16 人工惑星にて
ホールが出現したのは銀河連合の軍艦たちの避難が最終工程に入った時であった。
大小様々な穴が、宙域に拡がっていく。
予測によると、あと3時間後には宇宙怪獣が穴から姿を現すだろう。
人類の対応は冷静そのものであった。
どの艦も隊列を乱すことなく、当初の計画通りにこの宙域からの離脱シークエンスを取っていた。
ただ、艦砲のみが穴の方へと向けられていた。
艦の防衛はこの宙域に残る【彼ら】が行う。
戦闘ではなく避難をなによりも優先すること。
艦内に残った軍人たちは、緊張に体を震わせながらもその指示に従って行動していた。
◇ ◇ ◇
「はぁ…まさか本当に来るなんて」
ルーシー・ノイマンは呆れた表情でアリーヨを人工惑星内にある司令室へと迎え入れた。
「避難行動が完了するまでに宇宙怪獣出現の兆候が現れたら、僕はここに残る…そういう計画だとあらかじめ伝えておいただろう?」
一方、迎えられた側のアリーヨはいつもの飄々とした様子を崩さすに、そう答えた。
「あなた、一応軍のトップなんでしょ? わざわざこっちに残らなくたっていいじゃない」
「軍のトップだからこそだよ。旅に出ちゃえば僕はもう用済みさ」
航海をするなら、僕より適任な人間は何人もいるしね。
アリーヨはそう呟くと、司令室の椅子へと腰掛けた。
「幸か不幸か僕は他人よりも戦いの計画を立てるのが得意なようでね。荒れ狂う宇宙の海原を航海するよりも、こうして戦場で指示を出していた方が人のためになるのさ」
そんなアリーヨを見て、ルーシーは深々とため息をついた。
「はぁ、いつも思ってたけど、あなたって変わり者よね」
「君にだけは言われたくないさ」
◇ ◇ ◇
ルーシー・ノイマンは、人類の敗北が決定し、宇宙怪獣からの逃亡が決まった後も、こちら側に残ると主張した最初の人間であった。
曰く、シグルド部隊がクロウによる自律行動によって動き続けられるとしても、その基地となる人工惑星の管理には人手が必要だと。
人工惑星やその他周辺の小惑星帯の運用は、彼女の手によって自動化がされていた。
だが、それでも不測の事態が発生した際に、対応できる頭脳が必要だと彼女は主張したのだった。
もちろん、反対意見も出たが、
「あなたたちは人類が生き残るために今の計画を進めようとしてるんでしょ? だったら文句を言わずに私の言うとおりにさせなさい。そっちの方が成功率が上がるんだから」
という論文付きのルーシーの言葉に、誰も意見することができなかった。
ただ2人の男を除いては…
「ノイマン博士、君の論文は読ませてもらった。その上で聞きたいんだが、こと戦闘に関しては、君1人でシグルド部隊の運用をするのは厳しいんじゃないか?」
「自分もそう思います。相手は宇宙怪獣…その中には自分と同じ意識持つ者がいることを加味すると、自分とは違う考え方…特に戦術面で優れた力を持っている人がサポートに欲しいと思いました」
アリーヨ・リアリーとクロウ・シノサカ。
作戦の要として、こちら側に残るクロウはいい。
だが、そこにアリーヨも手を上げたのだった。
「なに、僕がいなくても艦隊はまわるさ。それよりもこっちに残った方がいいだろう。ああ、誰にも損はさせないつもりだよ」
そうして、協議の末、アリーヨもこちらに残ることが決まった。
◇ ◇ ◇
「本当に…後悔してないのよね?」
ルーシーは、くつろいだ表情でホログラムディスプレイを眺めるアリーヨを見つめながら、そう告げる。
「大丈夫さ。むしろノイマン博士、君はいいのかい? 今こちらに残ったら、避難民と合流するのはほぼ無理なはずだけど…」
「なに言ってんのよ。宇宙怪獣と人類の戦いをこんな間近で見られる機会なのよ? それにこの惑星には研究施設も十分に用意されてる。こんな良い環境頼まれたって出て行くわけないわ」
「…君らしいね」
「ええ、それに残るって決めたのも案外悪くない選択だと思ってるわよ?」
「まぁ、それもそうだね…なんせ…勝手知ったる友人が2人もいるんだから」
そう答えるアリーヨを見て、ルーシーは笑みを浮かべるのであった。
◇ ◇ ◇
艦隊たちが光を放ち、消える。
ヘビの道へと向けてワープを行ったのだ。
それをアリーヨとルーシーは司令室のホログラムモニターを通して見送った。
残る彼らに後悔はない。
人類を守る者としての使命のみが、その胸の中にあった。
別のモニターでは、ホールから次々と宇宙怪獣が姿を現す様子が捉えられていた。
戦いが、始まろうとしていた。




