13 彼女たちの決意
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【ニュクス恒星系第5惑星近郊 トランジットポイント】
統一時間4月7日16時55分。
迎撃艦シリウスでは戦闘前の休息を終えた乗員達が自らの持ち場に戻り始めていた。
これから彼らは、作戦宙域――ガイア恒星系第11惑星近郊での戦闘に備えることになる。
ミソラ・アカツキは迎撃艦シリウスの廊下を歩いていた。
向かう先は艦の後方、機関室が集中するエリアだ。殲闘騎パイロットは、滅多に立ち寄らない区域である。
目的の部屋を見つけたミソラは、ロックを解除すると室内に入る。
すると、部屋には先客がいた。
「セレナ…いたんだ」
「…うん、一応作戦前に挨拶をしておかないとって思ってね。ミソラも?」
「ええ、アイツの機体に乗ることになったし、その報告に」
その部屋はシリウスの霊安室だった。
室内にに並べられた筒型の冷凍保管庫の中には、クロウの遺体が安置されている。
無重力かつ、パーツが飛び散りやすい宇宙空間では、撃墜された時にパイロットの遺体は残りづらい。ヒュプノス・タナトス恒星系での戦闘において、回収できた殲闘騎パイロットの遺体は彼のものだけだった。
「よかったよ、ミソラも出られることになって」
「うん、私も。艦で1人留守番なんてごめんだったしね。よろしく、セレナ」
「うん…」
前回の戦闘でクロウを喪ったミソラたちは、次回の戦闘では二人一組での戦闘を命じられていた。これは機動性の高いシグルドでは4機以上の編隊は戦闘効率を下げるという艦長の判断によるものだった。
「セレナ、大丈夫?」
「え…? うん、平気だよ。私はいつも通り~」
「嘘、元気ないじゃない」
「そう…かなぁ?」
セレナは少しだけ困ったように笑った。
「ううん、ミソラの言うとおり…ちょっと、怖いかも」
そして、しばらく沈黙した後、そう認めたのだった。
「私ね、戦いなんて簡単だって…思ってたんだぁ~。シグルドはすごい機体だし、シミュレーションでも宇宙怪獣に負けたことなんてなかったしね」
どんな時でも、辛い訓練の時でものほほんとマイペースに笑顔を浮かべている。それが、セレナという少女だった。
「宇宙怪獣との戦闘だって、楽勝だって思ってたんだよ。実際、前の戦いの時も…はじめは、敵をどんどん落とせたし…でも、違ったんだぁ」
「セレナ…」
ミソラは、セレナのことをどんな時でも余裕でいられる人間なのだと思っていた。それこそ、仲間の死からもすぐに立ち直れるような、そんな人間なのだと思っていた。
「バッタ型と戦ってる時、私は何もできなかった…ミソラが襲われている時も助けることなんてできなかったし…クロウくんを、止めることができなかった…」
だが、彼女はミソラが思っていた程、強い人間ではなかった。
ミソラは、クロウの戦死を知った時のセレナの泣き顔を覚えていた――セレナは、普通の女の子だった。
今も、笑顔を浮かべているが、その表情は暗い。
「アタシだって、同じだよ。セレナ」
「……ミソラ」
「あの時、アタシもなにもできなかった。すぐにやられて…アイツが戦っている姿を、眺めていることしかできなかったんだ…それは、あの時アタシじゃなくて、例えばセレナが襲われてたとしても同じ…何もできなかったと思う」
彼女らは全宇宙から選ばれたエリートだ。
幼くして最新鋭殲闘騎のパイロットを任せられ、階級も士官クラス。
実際の戦場は知らなかったが、自分たちの戦力と責任がどれほどのものか理解しているつもりだった。
そして、理解していると思っていたが故に、実際の戦闘を経験するまでは、宇宙怪獣に対してもあまり脅威を感じていなかった。
だから、仲間を喪う結果を招いた。
「アタシ…もう、こんな思いはしたくない。もう誰かを喪うなんてうんざり」
「……うん」
「でも、誰も死なないなんてのは、きっとありえない。だから、せめてアタシたちは必ず生きて帰りましょう」
「うん。お互い、無茶なことはしないようにして…ね」
「ええ」
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