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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【鼓動編】 第1章 喜びと混乱と
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2 艦長の受難

 ◇ ◇ ◇


 時は前後して、統一時間4月8日20時00分。

 迎撃艦シリウスの艦長、マディ・マンディ大佐は艦橋にて銀河連合軍総司令部から送られてきた通信文を読んでいた。


 そこには今回の作戦に関するねぎらいと、ガイア恒星系での戦いについて直接話を聞きたい旨。そのため迎撃艦シリウスはフィフス・サン恒星系へ帰還する前に、銀河連合首都星ゼウスへと寄港するようにと書かれていた。


 特段、驚かないマディである。彼らの戦功は首都星へと呼び出されるほどに、優れたものだったのだ。

 おそらく、数時間前に彼が送った報告書の内容が首都星にいる将帥たちの目に止まったのだろう。

 マディは総司令部へゼウスへと向かう旨を返信すると、艦の舵を首都星へと向けさせた。


 そんな彼がクロウ蘇生の報せを聞いたのは、仕事を終えて自室に戻った後のことだった。


 統一時間4月8日20時40分。

 その時、マディは部屋で一杯のウィスキーを飲もうとしていた。


 個人的な酒は艦に持ち込まない主義のマディだったが、今回の戦いを終えた後、彼は久しぶりに酒を飲みたいと思った。

 そのため食堂のコックに頼んで1本だけボトルを融通してもらっていたのだ。


 一杯飲んだら、ゆっくり眠るとしよう。


 戦闘続きであり、ほぼ不眠不休で働いていたマディはそんなことを考えながら、氷を入れたグラスにウィスキーを注いだ。氷に触れた酒がグラスの周囲にピートの香りを広げ、マディの嗅覚を楽しませる。


 作戦の成功に、乾杯。


 マディが、グラスに口をつけようとした時であった。 

 彼の元に、医務室からの通話が入る。


「なんだね」


「お休みの所申し訳ございません。ただ、至急艦長のお耳に入れておきたいことがありましたもので…」


「そうか…言いたまえ」


 通話相手のムールの声音から、マディはこの報せが悪いものであることを察知していた。


 これでくだらない用件だったのなら、至福の時間を邪魔された怒りをぶつけようと考えていたマディだったが…報告を聞き終えた彼はウィスキーに口をつけずに、医務室へと急ぎ向かうことになるのだった。


 ◇ ◇ ◇


 統一時間21時00分。

 霊安室から運び出されたクロウの肉体は医務室へと運び込まれていた。

 マディが部屋を訪問した後、ムールはクロウの肉体について現状で把握していることを全て共有した。

 その報告には、クロウの肉体が生き返った以上に常識の埒外である内容が含まれていた。


「霊安室のしかも低温環境にいたにも関わらず蘇ったこと自体がすでに驚くべきことではあるのですが…一番驚くべきことは、これですね」


「傷が、消えている?」


「はい、致命傷となった腹部の傷の他、死亡を確認した際に彼についていた全ての傷が…なくなっていたのです」


 通常、死体の傷は治ることがない。しかし、ムールは彼に関する最後の検査資料――すなわち死亡報告書を見ながら検査を行ったのだが、その結果はさらなる謎を生み出していたのである。


「原因は?」


 ムールは首を横に振った。


「不明です。この艦の設備じゃどうにも…とはいっても、こんな短時間でかつ低温下の状況で傷を完全に回復する術なんて、この世にはありはしませんよ」


「では、彼は誰の助けも得ずに勝手に生き返ってしまったということか」


「詳しい検査はまだ終わっていませんが、現状ではそういう判断になります。ただ、1つだけ断言できることがあるとすれば…」


 無論、ムールは様々な角度からクロウの状況を確認していた。

 その中には、遺伝子検査も含まれていた。ムールはこの少年がクロウとは別人なのではないかと考えたのである。


「それはクロウ・シノサカは生き返ったということです」


 しかし、その検査を経て、彼が100パーセントクロウ本人であるということが判明していた。

 そのためムールは不可思議な診断結果を出すことになるのだった。

 死者が生き返ったと。


「そうか…」


 しばらくの思考の後、マディはムールに対してこの不可思議な少年を、別室で管理するよう伝えた。

 その後、警備長のビリー、衛生長ワラッハ、衛生士のサラッケを医務室へと呼ぶと、今回の出来事を他人に漏らさないよう厳命した。

 彼は艦の乗員に余計な混乱を与えたくなかったのである。


 また、マディは副長のティルスを船長室に呼び出すと、このことを伝えた。

 ティルスは今回の出来事に関してはまったくの部外者であったが、副長の耳には入れておかなければならないとマディは考えたのである。

 一方のティルスはマディからの説明を受けた際に、彼が酔っ払っているのではないかと疑ったが、彼のデスクの上にある氷が溶けきったウィスキーグラスと、ムールの診断書を見せられてマディが正気であること、また、クロウが蘇ったことが事実であることを認識したのである。


「それにしても…こんな不可思議なこと、どう説明すればいいのでしょうなぁ」


「それはゼウスの医療スタッフに判断してもらうさ。明日、このことを首都星に報告しようと思う」


 ティルスの疑問に、マディは疲れ切った顔でそう答えた。


「ひとまずはゼウスに向かおう」


「…はい」


「では、私は疲れたので、少し休ませてもらう」


「かしこまりました。艦長、良い夢を…」


「ああ、これ以上変なことが起きなければ、そんな夢も見られるだろうさ」


 その後、艦内では大きな事件は起きなかった。

 マディがいい夢を見れたかは分からないが、久しぶりに十分な休息を取ることができていた。


 ただし、彼はその晩、楽しみにしていたウィスキーを一口も飲むことができなかった。


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