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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第1章 喜びと混乱と
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5 愛称

 ◇ ◇ ◇


 虚空が支配する宇宙の暗闇の中を、殲闘騎シグルドが駆ける。


 シグルドは、宇宙艦艇や殲闘騎の残骸が散らばる宙域にいた。

 デブリが多いため、シグルドの目であるセンサーはなかなか敵の位置を見つけることができない。


 どこにいるのかしら…


 殲闘騎の中にいるミソラは、なるべく目立たせないようにしつつ、機体をデブリ帯の中へと進ませていく。


 ここにいないのだとしたら、他に身を隠せる場所は…


 ミソラは頭の中で、自分がいる宙域の地図を思い浮かべると、ある方向へと小型の偵察機を飛ばした。

 20秒後、偵察機から相手を発見したという報告を受ける。


 偵察機からの映像を確認したミソラは、相手を確認すると同時にため息をついた。


 今日の相手はアイン…射撃戦になったらやりづらい。


 ミソラの脳内に映し出された映像には、白い殲闘騎の姿があった。

 シグルドである。宇宙怪獣との戦いのために生み出されたこの兵器は今、宇宙怪獣とは異なる相手との戦闘を行っていた。

 まだ、ミソラのことを見つけられていないのだろう、相手はデブリの陰に身を隠したまま、微動だにしない。

 ここは一発で決めなきゃ…!


 ウェポンボックスを開くと、中からスナイパーライフルを取り出す。

 自機と相手との間にある障害物の強度計算を行い、相手を落とすのに必要十分な威力になるようライフルにエネルギーを充填する。


 3…2…1…


 心の中で数えて、トリガーを引く。

 銃身から放たれたビーム粒子は、デブリを貫通しながら直進する。

 直前になって攻撃に気がついたシグルドは回避を試みるが、行動を起こす前にビームが機体を貫いていた。


 まずは、1騎。


 安堵のため息をつく間もなく、ミソラは周囲を警戒する。

 まだ相手が残っているのだ。


 直後、センサーが反応した。

 同時に彼女の目でも、白い機体が1騎…こちらに向かってくるのを確認した。


 あれは、ドライのシグルド!


 ハルバートを持ったシグルドが、ミソラ騎の元へと近づいてきていた。

 アインと比べると、ドライは射撃の精度は落ちるが、その分近接戦闘が得意だった。

 ミソラは武器をレーザーライフルに持ち帰ると、自らに向かってくるシグルドへと照準を合わせる。


 その瞬間、アラートが鳴った。

 ドライの機体以外に、彼女に近づくシグルドがいたのだ。

 距離は数キロも無い、思わぬ伏兵に慌てて武器を持ち替えようとするが、機体の反応は彼女の予想を下回っていた。


 これじゃあ、間に合わない!


「ジョセフ!」


 ミソラがそう叫ぶとほぼ同時に、彼女を襲おうとしたシグルドの胴体を白い閃光が貫いた。

 遙か彼方の距離から、ミソラの様子を見守っていたジョセフが狙撃を成功させたのだ。


 残る相手は1騎…!


 だが、その問題もすでに片付いていた。

 ミソラの元へと向かっていたドライのシグルドは、デブリ帯に潜んでいたアレックスによって無力化されていた。


「こっちは片付いたぜ!」


「…ありがと」


 Winner!


 画面に表示された文言を確かめて、ミソラは立ち上がった。


 ◇ ◇ ◇


 統一時間4月9日16時15分

 ミソラは艦内に設置されたシミュレーターを出た。

 ヘルメットを脱ぎ、顔を振ると周囲へ彼女の汗が散った。


 そうしている間に、他のパイロットたちもシミュレーターから出てくる。

 味方チームだったアレックスとジョセフ。そして対戦相手だったアイン、ツヴァイ、ドライ…


「おつかれさん!」


「おつかれ、ミソラ!」


 シミュレーターでの戦いに勝利した彼らは、笑顔でミソラの元へとやってきた。


 ミソラたちシグルドパイロットは、3人一組のチームを組んでシミュレーター訓練を行っていた。

 仮想空間上で行われるこの訓練は、作戦行動中や艦外での訓練が難しい際によく組まれていた。


「2人ともおつかれさま。ジョセフはナイスアシストだったわ」


「ありがとう。でも、当たったのはラッキーだったよ」


 ミソラに褒められたジョセフは、照れながら頭を掻いた。


「何言ってるのよ。アンタの狙撃の腕は皆よく知ってるのよ? むしろアタシの方がアインを堕とせるかどうか緊張したんだから」


「といった意味であれば、俺様はいつも通り、完璧だったな!」


「アレックスは約束してたのより反応が早かったじゃない。アンタ、ジョセフが狙撃する前からドライに攻撃仕掛けてたでしょ」


「まぁ、俺はジョセフのことを信じてたからな。ドライが狙撃に気を取られてる隙をついたってわけだ」


「もう、アンタは口だけはうまいんだから…失敗してたら作戦が瓦解する可能性だってあったんだからね。気をつけてよ」


「へーへー…気をつけますよ」


 シミュレーション前に立てた作戦の振り返りをしていると、今回の対戦相手だった、3人の少女もミソラたちの元へとやってきていた。


「完敗だった。いい勉強になったわ」


 一番先頭を歩いてきた少女――アインは、それだけ言うと、3人を代表してミソラへと手を差し出した。


「ありがとね、アイちゃん。またやりましょ」


 ミソラが握手に応じると、アインは無言で首を縦に振る。

 アイン、ツヴァイ、ドライ…数字の名前を与えられた少女たちは、シリウスに乗る8人のシグルドパイロットのうちの3人だった。

 彼女たちは皆共通して銀髪で赤い瞳の持ち主だ。ミソラは彼女たちのバックボーンを詳細に知っているわけではないが、軍の研究施設で培養されたクローン人間だと聞かされていた。

