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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第1章 喜びと混乱と
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4 超光速の科学者

 ◇ ◇ ◇


【ヘスティア恒星系 トランジットポイント】


 統一時間4月9日16時08分

 噂話がささやかれる迎撃艦シリウスの艦内。

 その疑惑の1つである医務室の隣室には1台のベッドが置かれていた。

 そのベッドの上では1人の少年が眠っている。


 クロウ・シノサカ。

 霊安室で目を覚ました後再び睡眠状態に入った彼は、それ以来1度も目を覚ますことなくそのベッドの上で寝息を立て続けていた。


 部屋は隣室にいるムールによって監視されていた。

 発見された際は低体温症と栄養失調に陥っていたクロウであったが、その後の点滴によって健康状態は改善されていた。


 彼が運びこまれてからこの部屋を訪れる者は1人もいなかった。

 それは部屋が高いセキュリティレベルで管理されているためであったが、部屋に入る権限を持ったマディやムールも彼の様子を見に部屋に入ろうとはしなかったのである。


 それはクロウの存在が一部の乗員を除いて秘匿されているからであったが、彼らの中にある潜在的な恐怖がそうさせたのかもしれない。

 死者が生き返るなどありえないことなのである。

 その原因が分かってさえいれば、彼らの対応もまた変わったのかもしれないが、この艦の設備ではそれを知ることもできずにいたのである。


 人間は正体不明の出来事に恐怖を感じるようにできている。

 もし部屋のセキュリティレベルが低く設定されていたとしても、この部屋を訪れる者は少なかっただろう。

 彼の生還を喜ぶ者は多いかも知れないが、原因が分からない以上、彼を気味悪がる人間の方が多いだろうというのがマディの予測だった。


「…………」


 クロウのまぶたが動いた。

 布団が動き、衣擦れの音がなった。


「…ミソラ、セレナ、おれ…」


 小さな声が、部屋に響いた。


 ◇ ◇ ◇


 同時刻。

 宇宙艦船が集う宇宙の港に、一隻の宇宙艇がワープをしてきた。

 鋭角的で翼を広げた鳥のように見えるそのフォルムは、一般的な紡錘形の艦艇の中でその存在を強く主張していた。事実、周囲に浮かぶ宇宙船の乗員たちは、みなその異様な宇宙艇に目を奪われていた。


 そんな高速艇スキーズブラズニールには、首都星ゼウスへ向かうオーディンの科学者、ルーシー・ノイマンが乗っていた。


「博士、ヘスティア恒星系へと到着しました」


 船長が客室に訪ね、ルーシーに報告をする。

 その時ルーシは小型の計算端末を使って論文を書いていた。


 ルーシー・ノイマンの年齢は16歳。まだ年端もいかぬ少女ではあったが、宇宙航行理論、開拓理論、宇宙怪獣研究、船体設計、殲闘騎設計といった様々な分野でトップの研究者として認識されていた。

 その頭の中には膨大な知識が入っており、彼女は優れた頭脳を持つ惑星オーディンの研究者たちの中でも別格の待遇を受けていた。

 その分、ルーシーは周りからの期待に応える必要があり、暇さえあればどのような場所でも研究に打ち込んでいた。


「ルーシー・ノイマンのひらめきと研究速度、その行動力は光速を超える」


 彼女を見たとある研究者がこぼした言葉である。

 これが、ルーシー・ノイマンをもっとも的確に評した言葉だと言えよう。

 彼女は周囲が驚くほどのスピードで研究をすすめ、またあることに好奇心を抱いた場合、その行動力を持って、考えられる限り最短の速度でその対象の調査へと赴くのだった。


「…次のワープ可能時間は?」


 ルーシーは目の前に浮かぶホログラムから目を離さず、船長へと訪ねた。

 その間にも、彼女は自身の論文執筆を数行分進めていた。


「2時間後になります…が、ここから先はヘスティアの管制に従わなければなりません」


「優先通行権を使えるでしょ? さっさと申請してちょうだい」


「すでに申請済みです。結果、次のワープ時間は22時30分に行うようにと回答が返ってきています」


「ありえない! どうしてそんなに待たなければいけないの?」


「一般的な高速艇では、ワープ後のチャージ時間は6時間はかかるものですから、それを基準に算出したのかと…」


「まったく…宇宙船ごとにチャージ時間を把握していないからこうなるのよ…ヘスティアの管制衛星のライブラリはどうなってるのかしら」


 困り顔の船長の話を聞きながら、ルーシーは深くため息をついた。

 だが、それはずいぶんと酷な文句でもある。この高速艇スキーズブラズニールはまだ試作途中の船であるために、次回のワープにかかる時間含め、銀河連合の管理するシステムに登録がされていなかったのだ。

 本来であれば、未登録の艦船であるこの船を通行させること自体が不可能なのだが、船長含めスタッフの努力によってなんとか管制官に通行の許可を得ていたのである。


「これじゃ、ゼウスに着くのは明日になってしまうじゃない…」


 それでも、十分過ぎるスピードではあるのではないかと思う艦長だったが、口には出さないことにした。

 彼自身、ルーシーの性格を十分に理解していたのだった。


「論文の執筆が終わる頃には、シリウスの人間と会えると思っていたのだけれど…」


「それですが、博士…」


「なにかしら? 早くゼウスに着く方法でもあるの?」


「いえ、それはないのですが…博士の目的である迎撃艦シリウスは、現在この宙域で次回のワープ待機をしているようでして…」


「あら…そうだったの」


 気まずそうな艦長の報告を聞いて、ルーシーはそう答えるが…

 ここで初めてホログラムから目を離すと、艦長の顔を見て


「それを早く言いなさいよ!」


 そう叫ぶのであった。


 その後、ルーシの行動は迅速だった。

 すぐさまシリウスへと連絡を取った彼女は、20分後には連絡艇に乗りトランジットポイント内で超長距離ワープの充填作業を行うシリウスへと向かっていたのだった。


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