顔を順々に見ると、そう告げるのだった。


 ◇ ◇ ◇


「シノサカ少尉のデータ…ですか?」


「ええ、正式には彼が機体との間でやりとりしていた思考の…才能の残滓といえばいいのかしら?」


「そう…ですか」


 ルーシーの話を、マディはよく理解していない様子だった。

 一方、ミソラにはルーシーの発言に心当たりがあった。


 彼女は、あのクロウの存在に気づいている?


「あなたたちが乗るシグルドにはエインヘリアルシステムが搭載されているわ。あれの基本的な仕組みは知っているわね?」


「パイロットの思考を機体に流し込むことによって、その操縦を補助するんですよね~?」


「ええ、それで思考を読み取り、機体各部への情報伝達を行うものを思考粒子というのだけれどね。この粒子には2つの特性があるの。1つ目は情報の伝達量は各パイロットの適正値によって決まるということ、2つ目は思考粒子で運ばれた情報は思考粒子の中で残り続けるということ」


 その話はこの場にいる全員が知っていた。

 特にミソラとセレナはその数値が高いからこそ、今シグルドに乗っているのだ。


「あなたたちはその適正値がこの宇宙でもかなり高いと判定された。ただ、1人別格の存在がいるのも知ってるわよね?」


「クロウですね?」


「そう、彼の適正値はね…あなたたち選ばれたパイロットの中でも格段に高かったの。それこそ彼が自分の才能をフルに使えていれば、理論上、彼は思考するだけでシグルドの操縦をできるほどの力を持っていたわ…むしろ、それ以上のことだってできたはずだった」


「でも、クロウくんはそんなに殲闘騎の操縦はうまくなかったですよ~?」


「ええ、でも彼は1度だけ、その才能の片鱗を見せた機会があったでしょ。彼の最後の戦いの時にね…」


 一同が頷く。戦いを間近で見ていたミソラとセレナに限って言えば、彼女たちは今でもあの時のシグルドの戦いぶりが脳裏に焼き付いていた。


「おそらくあの時、彼はシグルドを自分の体の一部のように操れていたはず。あなたたちとは比べものにならないほどの情報が思考粒子を介してシグルドの中を駆け巡ったはずだわ。そして、その思考は粒子内に留められている…そうなると、ある可能性が出てくるの…」


 ルーシーは説明を楽しんでいるようだった。

 この問題、わかるかしら? といった調子で3人の顔を見る。


「クロウの意識が、シグルドの中に宿る…ですか?」


 誰も回答をしないので、ミソラが答えた。


「あら、正解よ。彼の思考情報が意識無意識に関わらず思考粒子に伝えられていたとした場合、それが起きる可能性があると私は考えている」


「あなた、ずいぶんと柔軟な発想ができるのね」


 それは事情を知っているミソラにとっては、簡単すぎる問いだった。


「いいえ、それほどでも。博士の話がなければ、思いつきもしませんでした」


 だが、答えられた満足感はミソラの中にはない。

 それよりもルーシーの頭脳にミソラは驚かされていた。

 ルーシーはクロウとの邂逅もなく、ただの報告書を読んだだけでこの仮説を打ち立てたというのだろうか?


「あくまで仮説よ。もちろん間違っているとは思えないけれど…」


 ドラゴン型からの脱出劇に関する報告書を読んだルーシーは、当時、脳内である計算を行っていた。

 それはミソラの適正値をもってシグルドの遠隔操作を行った場合、どれほど正確に機体を動かすことができるのか…ということであった。

 結果、彼女はミソラがダミーシグルドを操縦した場合、どれだけ運が良くてもドラゴン型からの脱出はできないと結論づけた。その上で思考を重ねた結果、この結論に至っていたのだ。


「それとも、あなた…なにか知っているのかしら?」


 ルーシーが、ミソラを見つめる。

 それはほぼ確信を抱いた状態での、一応の確認だった。

 ミソラは一瞬だけ逡巡するが…


 この人に話せば、クロウのこともなんとかできるかもしれない。


 その結論にいたり、首を縦に振ることにした。


「艦長!」


 だが、回答をする前に彼女たちの注意は別の方へと向く。

 大声が廊下に響いたのだ。

 声がした方には、警備長のビリーがいた。


「来客中に申し訳ありません。至急、お耳に入れたいことが」


「…なんだね」


 ビリーの様子は、普段の彼を知るものなら考えられないほどに動揺していた。


「…シノサカ少尉の意識が…戻ったようです」


 だからだろう。彼は秘密にしておくべきことを、口に出してしまった。


 思わぬ人物の名前に、ミソラは固まる。


「クロウく…ん?」


 セレナもまた驚いた様子で、その人物の名前をつぶやいた。


「ねえ、あなた」


 そして一番はじめに、ビリーに声をかけたのはルーシーだった。


「今、シノサカって言ったわよね?」


「…あ」


 そこで、ビリーは自分のミスに気がついたようだった。


「いや、今のは…」


 慌てて、弁解をしようとするビリーであったが…


「あらかじめこの艦の乗員の名前は全て調べさせてもらっているの。シノサカという姓名を持つものは、1人しかいないわ。おかしいわね…彼はもうこの世にはいないはずなのだけれど…」


 まくし立てるようなルーシーの言葉に、反論を封じられる。


「ねえ、艦長」


「…なんでしょう」


「私を、その目を覚ましたシノサカさんの所に、連れて行ってくれないかしら?」


 その時、研究者としてのルーシーの興味は、エインヘリアルシステムから生き返ったパイロットへと移っていた。無論、彼女はエインヘリアルシステムについても研究をする予定ではあったが、優先順位の変更があったのである。

 マディは無言でビリーを見つめた後、諦めたように首を横に振った。

 そして彼はルーシーの方へと向き直ると…


「わかりました」


 首を縦に振るのだった。


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