 シグルドのエインヘリアルシステムに対して、生まれつき高い適応性を持つように生み出された者たちなのだ。


 彼女たちは共通して口数が少なく、自分の感情を表に出すことは少ない。

 だが…


「よ、ドラちゃん! 近接戦闘の訓練ならいつでもつきあうからな!」


「……いい」


「…つ、ツヴァちゃん! さっきはいきなり狙撃しちゃってごめんね! あの…よければ、お詫びっていうのもなんだけど…その、今晩一緒にご飯でも食べない?」


「…………」


 ツヴァイとドライに関しては、ごくわずかではあるが愛称で呼ばれると表情が固くなった。

 それは周りの人間ですら気づくことができない…もしかしたら本人たちも無自覚にそうなっているのかもしれない微少な変化であった。


 この愛称は訓練校時代、アイン、ツヴァイ、ドライという数字の名前以外に愛称がないという本人たちの話を聞いた、同期生たちが考えてつけたものだった。


 アインは自身につけられたアイという呼び名を受け入れたが、どうやらツヴァイとドライに関してはあまりしっくりは来てはいないようだった。

 だが、彼女たちが何も言わないため、2人は今でもこの愛称で呼ばれ続けている。


 アタシも、まだわからないけどね…


 このことにはじめに気がついたのは、ミソラではなくクロウであった。

 彼はツヴァイとドライの表情の変化にいち早く気づき、そのことをミソラに告げていたのだった。

 だが、その答えは分からない。


 それはミソラが以前、彼女たちに自分の愛称について質問した際、2人そろって…


「わからない」


 と答えたからなのであった。

 とは言え、ミソラはクロウの忠告を聞き彼女たちを名前で呼んでいた。

 おかげで、彼女たちを愛称で呼ぶ男2人組と比べると、ミソラに対する彼女たちの対応は少しばかり良好な気がしていた。


 それにしてもと、ミソラは思う。

 クロウはなぜ、彼女たちの変化に気がついたのだろう。


 出会ったときから、細かいところに目がいく男ではあったけれど、今度コツでも聞いてみようかしらと思うミソラであった。


 今から時間があるしシグルドにでも行ってみようかしら。


 そんなことを考えている時だった。ミソラ宛に通話が届いた。

 相手を確認したミソラは、すぐに応答する。


「はい」


「アカツキ少尉…至急、艦橋まで来てくれ」


 通話の相手は、艦長のマディだった。


「かしこまりました」


 短い命令に、ミソラは一言で返事をする。

 そして通話を切った後、同僚たちに一言告げると、艦橋へと向かうのだった。


 ◇ ◇ ◇


 統一時間4月9日16時30分

 艦橋にはミソラの他に、セレナが呼ばれていた。

 

「…ルーシー・ノイマン博士ですか?」


「ああ、名前くらいは知っているだろう? 銀河連合始まって以来の天才科学者だ。彼女が今、この艦に向かっている。君たちとの面会を求めてな」


 マディの口からとある科学者の名前を告げられた2人は、顔を見合わせる。


「それは…なんていうか、突然ですね」


「なんでルーシーさんは私たちに会いたいんですか~?」


「さあな私には彼女の狙いはわからん。ただ、司令部からの許可が降りている以上、変な用事ではないだろう」


 厄介事かもしれんがな…とマディは最後に付け足した。

 そもそも、マディの元にルーシーから連絡が入ったのはつい5分前の出来事だったのだ。

 シリウスと通信をつなげたルーシーは、司令部の許可証と一緒にシリウスへの入艦を求めてきた。

 こんな出来事は、マディの今までの軍人経験では体験したことのないものであったが、司令部からの許可をもらっていること、そして相手が全宇宙で随一の頭脳を持つ科学者の依頼ということもあって断ることはできなかった。


「噂によると、かの博士は時間にはかなりうるさいらしくてな…あと数分でこの艦へとたどり着くようなんだが…」


「艦長は博士にぱぱっと用事を済ませてもらって帰ってもらいたいって思ってるんですね~?」


「そういうことだな」


 ため息をつきながら、マディは答えた。

 そんな彼の様子を見て、ミソラとセレナは苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「では、行くとしよう。彼女の狙いはなにかは分からないが…我々も早くゼウスに行きたいからな」


 18時には次回の超長距離ワープを控えているシリウスである。

 マディは1時間以内に会談を終わらせることを宣言すると、2人をつれて連絡艇の着艦口へと向かうのだった。

作品のご感想お待ちしてます! また、ブクマ登録・評価をいただけると泣いて喜びます。

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