27 体内侵攻
◇ ◇ ◇
次元振動砲により、ドラゴン型の顔面は宇宙の彼方へと消し飛ばされていた。
現在、この宇宙怪獣の長首の先端は、断面となって極寒の宇宙空間に晒されている。
無論、顔を失ったとしても、宇宙怪獣はこの過酷な世界で生存することができる。その中でも強靱な肉体を持つドラゴン型は、失った顔を再生しようと細胞を首の先端部へ集めていた。
統一時間4月8日9時05分。
迎撃艦シリウス所属のシグルドたちは、細胞波打つドラゴン型の首の先端部へと到着した。
体表に密着すれば、今まで彼らを攻撃していた熱線は放たれない。
集まったのは8騎――つまりこの作戦に参加した全てのシグルドが健在であったが、1騎はダメージを負っていた。
「ごめんミソラ…避けそこなっちゃった」
「そんなことより、大丈夫なの!?」
セレナが乗るシグルドは、ドラゴン型の熱線で左脚を喪っていた。
「うん、左足はこの通り、あと左手も使えなさそうだけど…パイルバンカーは無事だよ~」
「そういう意味じゃなくて、セレナが大丈夫なのかって意味! もし怪我とかしてたら…」
「それは平気。ぴんぴんしてるよ~」
「それなら、いいんだけど…」
「ミソラ、指示を」
セレナを連れていくか迷うミソラに、カンナが声をかけた。
「見ての通り、ドラゴン型は再生を始めている。早く体内に入って爆弾をしかけなければ、作戦の成功確率はどんどん下がっていく」
「う、うん…そうなんだけど」
「ミソラ、私のことなら気にしないで」
セレナは自分の損傷が、ミソラの判断を遅らせている原因となっていることを理解しているようだった。
「こんな状態になっちゃったからって、置いて行かれても、安全な場所には逃げられないからね。中に入ろう」
セレナの言葉は、もっともだった。
セレナ騎をここに置いていったとしても、彼女が安全という保証はない。
再生したドラゴン型に襲われる可能性があるし、逃げようとした場合、熱線が飛んでくるだろう。
「…ええ、そうね。行きましょう」
ミソラは覚悟を決めると、シグルド全騎に突入を命じた。
「アレックス…先頭を頼んだわ」
「あいよ!」
アレックスを先頭に、前回の戦闘でα隊に所属していたシグルドたちがドラゴン型の体内へ――気管を通じて侵入する。続いてβ隊だった3騎。最後にセレナ騎とミソラ騎が続く。
シグルドたちは赤い肉壁に囲まれた空間を降りていく。
気管の幅は殲闘騎が複数機ならんでも余裕で通れるサイズになっていた。
「セレナ、大丈夫?」
「機体を動かす分には不自由しないから。安心して」
その言葉の通り、セレナは危なげなく機体を操縦しドラゴン型の気管を降っていた。
ミソラはセレナ騎と、自分の荷物――シグルドの入ったコンテナに注意を払いながらも機体を動かしていく。
時折、壁が動き、道が狭くなったり広くなったりする。
その光景を見て、パイロットたちは今自分が生物の体内にいるということを実感した。
「まもなく、ホールの拒絶領域内に入る」
「了解」
先頭のアレックスからの連絡が来たのは、ドラゴン型の体内に入って5分ほど経った頃だった。
拒絶領域。
ホール周辺に展開されたこの不可視のバリアは、外部からのあらゆる干渉を拒絶する。本来であれば触れた瞬間に機体が破壊されてしまう代物であったが…
「通過…完了」
ホールの内部と通じているドラゴン型の体内を通ることで、この障害を取り除くことができていた。
「…よし、それじゃあそのまま進んで」
ミソラは、アレックスの報告に胸をなでおろしながら指示を出す。
後は、目的地へと進むだけだ。
◇ ◇ ◇
【ガイア恒星系第11惑星近郊 ドラゴン型体内】
統一時間4月8日9時25分。
ドラゴン型の首――気管の道を通り抜けたミソラたちは視界が開けた場所を進んでいた。
「ストップ」
コクピットの中で自分たちの現在位置を確認しながら機体を進めていたミソラは、前を進むシグルドを呼び止めた。目的地に到着したのだ。
現在、彼女たちはドラゴン型の胴体前方までやってきていた。
「各騎パイルバンカーの準備をして」
ミソラが指示を出すと、シグルドたちは右腕に装備されたパイルバンカーのセットアップ作業を開始した。
右腕に装備されていたパイルバンカーの上部と側面部が開き、攻撃形態へと変化する。
ミソラはパイルバンカーのセットアップを済ませると、コンテナと機体を切り離した。
コンテナの中には上半身だけシグルドがいる。この機体を使うのは後だ。
「作業、開始!」
ミソラのかけ声で、パイルバンカーによる杭の打ち込み作業を始まった
シグルドたちは肉壁へパイルバンカーの先端を当てる。
パイロットがトリガーを引くと、装備内の火薬が炸裂し、その衝撃でパイルバンカーに装填されていた杭が外部へと射出された。
