19 食堂勉強会
◇ ◇ ◇
【ガイア恒星系第11惑星近郊】
統一時間4月7日23時00分。
迎撃艦シリウス艦内の食堂では、10名を超すパイロットたちが集まっていた。
カテゴリー7の出現に伴い、待機を命じられた彼らは与えられた余暇の時間を自由に使うことが許されていた。
戦闘に参加していた彼らが訪れたのは食堂だった。戦闘時に過度の集中状態にあったため、失った栄養を取り戻そうと思ったのだ。しかし、食事を終えた後も、彼らは自室に戻る気にならず、こうして一カ所に留まっていた。皆1人になることを無意識に避けていたのだ。特にシグルドに乗る若いパイロットたちにその傾向が強い。
ミソラとセレナも、そんなメンバーの1人だった。
彼女たちは、戦闘中に一度休憩時間を与えられていたが、シグルドから降りると食堂に向かい、本日2杯目になるオートミールを食べていた。
「カテゴリー7なんて、どうすればいいんだよ…」
ミソラの対面に座っていたジョセフが、空になったオートミールの容器を眺めながら、暗い表情でつぶやく。
ジョセフは適正によってシグルドのパイロットに選ばれた少年だ。年齢はこの艦最年少の15歳。本来は絵を描くことが好きなおとなしい少年だった。傾向としては“元”シグルドパイロットであるクロウに似たパーソナリティを持つ。
「次元振動砲で一撃だろ。さっさと撃ちゃいいんだ」
そんなジョセフをスプーンで差しながらアレックスが軽い調子で答える。彼もシグルドのパイロットだ。ミソラやセレナほどではないがシグルドの操縦技術が高く。先ほどの戦闘ではシグルドα隊の隊長を務めていた。
「でも、次元振動砲を撃ってカテゴリー7を倒せなかったら? シリウスは動けなくなるんだよ?」
「あー、やだやだ。そういう風にネガティブなことばっか考えるやつぁ! カンナ、なんか言ってやれ!」
アレックスが呆れたように手に顔を置き、左隣にいる少女カンナに意見を求める。
「ワタシはジョセフの意見に賛同する。今の状態で次元振動砲を撃つのは危険」
「…お前もジョセフ側だったか」
「現在手元にある状態から、そう判断しただけ。誰かの側につくという表現は不適切よ」
カンナは表情を変えずに静かに答える。
彼女はいつもこんな調子で、自分の意見をストレートに伝える。
それは自分が所属するシグルドα隊の隊長であるアレックスに対してもそうだった。
「嬢ちゃん、どうして次元振動砲を撃つべきじゃねぇって思うんだい?」
若手パイロットたちの話を離れた場所で聞いていた、カドモスのベテランパイロットがカンナに質問する。
「嬢ちゃんが把握してる情報ってのも聞いてみてーな。俺はアレックスと同じように、すぐにぶっ放せって思ってる側だからよ」
「ワタシは専門家ではないのだけれど…」
「カンナ、アタシにも聞かせてもらっていい?」
ミソラも、カドモスのパイロットに続く。
彼女は、カンナの意見を聞くのが好きだった。彼女はミソラの同期の中でも人一番勉強熱心であり、その豊富な知識に裏打ちされた彼女の意見は勉強になるのだ。
「私にも教えてほしいな~」
セレナもミソラに追従する。
カンナは、諦めて自分の意見を話はじめた。
「次元振動砲の威力は絶大。それは誰もが知っている通り。ただ、そのデメリットも大きい」
「撃つとしばらく動けない、あとホールにぶつけるとホールが広がる…でしょ?」
「でも、一撃で落とせたら問題ないじゃん~」
「ええ、セレナの言うとおり。でも、艦長は次元振動砲を撃ってもカテゴリー7が堕とせない可能性が高いと考えたと思うの。ホールの特性が理由」
「ホールが広がるって話はさっき聞いたぞ」
「それとは別よ」
「それって…ホール表面の単方向拒絶性のこと…かな?」
ジョセフが、おずおずとカンナに質問する。
「ええ、その通り。あとは次元振動砲の対象補足の限界も関わってくるかしら…」
「なるほど」
カンナの回答に、ジョセフは満足げにうなずく。
「あの…カンナ、その単方向なんとかと対象補足の限界って…なに?」
一方、彼女たちの話について来れなかった他のパイロットを代表して、ミソラがカンナに質問をする。
