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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【始動編】 第1章 終わり、そしてはじまり
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2 エリートパイロット?

 ◇ ◇ ◇


 クロウ・シノサカは銀河系内にある平凡な恒星系出身の平凡な少年だ。

 生まれてから16年間、彼は自分が住む惑星から一歩も出たことがなかった。


 宇宙開発により、毎年のように居住可能な恒星系が見つかる時代である。

 彼の周りでは自らが住む惑星に飽き、開拓者となる者が少なからずいた。また、毎日のように報じられる宇宙怪獣の被害に憤激し、軍を目指す者も同じくらいいた。


 一方でクロウはと言うと、そんな友人たちに流されることもなく、故郷の惑星で平凡な毎日を過ごしていた。

 クロウは開拓事業社や軍の説明会に1度も参加したことがなかった。

 彼は自分の部屋で夜空に輝く星々を眺めることだけできれば、それで良かったのだ。

 将来は宇宙に関わる仕事につきたいとは考えていたが、それは宇宙史の研究など、故郷の惑星の中だけで収まるものだった。


 そんなクロウを臆病者と馬鹿にする者もいた。しかし、クロウはそんな相手に何も言い返すこともなく、ただこう答えるのだった。


「そうさ。俺は臆病者だ。だから将来は、勇気が必要のない仕事につくよ」


 争いを好まず、ただ自分が生きたいようにマイペースに生きる。それがクロウという人間なのだった。


 そんな彼に転機が訪れたのは、ある冬の日のことだった。


「おめでとう。君は栄えある新型殲闘騎(スレイヤー)のパイロットに選ばれた。この惑星から人が選ばれるとは、私も誇りに思う」


 彼の家に軍の将校が訪ねてきたのだ。

 軍人の言葉を聞いた時、クロウはなんの冗談かと思った。そして、3日前に隣の家に住む5歳下の少年が殲闘騎(スレイヤー)のパイロットになりたいと言っていたのを思い出した。


「パイロット志望の子なら、お隣ですよ。勧誘ならそちらへ」


 クロウがそう答えると軍人は虚をつかれた様子だったが、威厳を保つように一度、咳払いした。


「いや、我々はクロウ・シノサカくんに用がある」


「俺は別にパイロットになりたいとは思っていません」


「では惑星開拓に興味が?」


 クロウはその質問に、ため息をつきたくなったのを覚えている。いや、もしかしたら実際についていたかもしれない。

 誰もが軍に興味が無いと言うと開拓者になりたいのか? と聞いてくる。逆もまたしかりだ。今の世の中、若者は開拓者か軍人になりたいと思ってるやつしかいない。


「いえ、どちらでも…自分はこの惑星で平穏に暮らせればいいと思っているので」


 その時の軍人の表情を、クロウは今でも忘れられない。

 臆病者が。口には出さなかったが、彼の表情がそう語っていた。


 しかし、臆病者だからと言って、クロウが軍の要求を辞退することはできなかった。

 新型の殲闘騎(スレイヤー)を乗りこなすには高い適正が求められていたためである。


 クロウは全宇宙の中で、トップの適正値を叩き出していた。

 彼は何度も、自分に適正なんかはないと訴えたがそれは認められなかった。


「君しかいない、君は人類の希望になるのだ」


 結局、クロウは軍――銀河連合軍に徴発され、故郷を出ることになった。


 ◇ ◇ ◇


【フィフスサン恒星系第二小惑星帯近郊 トランジットポイント】


 宇宙の暗闇の中を、1隻の軍艦が浮かんでいた。

 迎撃艦シリウス――全長350メートルの小型戦闘艦。紡錘形の船体は50年以上前から採用されている保守的なデザインだが、27騎の殲闘騎(スレイヤー)を搭載し、短時間で複数回の超長距離ワープが行える能力を有する最新の艦艇だ。