爆発により力を得た杭は、その衝撃をそのまま肉壁への貫通力へと変える。
杭が肉壁の表面を貫通し、ある程度の深さまで突き刺さるとそこからは自動で体内へと潜っていく。先端に取り付けられたドリルによって肉壁内へと侵攻しているのだ。
この一連の動作を終えるのを確認したミソラは、地面が揺れていることに気づいた。
ドラゴン型が、体内の異変――自らが攻撃されていることに感づいたのだ。
「なるべく急いで!」
「「了解」」
ミソラは機体背面のウェポンボックスから2射目の杭を取り出すと、パイルバンカーにセットする。
各騎に持たされた杭は7本ずつ。最低でも5本は撃ち込んでおきたかった。
ミソラは次の攻撃箇所を見定めると。機体を動かした。
◇ ◇ ◇
統一時間4月8日9時45分。
ミソラは7本目の杭を肉壁へと撃ち込んだ。
これでアタシの分は完了。
自分の作業に集中していたミソラだったが、ここでやっと周りを見る余裕ができた。
他のパイロットも順調に作業を進めているようだ。
カンナは6本目をちょうど撃ち終わったところで、アレックスは7本目を撃ち込む場所を探している。
セレナのみ、損傷により機体重量が軽くなったためか、パイルバンカーを使う度に機体がいちいち動いてしまい難儀している様子だった。しかし4本は打ち込みには成功していた。
「セレナ、杭を一本ちょうだい」
「ごめんね、私だけ遅れてるよね」
「いいのよ、アタシの分、もう撃ち終わっちゃったし」
ミソラはセレナ騎へと近づくと、ウェポンボックスから杭を一本取り出した。
それをパイルバンカーにセットする。
「アタシはちょうど手持ち無沙汰だったから。むしろ機体が不安定なのに4本も撃てた方がすごいよ」
ミソラはセレナを励ましながら、肉壁へ武器の先端をあてがうと、トリガーを引いた。
杭がドラゴン型の体内へと突き刺さる。
そろそろ、頃合いか。
パイルバンカーを放つ度に、体内の揺れは大きくなっていた。
バランサーがあるため、機体が倒れるということはなかったが、これ以上揺れが激しくなると、帰りに難儀することになる。
ミソラは各騎の作業進捗を確認する。ドラゴン型の体内には現在、合計49本の杭が撃ち込まれていた。試しにシグルドに演算をさせてみると、ドラゴン型を仕留めるには十分な量の爆薬が埋め込まれたと結果が出た。
「よし、皆きりのいいところで作業止めて! 撤収するわ!」
ドラゴン型を倒せるというのなら、長居する必要はない。
あとはだめ押しの作業をするだけだ。
ミソラは、シグルドに右腕のパイルバンカーの破棄を命じる。
シグルドからパイルバンカーが取り外され、右腕のマニュピレーターが使用可能になる。
ミソラは機体をコンテナの元まで移動させ、コンテナのロックを解除した。
「久しぶり…」
コンテナの中で眠るシグルドに、声をかける。
上半身だけとなったこの機体は、つい数日まで彼女の愛機だった。
「あなたをここに置いていくことになるのを、許してね」
そうつぶやいた後、彼女は遠隔操作シーケンスを開始する。
ミソラがプログラムを起動すると、コクピット内にホログラムが浮かびあがった。
同時に、コンテナ内のシグルドの目に光が灯り、機体が動き始める。
このシグルドには、遠隔操作用の改良が加えられていた。
ミソラの思考を、機体に設置されたダミーコクピットが受け取り、動きに反映させるようになっているのだ。
整備兵たちはこの機体をダミーシグルドと呼んでいた。
コクピット内のホログラムに、ダミーシグルドの視覚情報が映されている。
ミソラは、試しにダミーシグルドを動かしてみるが、普段乗っている時のような繊細な動きはこなせそうにない。
やっぱり、動きにラグはできるわよね…
だが、これでいい。
この機体に求められているのは、ドラゴン型の体内奥深くまで進むことだけなのだから。
「ミソラ、全機撤収準備が整ったわ」
ダミーシグルドの試運転をしているうちに、他の機体たちは撤収準備を終えていた。
「オーケー」
ミソラは意識をダミーシグルドから友軍騎へと移す。
「撤収開始!」
ミソラの合図と共に、8騎のシグルドと、ダミーシグルドが動きだす。
8騎は先ほど自分たちが通ってきた道を、1騎はドラゴン型の体内のさらに奥深くへと進んでいく。
◇ ◇ ◇
この時まで作戦は順調に進んでいた。
あとは、無事に宇宙怪獣の体内から出るだけ…
シグルドのパイロットたちは全員作戦の成功を確信していた。
しかし、彼女たちはまだ知らない。
大きな障害が、彼女たちを待ち受けていることを…
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