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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第1章 喜びと混乱と
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3 噂話

 ◇ ◇ ◇


【ヘスティア恒星系 トランジットポイント】


 統一時間4月9日14時00分

 首都星ゼウスへと向かう迎撃艦シリウスは、ヘスティア恒星系への超長距離ワープを完了した。

 恒星ヘスティアを中心とするこの恒星系は、オリュンポス星団辺境に存在する小規模な恒星系だ。

 トランジットポイント内には宇宙戦艦、迎撃艦、パトロール船、商船、開拓船など、多種多様な宇宙艦船が浮かんでいた。


 人類の生存に適した恒星系を数多く持つオリュンポス星団ではあるが、星団周辺には宇宙艦船の航行が不可能な暗黒宙域が広がっている。

 そういった理由から、星団内に侵入するためには、このヘスティア恒星系か対極にあるヘルメス恒星系を通る必要があった。そのためこの恒星系は、その規模に比べて多くの宇宙艦船で賑わうポイントとなっていた。


「管制衛星へ、優先通行の信号を送れ」


「了解…申請、受理されました。18時30分に次回のワープが可能になります」


 このトランジットポイントでは、宇宙観船の通行が多いため管制衛星によって艦のワープ順が決められている。そのため、次のワープが可能になっても、数時間から1日ほど待ち時間が発生することがあったが、軍艦に関しては優先通行権を行使することによって、ワープのチャージが完了次第、次の恒星系へと移ることができるようになっていた。


「ひとまずは安心ですね」


 副長のティルスが微笑んだ。

 それはガイア恒星系からここまでの道中で、シリウスが宇宙怪獣と遭遇しなかったことを指していた。

 先日の戦いで殲闘騎の多くが傷ついたままであったため、宇宙怪獣との遭遇した場合、シリウスは危機的な状況に陥る可能性があった。

 人類の一大拠点であるオリュンポス星団内では宇宙怪獣は存在しない。もし現れたとしてもすぐに撃退されるため、この星団内の恒星系は安全な領域として認識されていた。


「安全な航路を進んだからな。ただ、私にとってはあの件の方が心配だ」


「あればっかりは、人の口に戸は立てられないものですから…先ほどビラーゴから問い合わせがありましたよ」


「そうか。私の対策も不十分だったな…」


 マディは憮然とした表情で、そう答えるのだった。


 ◇ ◇ ◇


 同時刻。

 迎撃艦シリウス艦内はある噂で持ちきりだった。


「なぁ、聞いたか…?」


「死んだはずの兵が生き返った…だろ? もう何度も聞いてるよ」


 それはマディが拡散を防ごうとしていた、クロウの復活についてだった。

 この噂の真実を知っているマディ、ティルス、ムール、ビリー、ワラッハ、サラッケの名誉の為に書いておくと、彼らは誰1人として、クロウの復活について他人に話していなかった。

 だが、昨晩の騒動の全体は見てないまでも、その一部を目撃した兵士が複数名いたのだ。


 彼らは綺麗好きのサラッケが失禁しながら幽霊が出たと叫び声を上げていたところや、ビリーとワラッハが霊安室から何かを取り出したところを見ていた。また、艦長の命令で霊安室が封鎖されたこと、空室だったはずの医務室の隣室が、高いセキュリティレベルで管理されるようになったことから、ある結論に行き着いたのだった。


「聞いた話じゃ、あのパイロットってオーディンの研究所で作られた、人工生命体だったって話だぜ?」


「マジかよ…俺はあいつが軍の実験体にされて、その副作用でいつもぼーっとしてたんだって聞いたぜ。カテゴリー5を倒せたのは、副作用が切れたからとかなんとか…」


「…話が違うな」


「でも、人工生命体かつ実験体って可能性もあるぜ?」


「なるほどな!」


 大きな作戦が終わったこともあり、気が抜けた乗員たちは娯楽を求めていた。

 そのためこの噂は、彼らの娯楽として広く伝播してしまったのだった。

 そして、噂が広がる過程で話に尾ひれがつくのは仕方のないことだろう。


 乗員の大多数が、この噂を興味半分、面白半分で語っていたのだが、そのことに不快感を示す者もいた。


 食堂で、噂話をしていた2人の男たちの席の隣に、激しい音を立ててトレーが置かれた。

 音に驚いた彼らが見たのは、自身の不機嫌な表情を隠そうともしないミソラだった。

 小柄ながらも、迫力あるその顔を見た男たちは、噂話をやめるとそそくさと席を立った。

 そんな彼らを見送ったミソラは、ふんと鼻をならし、席についた。


「み…ミソラ~?」


 ミソラの後ろにいたセレナは不機嫌な友人の態度に戸惑いながらも声をかけた。

 彼女はトレーを持ったまま、彼女の顔を覗く。


「なに? セレナ、座らないの?」


「す、座るけど~。ミソラ、あの話…本当に嫌なんだね~」


 セレナはミソラの向かい側の席に座ると、苦笑いする。


「まぁね、誰が情報の出所か知らないけど、不愉快」


「そっか…」


 ミソラがこの噂話を聞いた時、彼女は他の兵士のようにそれを笑い話にすることはできなかった。

 それはシグルド内に留まるクロウの存在を知っていたということもあるが、何よりも噂話の中にクロウをあざ笑うかのような内容が含まれていたことが彼女を不快にさせたのだった。


「なにが人工生命体よ、実験体よ! アイツはそんなんじゃない、ただの人間だったじゃない!」


「うん、そうだよね~」


 セレナ自身も、次々と創作されていくクロウの逸話には辟易としている様子だった。

 だが、彼女の顔を見たミソラはセレナ自身はこの噂話に対して、淡い期待を抱いているのだと察していた。


「でも、セレナは信じたいのよね、この噂」


「まあね~。ミソラはクロウくんに帰ってきて欲しいって思わない?」


「それは…まぁ、そうだけど…」


 我ながら、歯切れの悪い返事をしてしまったと思うミソラである。セレナがいぶかしむような表情で彼女を見つめた。


「でも、現実的じゃないっていうか…どうしても信じられないのよね」


 ミソラ自身も、もし自分が何も知らなければ噂話を信じたいと思っていただろう。

 だが彼女は知っているのだ。クロウの魂が現在、自身の愛機の中にいるということを。


「そっか~…でも、火のない所に煙は立たずって言うし…私は期待しちゃうな~」


「…ええ、そうね」


 目を輝かせるセレナを見つめながら、ミソラはスープが入ったカップに口をつけた。


 それにしても…なんで、こんな噂が立っちゃったのかしら。

 でも、もし、もしも…噂話が本当で、クロウの体が生き返ったとしたら…

 アイツの魂を、あるべき場所に戻してやれるのかもしれない。


「ミソラ~それ、よく飲めるね~」


 そんなことを考えていたミソラだったが、セレナの声で意識を現実に戻す。


「え?」


「それだよ、そのスープ!」


「…うわっ!?」


 そこで、ミソラは気がついた。

 彼女が口に含んだスープが、食堂で一番不人気のメニューであったことに。

 塩辛く、どろりとした食感の液体は、ちょうどミソラののど元を通ったところだった。

 苦いような、生臭いような、なんとも言えない後味が、口内に広がり、ミソラは顔をしかめるのだった。



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