12 クロウの決意
◇ ◇ ◇
【ニュクス恒星系第5惑星近郊】
統一時間4月7日 11時55分
その時、彼もまたシグルドに乗っていた。
シグルドの前にやってきたミソラはクロウに断りもなく、コクピットを開くと、そのシートに座った。
やっぱりこれは、よろしくない!
シート越しに伝わるミソラの感触を受け取りながら、クロウは叫んだ。
クロウは女性のパイロットスーツ姿を見るだけで、赤面し、顔をそらしてしまう純情な少年である。直に女性に触っているという状況は完全に彼のキャパシティをオーバーしていた。
しかし、クロウは彼女が起動確認をしてから、また次もこんなことになるだろうと予測はしていた。そのため、彼女の感触を味わいながらも、冷静さを保ち続けることがなんとかできていた。
彼女と、エインヘリアルシステムと接続が行われる。
同時に、彼女の思考がクロウへと届けられる。
――よろしくね。
一番はじめに聞こえたのは、彼女からシグルドへの挨拶だった。
そういえば…起動試験の時も、操縦に関係のないことを考えていたよな。
クロウは自分がシグルドを操縦している時のことを思い出した。
シグルドに対して、語りかけた経験は、彼にはなかった。
――アタシ、この試験をなんとしても通過しないといけないの。だから、あなたは自分の力をしっかり出すよう、お願いね。
案外可愛い所もあるんだな。
それは戦死したからこそ知ることのできた、同僚の意外な一面だった。
シグルドの発進準備が整った。
「ミソラ・アカツキ…シグルド、出ます!」
そのかけ声と共に、シグルドはシリウスから飛び立った。
◇ ◇ ◇
統一時間4月7日 12時00分
「これより、慣熟試験を開始します」
「はい」
オペレーターの通信に答え、ミソラはシグルドを動かし始める。
それは、クロウにとって驚きの経験だった。
――あの空間まで、突っ込む…スラスターはどの方向を向いている? この機体の燃料系の癖を知りたい、情報は…
ミソラの思考が、波となって彼の元へ押し寄せてきたのだ。
クロウは1つ1つに耳を傾けようとするが、その思考量の多さに驚愕する。
例えば、推進剤を使って移動していたシグルドに急停止をかける行動――急制動1つをとっても…
――1秒後に…スラスターを逆噴射、機体のブレをここで覚えておきたい…やはり、前の機体とは癖が違うか…
シグルドを効率的に動かす方法を、次々と考え、実行に移していたのだった。
もちろん、エインヘリアルシステム――思考を受け取り補助を行うシステムの一部となったクロウは、ミソラの思考を受け取ってはその情報を機体の各部へと送り込まなければならない。
くそ、頭がパンクしそうだ!
ミソラの思考を機体の動きに反映するため、情報を精査する必要があるが、それを1つ1つ確認していてはシグルドの行動に遅れが出る。
それは、人間には検知できない程、ごくごく微少なラグではあるのだが…
――なんか、この機体…反応速度が遅い気がする…
…ミソラの思考を受け取り戦慄するクロウである。
こいつ、どれだけ把握してるんだ!
ミソラの情報をシグルドが受けるように、シグルドの情報は常にミソラの元へと届けられる。ミソラは機体を動かしながら、そのデータを参照するという驚異的な操作を行っていた。
…これが、トップパイロットの動かし方ってことなのか。
機体をそれなりにしか動かすことができなかったクロウにとって、この経験は自分と実力者――ミソラの実力の違いを認識する出来事となった。
やっぱり、違うんだな…俺たちって。
殲闘騎の効率的な動かし方など、あまり興味のないクロウではあったが、差を見せつけられて少しだけへこむ。
だが、そんなことでへこんでいるわけにもいかなかった。
なぜなら、彼の元には次々と彼女の思考が送られてきていて…
彼は、その情報を素早く、的確に処理することが求められていたのだから。
やれるだけ、やってみるか…
元から、機体の中でやることは何もない身である。
クロウは彼女の思考を少しでも早く読み込み、処理をしようと考えるようになっていた。
◇ ◇ ◇
統一時間4月7日 12時30分
シグルドは、全ての課題を終わらせた。
「合格だ」
艦長の声が、シグルドに届く。
そりゃそうだろう。
シグルドの中で、ミソラの操縦を見ていたクロウとしても納得できる結果だ。
「これほどの動きができるなら、次の戦闘でも問題なく戦えるだろう」
だが、艦長の言葉に…少しだけ不安を感じる。
それは、彼女の操縦に文句があるというわけではなくて…
機体の情報処理…エインヘリアルシステムであるクロウに問題があったからだ。
「こんなんじゃ、全然ダメ…」
艦長とのやりとりを終え、ミソラがつぶやく。
その心の中には、機体の動きに対する違和感が存在していた。
――反応が鈍い…というか固い気がするのよね。緊張しているのかしら?
そんな声が届く。
緊張はしてない、お前の動かし方に驚いてただけだ。
「前の飼い主に似ちゃったのかしらね、アンタは…」
「まあな、似たというか、今は俺がいる」
――そういえば、アタシと話してる時に、変に緊張している時もあったし。あれって何でだったんだろ? 訓練の前後で、よくそんな感じだったけど。
「…お前、気づいてたのかよ!」
ミソラのつぶやきにクロウは1つ1つ返事をかえす。
もちろん、彼女に彼の声は聞こえない。
だが、無意味なことだと分かっていても、彼はミソラと会話をしたいと考えていた。
それは、彼の中で芽生えた1つの感情が原因だった。
彼女への親近感。ミソラの思考を読み取り続けたクロウは、彼女に親しみを抱き、力になりたいと思ったのだ。
「しっかり目覚ましてよね。そして、アタシと一緒に仇を取りましょ」
「…ああ」
だからこそ、彼女が艦長に自主練の許可を取ったことがありがたかった。
クロウは彼女の思考を読み取り、即座に機体の動作に反映させられるようにならなければならない。
30分の訓練時間でできる限りのことはやろうと思うクロウなのだった。
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