「ホール表面の単方向拒絶性というのは、ホールが一方向からしか物を透過しないということ。“ワタシたち”の方からホールにいくら干渉をしようとしてもホールの周辺で拒絶されると言ったらわかりやすいかしら」
「ああ、そのことを単方向…拒絶性って言うのね」
カンナの回答を聞いて、ミソラは言葉の意味を理解した。
ホールの中から宇宙怪獣が現れるが、ホールの外からはいかなる物理的干渉も受けない。兵器による攻撃はホールの中には届かず、殲闘騎が突撃した場合ホール近辺でつぶれてしまう。
面白いのは、これが宇宙怪獣に対しても言えるということだった。宇宙怪獣の“全身”がホールから出た場合、彼らは二度とホールの中には戻れない。
「ええ、では次元振動砲の対象補足の限界についての説明に移るわね。次元振動砲の仕組みについては理解している?」
全員が頷く――もはや、食堂にいる誰もが、カンナの話に耳を傾けていた。
超長距離ワープは“艦がいる空間”と目標の座標に存在する“その艦に匹敵する空間"を入れ替えることで実現する。
艦の存在する座標と艦の体積、目標座標の設定いずれかにミスがあると、艦はワープに失敗する。
現在はワープに失敗することなど万が一にもないが、過去には自艦の体積の入力を間違った宇宙艦が真っ二つになって目標座標に跳んだことや、目標座標に隕石があったため、ワープした艦と寸分狂わぬ形の石像がワープ前の座標に跳ばされてきたこともあった。
次元振動砲は、この超長距離ワープの技術を流用した兵器だ。
補足した対象に超長距離ワープを行わせる。ただし、ワープ先の目標地点は1つではない。
この宇宙空間内の至る場所へ…合計して1兆を超える地点へと跳ばすよう指定するのだ。
このような指定をされると、対象の肉体は1兆に分割されて、それぞれの目標地点に跳ばされていく。
つまり、目標を細かく分割して宇宙の塵に返す。それが次元振動砲の仕組みであった。
「次元振動砲は補足目標の範囲が正確に測定できない場合、大雑把に座標を指定して撃たなければならない。とはいえ、確実に打撃を与えるため、今回はホール全体を覆う形で座標を指定することになるでしょう。すると…どうなるか…」
「ホール周辺以外の部分が消滅する?」
「おそらくは…ただ、その時に転移で、あのカテゴリー7の肉体をどれくらい消滅させられるかはわからないわ。次元振動砲がホールの拒絶圏を処理しようとして無駄にエネルギーを使ってしまうから」
「つまり、範囲を大きく指定しても座標内にある宇宙怪獣の身体全体を跳ばすことはできないってことね?」
「そういうこと。特にドラゴン型は再生能力も高い。一撃で倒せなかった場合、次に次元振動砲を撃てるようになるまでに、傷を癒やしてしまうでしょうね。それに、あのカテゴリー7はまだ全身を出してないから、攻撃を察知してホールの中に戻る可能性もある。そうしたら、次元振動砲は全くの無駄撃ちになるってわけ」
「なるほど…」
カンナの話を一番熱心に聞いていたのは、次元振動砲即時発射派のアレックスだった。
彼は今までの自分の意見を忘れたかのように頷いている。
このように自分が納得すれば、今までの自分の意見も簡単に翻すことができるのが、アレックスの美徳であり、悪徳でもあった。
「それじゃあ、確実に倒すにはどうすりゃいいんだ?」
「あのカテゴリー7が完全にこの宙域に全身を出してからでしょうね。ただし目標は動くから、複数艦で狙い撃つのが効果的…というわけで、ワタシならあのカテゴリー7の動き次第で作戦を考えることになるわ」
つまり、安全を期すには、他に次元振動砲を撃てる艦が必要ということになる。その結論は、つい数十分前にマディが考えたものと同じだった。
「だから、ワタシたちはいつでも本調子で戦えるよう、そろそろ本格的な休息を取ったほうがいいと思うんだけど、どうかしら?」
食堂にいたパイロットたちは、カンナの一言を聞くと、1人また1人と席を立つ。次の出撃まで十分に休息を取るようにと隊長のビラーゴからも言われていたことだ。
ミソラは、そんなパイロットたちの様子を眺めながら…1人、考えていた。
今の状況で、カテゴリー7を倒せる方法はないのか…と。
作品のご感想お待ちしてます! また、ブクマ登録・評価をいただけると泣いて喜びます。




