20 ドラゴン型
◇ ◇ ◇
統一時間4月8日00時00分
整備ハンガーでは、先ほどの戦闘に出ていた殲闘騎たちの整備が急ピッチで進められていた。
「状況によっちゃすぐに出撃ってこともあり得る! その時に整備終わってませんすみませんとか言ってもパイロットは許しちゃくんねぇからな!」
「「うっす!」」
整備班長の大声に、屈強な整備兵たちが答える。
そこはある意味で戦場だった。
整備兵たちは、自分が担当する殲闘騎のステータスを見ながら、傷んだ箇所を修理していく。
戦闘中の整備は時間との勝負だ。大きな損傷から順番に1つでも多くの異常を直す。これが彼らに与えられた任務だった。
「おら、おめえもぼけっとしてないで働け!」
「は、はい!」
整備班長に尻を叩かれ、新人整備兵も自分が担当するシグルドのステータスを確認する。彼の担当は殲闘騎シグルド クロウ・シノサカ機。現在はパイロットを変えてミソラ・アカツキ少尉の乗機となっている。
整備班長に怒鳴られはしたが、彼の仕事は少ない。
このシグルドは先ほどの戦闘で、ほぼ損傷なく母艦に戻ってきたのだ。
機体の現状が載ったステータスを確認しても、コクピット内の電源が時々ついてしまうという原因不明の異常以外は、特に問題は起きていない。その電源の異常についても機体に悪影響を与えないことは確認済みだった。
死んだ元パイロットには悪いけど、今のパイロットは機体の扱いがうまいなぁ…。
そんなことを考えながら、新人整備兵はシグルドの細かな傷を修理しはじめるのだった。
◇ ◇ ◇
「はっくしゅん!」
一方、死んだ元パイロットであるクロウは、コクピットの中でくしゃみをした。肉体がない彼に、くしゃみなどという生理現象が発生するのはおかしな話だったが、なぜか出てしまうので仕方がない。
不思議な話だったが、シグルドの一部となった後もクロウは笑ったり、くしゃみをしたりという体がないとできないはずのことができていた。また、これはあくまで認識の問題なのだが、彼が笑っている時、彼は口角が上がっていると認識するし、退屈になった時、あくびをしたと感じてしまう。
話を戻そう…
クロウは、先ほど現れたカテゴリー7のドラゴン型の資料を漁っていた。
シグルドは母艦シリウスから常に情報を取得することができる。そのためクロウは人類がアーカイブした、この怪獣の情報をすべて仕入れることができていた。
ドラゴン型、カテゴリー7。
その外見は首長の恐竜に近いと言えるだろう。ずんぐりとした胴体、陸上生物のような4本の手足、長いしっぽ、長く太い首は胴体と比べるとバランスが悪いようにも見えるが、大まかな形だけをみれば恐竜と読べなくもない。
恐竜に無い部分として強大な翼が2枚、胴体から生えている。また、顔に該当する部分はのっぺらぼうのようになっており、白く長い5本の触手が生えている。だが、これは顔を覆い隠す体表であり、中には口を含む顔が収まっているようだ。
記録映像を見る限り、ドラゴン型と呼ぶにふさわしい外見をした宇宙怪獣だ。
人類とそのドラゴン型との戦闘記録を見ると、その途方もない強さに頭が痛くなってくる。
宇宙戦闘艦を一撃で沈める熱線、殲闘騎をとらえて飲み込む触手、そして体の一部を破壊されても即座に再生する身体能力…
人類はドラゴン型との戦いにおいて、必ず複数の戦闘艦を喪っていた。
ドラゴン型の記録の中には、クロウがまだ一般人だった頃、歴史の授業で習った出来事も載っていた。
第1次太陽系会戦。
それは初めてドラゴン型が現れた時の戦闘だった。人類は当時の最新鋭宇宙戦艦10隻、戦闘機母艦8隻、宇宙巡洋艦60隻、その他小型艦艇200隻を動員し、これの撃退にあたった。
結果、人類はこの戦いに参加した戦闘艦のほとんどと、人類発祥の惑星である地球を喪っていた。
この敗北は人類にとってかなりの衝撃だった。この出来事から宇宙怪獣への対策が進み、人類は次元振動砲や、殲闘騎を生み出すことになった。数世紀前の歴史的イベントだ。
記録を眺めながら、クロウは考える。
果たして、現在の状況、戦力でカテゴリー7を打倒することはできるのか?
答えはNOだ。
彼ははじめ――この艦に乗っていたほとんどの殲闘騎パイロットと同じように、次元振動砲を撃ち込めばカテゴリー7を撃退できると考えていた。
しかし、データを漁り、その内容を吟味すればするほど――数十分前にカンナが食堂で殲闘騎パイロットに話したような理由から、ドラゴン型の撃退が難しいことを理解することになった。
なにか、手があればいいんだけど…
クロウは、再び記録を洗いはじめる。生前の彼ならここまで熱心になることもなかったが…“彼女”を死なせたくなく、他にやることもない彼にとっては、記録を漁ったり、戦闘のシミュレーションをすることが、唯一の生きがいとなっていた。
そうして、再び『第1次太陽系会戦』の記録を見直している時…
ドラゴン型の撃退方法を見た彼は、ある作戦を思いつくのだった。
これなら、いけるかもしれない!
シリウスに積まれた武器、回収された“物”を確認する。
必要なものは、どれも艦内で準備できる。
難しいなぞなぞを、頭をひねらせて答えを思いついた時のような快感がクロウを満たす。
だが、そこでクロウは致命的な出来事に気がついた。
このアイディアを、どうやってシリウスの人間に伝えればいい?
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