15 不安とともに
宇宙の海原を、大小様々な船が列をなして進んでいく。
彼らの進む先には、輝く星々の光、そして大きくうねるガスが広がっていた。
ヘビの道――楽園へと通じる希望の道であり、唯一にして最大の難所である。
これから彼らは、長い時間をかけてこの道を踏破しなければならない。
ただ、生き残るために…
船団の先頭を進んでいた小型の宇宙艇が、船団の先頭から離れていく。
ヘビの道の入り口へとたどり着いたのだ。
後に続いていた船たちは、ここまで自分たちを誘導してくれた宇宙艇と、後に続く者たちに向けて色とりどりの信号弾を放つ。
【楽園で再会することを願う】
直後、開拓船団の艦艇たちは光に包まれ、その姿を消す。
短距離ワープによってヘビの道の内部へと進入を果たしたのだ。
◇ ◇ ◇
銀河連合軍旗艦ヴァルハラでも、そんな船団たちのやりとりは観測されていた。
「第1890船団、ヘビの道への進入を確認しました」
「これで、避難民の8割がヘビの道へと入れたわけか」
アリーヨはオペレーターの報告を聞きながら、ホログラムディスプレイを呼び出す。
避難スケジュールを見ると、あと40時間後には非戦闘民を乗せた全ての開拓船団が、ヘビの道へと入る予定となっていた。
オペレーション・エクソダス――人類の居住が可能な恒星系、シャングリラへと逃避作戦。それが始まってから5日が経っていた。
現在、作戦の進捗に遅れはない。経過は順調と言えた。
だが、良好な進捗とは反対に、ブリッジは重苦しい空気に支配されいていた。
理由は、未だに宇宙怪獣が出現していないこと。
人類に対して牙を向いてきた彼らが、この動きを見逃すとは考えづらい。
軍人たちは避難民を移動させている間に、複数回の襲撃が発生すると予想していた。
だが、今のところ襲撃らしい襲撃は起きていなかった。
だからこそ、彼らはプレッシャーに苛まれ続けていた。
「このまま、何も起きなければいいのですが…」
アリーヨの副官、チルが静かに呟く。
いつもは気丈に振る舞う彼女であったが、その顔には他の軍人同様緊張による疲れの色が見えていた。
「ああ、そうだね。僕らも戦わずに逃げることができる」
一方のアリーヨは、いつもと変わらない、飄々とした様子でチルの言葉に答えた。
「今回は戦えと言われてるわけじゃないんだ。あと2日経てば僕たちの移動も始まる。それまでは緊張しすぎず、いつも通りにやっていこう」
「そう…ですね」
彼の様子を見て、ブリッジの緊張が多少和らいだ。
そんな様子を見て、アリーヨは帽子を深くかぶるのだった。
あと2日か…
アリーヨは心の中で、ひとりごちる。
彼とて人間である。周りにはいつもの態度を崩さないが、内心ではそれなりの不安を抱えていた。だが、銀河連合の司令である彼が、そんな態度を表に出すわけにはいかない。
宇宙怪獣は必ず僕らを襲ってくるだろう。
問題はタイミングだ。
避難を始めた直後じゃなければ、次に来る可能性があるのは…
アリーヨは目を瞑りながら、襲撃のタイミングに合わせた作戦を頭に浮かべるのであった。
◇ ◇ ◇
ミソラたち殲闘騎パイロットは、避難用開拓船の展望室で短距離ワープを経験していた。
殲闘騎と別れた彼女たちは、他の軍人より早く避難艦艇に乗り込み、艦内の風紀維持に務める仕事が与えられていたのであった。
ワープを終えた後、外の景色を眺めたミソラは思わず息を飲む。
周囲に散らばる大小様々な小惑星、さらに磁気嵐による稲妻が次々と艦の近くで何度も炸裂し、艦を震わせた。
先ほどまでいたアスガルズ恒星系とは、全く違った環境。
「こんな障害物が多い場所にワープアウトするなんて…」
そうでもしなければ、人類は生き残れない…ということなのだろう。
ミソラはその事実を突きつけられて、思わず下を向く。
しかし、彼女は先日想いを告げた男を思い出した。
自分たちを守るために、1人残った男のことを。
…アタシはこんなところで、落ち込んでいる場合じゃない!
彼へと告げた言葉。
それを嘘にしないためにも、彼女は動かなければならない。
「大丈夫ですよ。外はこんなですが、さっきいた場所よりは安全ですから! なにかあればアタシたちに言ってください!」
ミソラは気持ちを切り替えると、不安に震える避難民たちを励ました。
それは、自分自身に対する励ましでもあった。