 統一時間4月6日17時15分。

 シリウスの展望室で、クロウは1人、遥か彼方に広がる星々を眺めていた。

 故郷の惑星を離れてから1年半が経っていた。彼は訓練をこなし、殲闘騎(スレイヤー)シグルドのパイロットとして、迎撃艦シリウスに赴任していた。


 シグルドは全宇宙で81騎しか生産されていない最新機殲闘騎(スレイヤー)だ。それが搭載されたシリウスも新造艦である。新進気鋭のエリート部隊。クロウはその部隊の一員としてこの艦に乗っていた。


「またここにいたの、アンタ…」


 澄んだ声が、展望室に響いた。クロウが声がした方――展望室の入り口へ顔だけ向けると、そこにはミソラが立っていた。


 ミソラ・アカツキ――クロウと同じ殲闘騎(スレイヤー)シグルドのパイロットだ。

 年齢はクロウの1つ下だが、訓練生時代からの同期だった。


 訓練を終えたばかりのミソラはパイロットスーツを着たままだった。

 パイロットスーツは身体にあわせて伸縮する。健康的で引き締まったボディライン、すらりと伸びた手足を見せつけられ、クロウは彼女から目をそらす。


 この格好の異性と話すのは、何年経っても慣れそうにない。


 ミソラはクロウをあきれた表情で見つめていた。

 もちろんそれは、目の前の男が自分の身体のラインを見て赤面したことにではない。そもそも彼女は、彼が自分のことを異性として認識していることに気づいていない。

 彼女があきれていたのは、クロウのパイロットとしての自覚についてであった。 


「あんだけやられたんだから、シミュレーターで訓練しようなんて思わないわけ?」


「今は撃墜されたショックがひどくてさ。それを癒さない限りは…」


「そうね。あんな初歩的なミスで落とされるんだもん。アタシなら3日は立ち直れないわ」


 ミソラはわざとらしく首を横に振る。

 1時間ほど前、ミソラとクロウは、殲闘騎(スレイヤー)を使った戦闘訓練を行っていた。

 結果は、ミソラの圧勝だった。

 小惑星群の隠れたミソラ騎は、近づいてきたクロウ騎に対して、恒星の光を目眩ましに使い一撃で決着をつけていた。


「宇宙怪獣が恒星の光を利用する作戦なんて取らないだろ…」


「そうね。そんな脳はアイツらにはきっとない。でも偶然、似たような状況になるとも限らないでしょ?」


 クロウの文句に対して、ミソラは的確な反論を返す。


「ほんと、なんでアンタなんかがシグルドに乗ってるのかしら。恥さらしもいいことだって、自覚はあるわけ?」


 ミソラが、人差し指を顔の横で弾く。

 同時に、クロウの目の前に、「艦内演習記録」と書かれた立体映像――ホログラムが浮かび上がる。

 クロウ・シノサカ…演習スコア28点、艦内順位18人中18位。


「シグルド乗りの中で最下位だってのは分かるわ。この艦に乗ってる子たちはそこそこできる子が多いし。でもね、旧式機にも訓練で負けるなんて、ありえない!」


 このシリウスに配備されているシグルドはクロウの物を含めて9機。それ以外の18機は旧式の殲闘騎(スレイヤー)だった。


「いい、アンタやアタシは、シグルドに乗ることができる選ばれた人間なの! そのプライドを持って訓練なさい!」


 別に選ばれたくて選ばれたわけじゃないよ。


 そう言い返したい気持ちを、クロウはすんでのところで抑えた。

 過去に似たようなことを彼女に言った結果、彼の左頬に赤い手形ができたのだ。


「じゃないとアンタ…初陣で死ぬわよ」


「…その時までには、なんとかしとくさ」


 シリウスは迎撃艦という特性上、人類生存圏内で宇宙怪獣が現れた際に急行し、それを撃退するという役割を担っていた。

 彼らがこの艦に配属されてから1ヶ月が経ったが、その間シリウスに出撃命令は下されていなかった。


 ミソラはこのことにイライラしているようだったが、クロウ個人としては出撃が無いということは世の中が平和だという証拠でもあるので、ずっとこのままであって欲しいとも願っていた。


「残念だけど、そんな悠長なことも言ってられないわよ」


 だが、そんな彼の願いは、1ヶ月で潰えることになった。


「さっき艦長から連絡があったの。宇宙怪獣出現の予報が出たって」


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